コロナ禍においては手形の不渡りが猶予される!?
支払手形が不渡りになると何が起きるのか?
支払手形を切っている社長が、最も恐れるのが「手形の不渡り」ではないでしょうか。
この手形の不渡りについては、誤解も多いことから今一度整理していただきたいと思います。
手形の支払いを支払期日にできないことを不渡りと言いますが、同一手形交換所管内で、6ヵ月以内に2回の不渡りを起こした場合、「取引停止処分」を受けます。
取引停止処分になりますと、金融機関(銀行・信金など)との間で、2年間、「当座預金取引」と「融資取引」の2つができなくなります。
その結果、支払手形を切れなくなりますので仕入先へは現金で支払うしかなくなり、しかも、融資は受けられなくなりますので不足資金を銀行から借りることもできず、多くの企業は資金が底をつき倒産状態となることから事実上の倒産と言われることも多くあります。
ただ現実はより厳しく、不渡りを1回でも出せば、その支払いができなかった仕入先からは一気に取引縮小を迫られるでしょうし、以後の支払いは全て現金で要求されるでしょう。
また、1回でも不渡りを起こせば、日本中の金融機関がその事実を知ることになり、その時点で以後の新規融資は間違いなくストップするはずですので、1回の不渡りで資金繰りは破たんする可能性が高くなります。
このように手形の不渡りは社長にとって非常に大きなプレッシャーであり、「無借金経営よりもまずは無手形経営を目指したい」という方も多くいらっしゃいます。
コロナ禍では手形不渡りの救済策が用意されています
「手形が不渡りになったら会社はおしまいだ」という想いが強いと、手形期日における資金不足が頭をよぎった瞬間に冷静でいられなくなるのが普通です。
コロナの影響により先行きが見えない現状では、なおさら冷静にはいられないはずですが、実は、手形の不渡りについて国が救済策を用意しております。
4月16日に、金融庁と日銀が、銀行に対して上記の要請を行いました。
内容は下記の2点です。
①支払期日を過ぎた手形・小切手であっても取立や決済を行えるようにすること
②資金不足により不渡りとなった手形・小切手について不渡報告への掲載・取引停止処分を猶予すること
つまり、コロナの影響を受けている現時点では、手形の不渡りが起きないように配慮がされているのです。
この取り扱いが法律に明記された訳ではありませんが、金融庁と日銀の要請ですので銀行への強制力は強く、全国銀行協会のホームページにおいても下記のように「重要なお知らせ」として扱われています。
上記サイトでは、実際に4月から6月の間に、不渡報告への掲載・取引停止処分が猶予された手形の枚数と金額の実績報告がされています。
6月末時点で、手形の枚数で252枚、金額で4億3千万円程度ではありますが、形ばかりの要請ではないことが分かります。
実際の活用例は限られるかもしれませんが・・・
今回の取扱いは、あくまでも手形の不渡りが起きないよう猶予するものであり、当然、仕入先への支払い猶予を国が認めたものではありません。
仕入先への支払いが遅れることは変わりませんので、仕入先から仕入量を減らされたり、現金払いでの要求があることは想定しておく必要があると思います。
ただ、手形が不渡りになって一気に倒産に向かうという精神的プレッシャーからは多少でも解放される効果はあるかもしれません。
活用方法としては、
・銀行に融資を申し込んだが、他社の相談も殺到しており稟議に時間がかかってしまい、ほぼ間違いなく融資はしてもらえるとの内諾は得られたが、支払手形の期日までにどうしても融資実行が間に合わない
・得意先から突然、支払いを遅らせて欲しいとの依頼を受け、どうしても支払手形の期日には資金を用意できないが、10日後の売上代金の入金があればすぐに支払うことができる
このような、手形のジャンプを依頼して1ヵ月や2ヵ月支払いを延ばすほどではなく、資金不足が極めて短期間で解消できることが確実なのだが、手形の支払期日に資金を用意できない、といったケースでは活用できる制度かもしれません。
今後、フル活用できるかどうかと言われますと活用場面は非常に少ないかと思いますが、社長には是非「今は手形の不渡りまで猶予してもらえるんだ」というこの事実は知っておいていただきたいと思います。
経営危機に関する知識を普段から勉強されている社長はまずいません。
そのため、経営危機に陥りますと、多くの社長は先の見えない不安に頭が支配され、しかも知識も経験もないことから自信をもった判断もできず、選択してはいけない方法を選択してしまうことが多数あります。
銀行の意向ばかりを気にしてしまい、社員の給与をカットしたり給与遅配を起こしたり、仕入先へ値引きを強要したり支払いを遅らせたり、銀行員と違って税務署は自分たちの判断だけで差押えができることも知らずに税金を遅らせたり、そうやってねん出したお金で銀行へ返済を続ける社長が多数います。
こういう社長に対して「当行の返済を止めても結構ですから、社員・仕入先を優先してあげてください」とアドバイスできる銀行員がいれば本当にありがたいですが・・・。
経営が苦しくなった時ほど知識が身を守ることが多数ありますので、普段からの情報収集を是非心掛けていただきたいと思います。
「中小企業の財務チャンネル」
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