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7話:月の家族

今日は珍しく、お嬢さまとお母様はミーチェさんとぼくも連れてお出かけ。
お父様が自動車というものでぼくたちをどこかに連れて行ってくれるんだって、ミーチェさんは朝からワクワクして話してくれた。
「前に一度、すっごく景色のきれいなところへ連れて行ってもらったのよ。
 ナインも楽しみにしてらっしゃい。ビックリするよ。」
ミーチェさんがそんなに嬉しそうな顔で話すのを初めてみた。
 
「さ、ナイン、ちょっと長い時間かもしれないけど、おとなしくしててね。」
ぼくはお嬢さまのひざの上ならいつまででもおとなしくしているよ。
ミーチェさんもお母様のひざの上でじっとしている。
どれだけの時間がたったんだろう?
しばらくすると、いつもの景色とは全然違った大きな空と広い木や花の場所に着いた。
ぼくは初めてみた景色にビックリしてしばらくお嬢さまの腕の中で目を丸くしているのが精一杯だった。
 
先にお母様の腕から降りていたミーチェさんが
「ナイン、降りておいで。気持ちいいよ。」
って誘ってくれたので、恐々、降りてみると、ぼくが生まれた場所とは違ったとても気持ちの良い匂いの草や花に囲まれてなんか嬉しくなって、走り出したお嬢さまを追いかけてぼくも走り出した。
こんなに気持ちの良い場所は初めてだ!
ぼくはここが草原という場所だという事を初めて知った。
お嬢さまもとても楽しそうで、いっそう輝く笑顔がまぶしかった。
 
でも、楽しい時間ってすぐに過ぎちゃうんだね。
お父様やお母様が帰り支度をする横で、大きな、真っ赤なお日様が沈んでいく景色をお嬢さまたちと眺めていた。
「・・・・・・・?」
なにか聞こえる・・・子猫の鳴き声のような・・・
「ねぇ、ミーチェさん、鳴き声聞こえない?」
「そうねぇ、あっちの方かしら?」
ミーチェさんが駆け出した後を追ってぼくも走り出した。
「ミーチェ、どこ行くの?ナイン、待って!」
お嬢さまが心配してついてきた。

すると、綺麗な小川の片隅の水草の茂みの中に箱の中で鳴いている子猫を見つけた。
「お嬢さま、この子、助けてあげて!」
ぼくとミーチェさんは思わずお嬢さまに言った。
「これはひどいな。助けてあげようね。」
お父様の手がお嬢さまより先に伸びて来てその子猫を抱き上げた。
「母さん、この子はぼくが育てる事にするよ。」
そのお父様のひと言に、お嬢さまもぼくたちも嬉しくなった。
空を見ると、もうそこには大きなお月さまが微笑んでいた。
その日からこの子もぼくたちの家族になったんだ。

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