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Katsurao AIR 2023 Archives:阿部浩之 ABE Hiroyuki

風の便りは西から

A letter comes from west

映像:24分
Video: 24m

滞在していると、風が吹くときと吹かないときの差が大きいと感じる。ビュウビュウと風の音を感じる夜と、鳥の鳴き声や虫の声が聞こえる朝の差が楽しい。

葛尾には風を観測する施設がないらしい。気象庁の情報によると、周辺の4つの町には観測拠点があり、風力を測定している。

風は目に見えないが、風が運んでくるものは見ることができる。風をたよりに、葛尾と周辺の4つの町についてリサーチを行った。


During my stay in Katsurao I enjoyed the wind very much. There were some nights when the wind was blowing. Some mornings when the wind was stopped and I could hear birds chirping and insects singing. I enjoyed the difference.

There is no facility to observe wind in Katsurao. However, here are observation stations in four surrounding towns that measure wind power.

Following the wind, I researched Katsurao and four surrounding towns.
Wind is invisible, but what it brings is visible.

「放射能で一気に名前が知れた町だからね。まさか風を調べているとはね」
飯舘にある観測拠点は、田んぼが広がるのどかな地区の中に突然出てくる。

いまは役場に勤めている彼は、震災後に飯舘に引っ越してきたのだという。 放射能の汚染は気になるが、前を向いていきたいし
同じようなことを考えて、各地から集まってくる人がいるんです。
と、笑顔で言っていた。

葛尾から来ました。風について調べているんです。と言うと
「風と土の家」という移住体験施設があるよ、と教えてくれた。

その土地の特徴について話すとき、日本語で「風土」と言うことがある。
風と土が代表となって、その地域の特徴を作る。
みんな土については気にしていて、土からできたものをスクリーニング検査して、目を光らせている。

では風はどうだろう?
その土地にいつづける土とは違い、風は浮気性で、
すぐどこかへ行ってしまう。
でも、だからこそ風が知っていることはあるし「風のうわさ」という言葉も
風の性質に注目して人間が作り出した言葉なのかもしれない。

浪江に行く日は、いつも雨か曇だ。
今日も夏だというのに曇っていて、気温も低め。

港で撮影をしていたら、漁師に声をかけられた。
話をするうちに、ちょっとご飯でも食べようとなり中華料理を食べた。
野球が好きな彼は、楽天が3位になっていること、
2位も狙えそうなことを熱く話してくれた。
本当は原発のことや、処理水放出のことを聞きたかったが
突っ込んで話せなかった。

記憶は「風化する」というが、
なぜここに「風」が使われているのか疑問だった。

もしかしたら、風には
忘れられた全ての記憶が詰まっているのかもしれない。

海辺の防潮堤に立って、海からの強い風を受けると
気持ちがざわざわしてきて、
膨大な記憶が感情となって押し寄せてくるような気がする。

あるいはこの感情も、
時間が経てば風化してよく分からなくなるのだろうか。

「あの日、放射能を乗せた風がやってきて、葛尾もやられてしまった」
と言っていたおじいさんの話をずっと覚えている。

葛尾の外で葛尾について知ることはとても多かった。
自分が風となって市町村境界を飛び越え、人々の話を聞いて、
それを葛尾の中に持ってきてレジデンスが終わると、去って行く。
新しい話を持って、また来るかもしれない。
自分もそういう存在なのだなと思った。

気象庁のデータによると、葛尾にむかって吹く風は船引方面からの西風が最も多いらしい。風が運ぶ新しい便りは、西からやってくるのかもしれない。

ABE Hiroyuki
阿部 浩之

2011年 武蔵野美術大学大学院造形研究科美術専攻修了

ある地域にかつて生きた人や現在に伝えられる物を現在から読み解きなおし、その物と言葉との関係を再び立ち上げることを目指す。近年では、今を生きる人と過去に生きた人とをつなぐリンクを探りながら、言葉と物が交わる領域に注目して作品を制作している。
主な活動歴に、「旅はすみか / Journey Itself Home」 (Macina Locci/アメリカ・カリフォルニア州、世田谷美術館/東京、2019-2021年)、 「APT: Art Project Takasaki 2021」 (高崎駅前商店街/群馬、2021年)、 「中之条ビエンナーレ 2019」 (中之条町博物館/群馬、2019年)、「Findet Mich Das Welt?」 (Galerie 21 im Künstlerhaus Vorwerk-Stift /ドイツ・ハンブルグ 、2019年)、「Y 氏との 13 時間」 (switch point/東京、2016年)
フェローシップ:2019-2021 Japan-US Friendship Commission Creative Artists Program

2011 Musashino Art University, Fine Arts, MFA

Aims to reread from the present the people who once lived in a certain region and the objects handed down to the present, and to re-launch the relationship between the objects and the words. In recent years, she has produced works focusing on the area where words and objects intersect, while exploring the links between people who live today and those who lived in the past.
His main activities include ‘Journey Itself Home’ (Macina Locci, California, USA; Setagaya Art Museum, Tokyo, 2019-2021), ‘APT: Art Project Takasaki 2021’ (Takasaki Ekimae Shopping Street, Gunma, 2021), ‘ Nakanojo Biennale 2019″ (Nakanojo Town Museum / Gunma, 2019), “Findet Mich Das Welt?” (Galerie 21 im Künstlerhaus Vorwerk-Stift / Hamburg, Germany, 2019), “13 Hours with Mr Y” (switch point / Tokyo, 2016)
Fellowship: 2019-2021 Japan-US Friendship Commission Creative Artists Program.


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