絲山秋子「沖で待つ」

俺は沖で待つ

本来ならこの言葉は
珠恵さんに発せられたと
解釈するのが順当だし
正当であるのだろう

それでも私は
この言葉こそ
太っちゃんが最期まで苗字呼びを
やめなかった、やめられなかった
及川への想いではなかったかと
思うのです。

そしてこのノートを
多分及川だけにしか
見せなかった
珠恵もそう思っていたのでは
ないかと…。

あのパソコンには
どんな秘密が隠されていたのだろう
太っちゃんは
本当は及川にその秘密を
打ち明けたかったんじゃないだろうか

あのノートは最初からカモフラージュで
珠恵さんへの優しさだったのではないだろうか

飛行機に乗った瞬間
取り返しのつかない一歩を
踏み出してしまったような気がして
胸が苦しくなりました。

この一瞬だけは
太っちゃんへの想いを
及川も
感じていたんだろうと
思うのです。

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