帰ってきたツアーコンダクター
私の仕事はツアーコンダクター。
今は宇宙旅行のシーズンで、大変忙しい時期だ。
最近の流行りは、『M78星雲ツアー』と『惑星B612ツアー』が人気となっている。
しかし、この惑星には現地宇宙人が住んでいるため、ツアーコンダクターにとっては非常に厄介なツアーだった。
『M78星雲』の現地宇宙人は体長が40メートルもある巨大宇宙人で、逆に、『惑星B612』に住む現地宇宙人は、体長が10センチしかない微小宇宙人だった。
今回の勤務で私は、微小宇宙人の住む『惑星B612ツアー』に添乗しなければならなかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「お疲れ様でした。当機は間もなく惑星B612に到着します。」
15時間にも及ぶフライトに疲れきった乗客達は、安堵の笑みを浮かべた。
しかし、私はここからが大変になるのだ…。
「皆さん!今からお配りする装置を胸にお付け下さい。」
その装置は、少し大きめの赤いボタンのような形をしていた。
「何なんですか、これは?」
一番前の席に座っていた若い男性が、装置を指でつまみながら質問をしてきた。
「この装置は現地の環境に合わせるために、皆さんを現地の宇宙人と同じサイズにする装置です。」
地球連邦政府の取り決めた「宇宙旅行法」によって、現地宇宙人のいる惑星への旅行者は、この装置の取り付けを義務付けられている。
それは現地宇宙人の混乱を避けるためでもあった。
「万が一、この装置を外して元のサイズに戻った場合、惑星から強制退去してもらうことになりますので、ご注意下さい。」
私は見本を見せるように、装置を胸に付けた。
シュルシュルシュル…
私の体長がみるみる10センチのサイズにまで小さくなった。
それを見てツアー客達も、戸惑いながら装置を胸に付け始める。
「う…うわぁー!」
悲鳴とも歓声ともとれる声をあげながら、ツアー客達も体長10センチの小人に変身していった。
「こちらに小型シャトルバスを御用意していますので、順番に御乗車ください。」
ツアー客達は素直に従い、シャトルバスへと乗りこんだ。
「それでは、3日間の滞在をゆっくりとお楽しみ下さい。いってらっしゃいませ!」
ツアー客達を乗せたシャトルバスは母船を出発し、惑星B612へと降りていった。
「それでは船長、私も行って参ります。」
私は小型の宇宙バイクにまたがり、船長に敬礼した。
ツアーコンダクターはツアー客達の滞在期間中、現地宇宙人とツアー客達がトラブルを起こさないように、現地をパトロールしなければならなかった。
船長は大気圏外の母船で待機し、ツアー客達を宇宙から監視する役目を負っている。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1日目・2日目と何事もなく終わり、私は遅めの夕食を食べ終えた。
(今日も何事もなく終わって良かった…。)
私はパトロールで疲れきった身体をほぐすため、温めのお湯を張ったバスタブにゆっくりと浸かった。
「ふぅ…。今日は明日に備えて早目に寝るか。」
私が明日のパトロールに備えて、早目のベッドに潜りこもうとした瞬間、
ビー!ビー!ビー!ビー!
船長からの無線が鳴った。
「こちら船長。応答願います。」
「こちらツアーコンダクター。どうぞ。」
「ポイント・ゼロにて、ツアー客が暴れているもよう。至急、現場へ向かえ!」
「了解!」
私はバイクにまたがり、現場へ向かった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「うぉぉぉ!」
現場に到着すると、酒に酔っぱらったツアー客が巨大化して暴れている。
恐らく、酒を飲み過ぎたツアー客が、酔った勢いで装置を外してしまったのだろう。
「きゃーっ!助けて!」
現地宇宙人がパニックを起こして逃げ惑っていた。
(ヤバイ!このままでは、我が社が営業停止になってしまう。)
地球連邦政府にばれる前に、このツアー客を母船に強制退去させなければならない。
私はこの酔っ払いツアー客を捕まえるため、胸の装置を外した。
シュルシュルシュル…
「どやッ!」
私は暴れるツアー客を捕まえようと肩を押さえた。
バシッ!バシッ!
「離さんかーっ!」
ツアー客は暴れまくり、なかなか捕まえることができない。
(ふーっ。急がないと…。)
この惑星で元の地球人の大きさに戻ると、環境が地球とあまりにも違うため、通常では3分しか体がもたないのだ。
なおも暴れ続けるツアー客。逃げ惑う現地宇宙人。
(仕方ない…。)
私はツアー客に向かって構えた。
「必殺!スペシュー!」
シューーーーー。
スペシャル催涙スプレーがツアー客に命中。
私はおとなしくなったツアー客を抱え、船長に無線で連絡した。
「任務完了。引き上げお願いします。」
母船から、私たちを引き上げるための引力反転ビームが放たれる。
ゆっくりと私と私に抱えられたツアー客が母船に引き上げられていく。
下の方では、現地宇宙人が私に向かって、感謝の声援と手を振っているのが見える。
「ありがとー。正義の味方ー!」
私は照れながら、現地宇宙人にサヨナラのあいさつを返した。
「じゃッ!」
現地宇宙人達は私が夜空に消えて見えなくなるまで、手を振り続けていました・・・。