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【読書感想文】凪良ゆう『星を編む』

決して光り輝く星にはなれないけど
それを愛して、編んで、
物語を必要としている人たちへと
つなげようと踏ん張る
二人の編集者の物語。

二階堂絵里は
青埜櫂の最初で最後の小説
「汝、星のごとく」を刊行すべく
奮闘する薫風社の女性編集長。
気が強く簡単に頭は下げないけど
それはぶれない矜持があるからで
単に高飛車なだけではないようだ。

一方、植木渋柿
柊光社ヤングラッシュ編集長
青埜櫂と久住尚人の絶版となってる
漫画の復刊と完結編の刊行の為
こちらもやはり駆けずり回っている。

お互い手を組みコラボ目指して
作業を擦り合わせているが
本人達も息が合い
互いに相手の存在を心地良く
感じてもいる。
それでも恋にしてしまうのは
もったいないとも両者気がついて
いるようでもある。

周囲の嫉妬ややっかみに傷つきながらも
自分達の出来ることを、やるべき事をする。

途中植木は櫂の小説のゲラを読み
その自然体の文章に嫉妬を憶える。
最初に櫂の才能を見出したのは自分なのに
櫂の素を引き出せたのは何故二階堂なのかと。

それはやっぱり櫂が男で
植木も男で、二階堂が女性って
だけじゃないだろうか。
そんなものだと思うけどなー。
よく分からんけど。

完結編の作画が引退して主婦に収まった
小野寺さとるという設定がまた凄い。

刊行に至るまでに
植木の「会社は絶対作家を守る」という
素敵なエピソードもあったりして
二階堂と植木の10年越しの夢が
現実となって行く。

植木が櫂から完結編のプロットを受け取ったのは
櫂が病気になってから暁海と暮らした
高円寺の古いアパートということで
私はこのアパートが何だか好きだったことを
思い出した。暁海が櫂の看病をしながら
刺繍の仕事で生活を支えていた。
その部屋の窓際のリクライニングベッドで
病魔と闘い書き上げた最後のプロット。
受け取る時櫂は「必ず形にする」と言った
植木の言葉を遮って「約束なんかしたら
荷物になる」から、ええようにしたら良い
と返した。その優しく寂しい響きに植木は
櫂がずっと抱えてきた荷物の重さを感じず
にはいられなかった。
けど約束をしなかったことで
それは植木の中で星であり続けた。
だからずっと追いかけてこられた。

二階堂と植木をずっと駆り立ててきたもの
走り続けてこられたのは
やはり手の届かない星があったから
なのかもしれない。
櫂と暁海の胸にずっとあったあの夕星
あの金星を二階堂と植木もまた
追いかけていたのだろうか。


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