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アメリカ不動産 異常な売り手市場と格差社会

僕は、アメリカの製薬会社でがん治療薬の研究開発に没頭する日本人研究者です。転職に伴って西海岸ロスアンゼルスから東海岸ボストンへ大移動しました。

この移動に伴って、ボストン郊外に新たな家を購入し、ロスアンゼルス郊外の家を売りました。その経験の中で痛感したのが、超極端な売り手市場のアメリカ不動産とそこに潜む超格差社会でした。

ボストンでの家探し

ボストンへの移動に対して、僕と妻は2つのオプションを考えました。
オプション1.ボストンで新たな家を先に見つけ、ボストンへ引っ越した後にカリフォルニアの家を売る
オプション2.カリフォルニアの家を先に引き払ってボストンに移り、一時的にアパートに住みながら、新たな家を探す

オプション2は、引っ越しが2回になり手間がかかりますが、実際にボストンに移ってからゆっくり家探しができるので、現実的です。一方、オプション1は引っ越しが1回で済むので楽ですが、そんなにうまくボストンに家を見つけられるかが、大きなリスクです。でも妻と僕は相談して、とりあえず、オプション1にチャレンジしてみることにしました。

僕は仕事をしているので、妻がひとりでボストンへ飛んで、家を探してくれました。10日間余りボストンのホテルに滞在して何十件もマーケットに出ている家を周り探してくれましたが、なかなかいい物件に出会えませんでした。やっぱり10日くらいのボストン滞在でよい物件を探すのは無理か、とあきらめかかっていた妻のボストン滞在最終日に、良い物件が見つかったと妻から連絡が飛び込んできました。話を聴いて、写真を見せてもらうと、僕もすぐに気に入るとても良い家でした。まだ、売りに出されて数日しか経っていませんが、僕たちが見つけた日から2日後にオファーの締め切りがありました。僕たちはすぐにオファーを出しました。ぜひこの家を買いたいとオファーを出した家族が4件もいました。今は超売り手市場なので、誰もが何件もオファーを出して、ようやく購入に至ったと聞いていました。なので、僕たちも初めてのオファーが通るかどうかは全然わかりませんでした。しかし、何と売り手は、4件の中から僕たちを選んでくれたのでした。僕たちは売り手が希望した金額のままで購入することにしてオファーを出しました。他の3件はそれよりも高い金額でオファーを出したのに、僕たちが選ばれました。その理由は、僕たちが、家の購入契約を完了させた後も、売り手が次の家に引っ越しするまで60日間住み続けることを許したからでした。他の3件は購入契約完了と同時にすぐにでも引っ越したいと思っており、時間的な余裕がなかったのです。

1回目のオファーで、それが通り、家の購入に至れるのは極めてラッキーだと知りました。知り合いの中には何十件もオファーを出しても、いつも別の家族が選ばれ、なかなか家が購入できない人がいます。僕と妻はカリフォルニアの家に住みながら、それほど急がずにボストンの新居を探す時間的余裕があったので、初めてのオファーで受理されることができたのでした。

カリフォルニアの家を売る

ボストンへ引っ越す日が決まったので、今度はカリフォルニアの家を売る準備に入りました。ボストンへ引っ越すと同時に、カリフォルニアの家をマーケットに出して、オファーを待つことにしました。不動産屋さんは、今は完全な売り手市場なので、すぐにオファーが来るだろうと言ってくれました。その言葉通り、何とたった2日間で9件のオファーがありました。しかも僕たちが希望した金額をはるかに上回る金額でオファーをいただけたのです。9件の中で不動産屋さんが勧めるもっとも経済的に安定していてオファー条件のよい家族に家を売ることにしました。

オファーをくれたのは夫婦ともに大学教授という70代の夫婦でしたが、彼らが住むのではなく、娘夫婦に住んでもらうためにオファーを出したとのことでした。今のアメリカでは超売り手市場のため、経済的に余裕のない若い家族が、マーケットに出された希望売値でオファーを出しても、そのオファーが選ばれることは難しく、なかなか賃貸生活から抜けられないとのことでした。それを見かねた両親が、娘夫婦が持ち家を得る夢をかなえるため、破格の好条件でオファーを出してくれたのでした。不動産屋さんからは、オファーが通ったことを知らせると、その家族は涙を流して喜んでくれたと聞きました。

超売り手市場のアメリカ不動産と超格差社会

僕たちは家が予想以上に高く売れた訳ですし、買ってくれる家族もオファーが通ったことを涙を流して喜んでくれたし、不動産屋さんも報酬マージンが上がって、「三方よし」のハッピーエンドとなりました。でも、同時にアメリカが抱える超格差社会を痛感した思いでした。

この若い夫婦は、たまたま両親がお金持ちでこのような多大な援助がもらえたので、持ち家を持つという夢をかなえられました。でも、きっとこのようなケースはまれでしょう。超売り手市場のなか、破格のオファーが出せる経済的に余裕のある人だけが不動産を購入し、さらに購入した不動産で豊かになっていく。一方、経済的に余裕のない若い家族はずっとオファーが通らずに持ち家を持てず、価格の高い賃貸に住まわざるを得なく、さらに経済的な余裕がなくなっていってしまう悪循環に入っていってしまう。何とも言えない、超格差社会を痛感しました。そんな中からでも、強運をつかんでアメリカンドリームを成し遂げる人がいるから、すごい国だとも思います。







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