AgreementとDeedの違いについて

オーストラリアで契約を締結する場合、「agreement」と「deed」の2の形式があります。日本ではこのような形式の違いがないこともあり、agreementとdeedの違いが何を意味するのか疑問に思われる方も少なくないのではないでしょうか。この記事では、agreementとdeedの違いに焦点を当てて説明をします。

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1.Agreementには、当事者双方からの利益の提供が必要
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売買契約を思い浮かべてください。AさんがBさんに物を売るとき、AさんはBさんに商品を渡すことを約束し、対価としてBさんはAさんに代金を払うことを約束します。このように、「双方が相手方に利益の提供を約束をすること」は、Agreementが成立する要件の一つです。利益の提供には、売買契約の他にも、サービスの提供に対する対価の支払い(サービス契約)、労働力の提供に対する給与の支払い(労働契約)、借りたお金に対する利息の支払い(ローン契約)など様々なものがあります。

この利益の提供を、法律用語で「コンシダレーション(Consideration)」といいます。

すなわち、利益の提供が一方のみの場合はAgreementは成立しません。例えば、「無利子でお金を貸す」のは、お金を貸す側には利益がありません。「物をあげる約束」は物をもらう側にしか利益がないのでAgreementは成立しません。コンシダレーションがなければ、いくら書面に署名をして約束しても法的な拘束力は発生しません。

しかし、実社会では、コンシダレーションがなくても約束を守ってもらいたい場面が存在します。例えば次のような場合です。

• 個人保証人になる(個人保証をする人は何も利益を享受しません)
• 対価が発生していない商談の段階で、交渉の対象となるプロジェクトについて守秘義務を課す
• 従業員を解雇する時に、競合他社に転職しないように約束を取り付ける(従業員が得る利益はありません)

そこで、コンシダレーションがない約束にも法的に拘束力を持たせる方法として作られたのが、Deedという形式の契約です。

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2.Deedは、一方的な利益の提供でも成立する
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Deedでは、一定の形式を満たすことでコンシダレーションがなくても契約を成立させることができます。

ビジネス実務においては、契約関係が煩雑でコンシダレーションがあるのかないのか曖昧な時を含め、コンシダレーションがある場合においても、のちに契約が成立していないと判断されるリスクを回避する目的でDeedの形式を用いることもよくあります。

Deedがよく用いられる契約の種類
●  deed of termination (契約解除の合意書)
●  escrow deed (預託契約)
●  financial guarantee (保証契約)
●  letter of credit (信用状)
●  indemnity deed (免責証書)
●  confidentiality deed (守秘義務契約書)

AgreementとDeedの根本的な違いについては、理解いただけましたね。

次は、契約を交わす際の違いについて説明します。
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3.Agreementは、口約束でも成り立つ
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Agreementは、コンシダレーションの他に次の2つの要件があります。

1. 当事者間で法律上の関係を構築することに対する明確な意思
2. オファー及びアクセプト

Agreement は上記にコンシダレーションを含めた3つの要件を満たすことで成立し、口頭で行うことも可能です。形式的な面での要件はありません。(ただし、ビジネス実務においては、契約の成立やその内容を明確にするために文書で行うことがほとんどです。)

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4.Deedは、書面でなくてはならず、署名も所定の形式が求められる
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実はDeedも、コンシダレーション以外の要件はAgreementと同じで、「当事者間で法律上の関係を構築することに対する明確な意思」と「オファー及びアクセプト」が求められます。ただし、コンシダレーションが必要ないことから、そのような意思や受諾があったことを示すには、書面でしか証明できないとされています。

またその書面への署名も所定の形式が求められます。個人であれば証人の面前で署名することが求められたり、会社であれば会社法の定める署名の要件を満たすことが求められます。また、不動産取引に関するDeedなど、特定の事柄を扱うDeedには、各州法にてその形式が厳格に定められていることがあります。
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5.まとめ
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Agreement及びdeedは、いずれもビジネス実務においてはよく使われる形式です。両者の主な違いは、次の通りです。

AgreementとDeedの違いのまとめ
① agreementではコンシダレーションがないと契約が成立しない一方で、deedではコンシダレーションが不要である点
② agreementは3つの要素を証明できる限りにおいて形式上の制約はない一方で、deedには厳格な形式的要件が課せられている点

契約を締結する際には、上記の差異に留意しつつ、いずれの形式で締結する場合であっても、締結後に契約は実は成立していなかったという主張を回避するために、成立の要件がしっかり満たされるよう確認することが重要になります。

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