小樽移住 下見

「吹雪いてるところが見たい」という夫の提案で
北海道に移り住む前に一度、冬の小樽はどんな感じなのか下見に行くことにした。

2月下旬、寒さを覚悟しカイロ、手袋、帽子、ダウンと準備万端で小樽を訪れた。が、結果暑くて仕方なかった。

気温は最高2℃と出ているのに、どうしてそんなに寒さを感じないのだろう。東京の方がよっぽど寒い。北海道の寒さは寒さというよりもひんやりとした、心地よい冷気だ。

北海道の友人に聞くと、雪があると暖かいという。北海道でも雪の少ない地域は寒く感じるとのこと。確かに家は二重窓で、床暖房だったり、ガスヒーターだったり、寒冷地仕様なので東京より暖かいのは分かる。

でも外にいても東京は寒い寒いと首をすくめたくなるのに、北海道ではそれがない。やはり東京の寒さは「風」が原因らしい。

東京に住んでいるとあまり気づかないが、意識してみるとかなりの確率で夜は風が吹いていた。
風がある日とない日では体感温度が全く違う。

天気予報を見る度に東京と比べて「北海道は寒そうだなあ。あんな場所で暮らせるのだろうか」なんて思っていたが百聞は一見にしかず。気温と体感温度は違う。

新千歳空港到着後、小樽行きのエアポート快速に乗るために階段を降りると下から新鮮な空気が這い上がってきた。東京の風とは違う。とても心地よかった。

車内も混雑している東京とは違い、1列間隔で人が座っている。
空港から小樽に向かうまでの風景は、雪のない東京とは一変した白銀の世界。
やはり北海道を訪れるなら、冬が良いと再認識する。

小樽に向かうまでの間「ことに」「ていね」「おたるちっこう」などの駅のアナウンスがあるが、一体どんな字を書くんだろうと思っていた。
それぞれ「琴似」「手稲」「小樽築港」だった。漢字を見るとなるほど、と思うのだが。

やはり知らない場所はワクワクする。特に北海道は倶知安(くっちゃん)やニセコ、ルスツなどアイヌ由来の名前が、一体どんな場所なんだろう?と想像を掻き立てるから余計にそう感じる。

観光気分ではなく住む目線で見ているので、小樽築港はモールみたいのがあって栄えてるなあ、買い物はここかな、などと思いながら車外の景色を眺める。

新千歳空港から札幌までの間にある「北広島」は初めて北海道を訪れた時に「なぜ北海道なのに広島なんだろう」と思った駅。

これから会う北海道出身の友人に聞いたところ、開拓時代に開拓者の出身地の地名を付けた、とのこと。だから道内には「鳥取」なんていう場所もあるらしい。

東京でも徳川家康の家臣たちが自分たちの故郷の見える場所に「駿河台」などと名付けているから、やはり故郷を離れると望郷の念に駆られるのだろう。

途中停車駅ではエスカレーターのあるところには扉が付いていて、扉を開けないと中に入れないようになっていた。寒いからなあ…と思うが、でも東京のようにホームに待合室がない。
電車を待つ間寒くないのだろうか…
それとも電車が来るギリギリまでどこか暖かい場所にいるのだろうか。

札幌に着くとヨドバシカメラや馴染みの居酒屋の名前の看板が出てきて少し残念な気持ちになる。ここまで来たのだから東京とは違う、北海道オリジナルのお店を見たいと思ってしまう。

札幌には7分ほど停車したが、「特急とかち 帯広」行きの列車が停車していて、北海道ならではの地名に胸が踊る。東京に住んでいると十勝は行きたくても、遠すぎてなかなか行けない場所。北海道出身の友人に聞くと、The 北海道!という感じの広々とした場所らしい。ぜひ訪れてみたい。他にも北海道に住んだら知床や富良野など行きたいところはたくさんある。

途中鹿にぶつかって遅れる、というアナウンスを聞きながらも無事小樽に到着。
空気が新鮮で、美味しい場所だった。

そこから友人の迎えで寿司屋に向かう。
自分だけだったらなかなか入りづらい敷居の高そな店構えだが、奥には広い客席があり、お店の人もとても親切で、料理も美味しかった。

一度入ったところのある場所は全然違う。次からは自分たちだけでも来れそうだ。

それから近くのドイツ人がやっているドイツビール屋へ。
ドイツビール屋と言っても東京で想像するような店構えとはまったく違う。
店の真ん中に巨大な醸造樽がドーンと置いてあり、その周りを囲むようにテーブル席がある。
2階まで吹き抜けで2階席もあり、とにかく広くて開放感があり人も少なく、東京のように隣の席とくっ付いている、なんてことはない。

このパーソナルスペースだけでも北海道に来てよかったと思う。
そしてビールが安い。量も多い。
元々ビールは飲まないのだが、ホットハチミツビールやホットチェリービールはビールっぽくなく美味しく飲めた。
ここは毎週通ってしまいそうな場所だ。

小樽は以前来たことがあったが、札幌から30分程度で来れるということもあり、小樽運河だけ見て帰ってしまっていたので、きれいな場所だがそんなに楽しくもない場所、というイメージだった。

だが住む目線で見てみると、札幌からは近いのに落ち着いた街だし、もちろん運河はきれいだし、海も山もあるし、美味しいカレー屋さんや図書館、昔ながらの喫茶店もあり、最近はコストコもできたようで結構暮らしやすそう。しかも新千歳空港から1本で来れるのは大きい。将来的には新幹線も通るとのこと。

街中には趣のある歴史的建造物が多く、それをそのままコワーキングスペースにしたり、飲食店に改装したりしている。倉庫も多く、港もあり、横浜の赤レンガ辺りに似ている。

この建物から垂れ下がっているツララの大きさには唖然とした。自然の中でしか見られないと思っていた巨大ツララが普通に街中にあった。
そして建物の雪下ろしも人力でやっているのには驚いた。これは大変だろう…

年間何人もの人が落ちて亡くなっているとのことだが、こういった作業の機会化よりも都会のインフラ整備にしか目が向いていないことに心が痛む。

主要な道路はロードヒーティングのおかげで雪は積もっていないのだが、歩道などは雪が踏み固められているので気をつけて歩かなければいけない。

運河は昼間しか見たことなかったのだが、夜は光に照らされ、また美しい。
ただ最近は昔と違い、アジア、特に中国からの観光客でごった返しているとのこと。

しかも札幌に帰らずにそのまま小樽に宿泊するらしい。だから駅の近くにはホテルがいくつも建っていた。

翌日ホテルを出ると、冬の小樽には珍しく晴れ間が広がっていた。雪に日差しが反射して、眩しくて目を開けていられないほど。

ホテルの室内はヒーターの温度調整のレベルがいくつもあり暑いくらいだったが、外に出ると空港から出た時に感じたのと同じ、ひんやりとした気持ちの良い空気だった。

この日は急に暖かくなったようで、道路の雪も溶け始めていた。これが寒くなるとまた凍ってその上に雪が積もり、転びやすくなるとのこと。

東京から移住した人のブログを読むとスパイク付きのブーツが転ばなくて良いとのことだったが、北海道出身の友人に聞くとスパイク付きだと床に傷をつけてしまうので、コンビニなどのお店には入りづらいらしい。だからきちんとした滑り止めの付いているスノーシューズを勧められた。

その後友人の家にお邪魔したが、話している中で北海道との文化の違いを感じた。

まず北海道の人はコタツを使わない。
冬といえばコタツだし、一番暖かいものだと思っていたが、極寒の地ではコタツなどでは寒さに太刀打ちできないらしい。
確かにコタツは足元は暖かいが、上半身は寒い。

そこでガスヒーターと床暖房の登場。
床暖房だけで十分な暖かさで、隣の寝室などはヒーターを付けなくても暖かいようだ。
窓も厚い二重窓で、気密性が東京とはまったく違う。東京だって寒いのだからこれくらいしてくれればいいのに…

次に北海道の人は洗濯物を外に干さないとのこと。

確かに外は寒いし雪は降るし、特に小樽は日本海側で東京ほど晴天の日が少ないからなのだろう。
正直冬の晴天の有難みは痛いほどよく分かっているので、この冬の日照時間の短さが小樽暮らしの一番ネックになるところ。

でも雪があるのとないのではずいぶん違うのではないだろうか?
雪のないところで暗くて寒いと精神的にも来そうだが、雪があるだけで少しは明るいし、まあ仕方ないか、と思えるかな?と思いたい…

小樽に来る前は「北海道!」という括りだけで、小樽が日本海側などと考えたこともなかった。
それまで単純に日本海側の北陸、山陰は素敵だけれど住むのは厳しいかな、住むなら太平洋側かなとは思っていた。

でも北海道は日本海側、太平洋側関係なく「北海道」だった。恐らく関東出身の人たちは北海道に対してこのようなイメージを持っているのではないかと思う。

なぜなら「北海道に住むかも」と言ったら誰1人「北海道のどこ?」と聞いてくる人はおらず(初めから小樽、と言ってたせいもあるが)、皆「いいな〜北海道!」という反応だったからだ。

もちろん北海道でも釧路などの太平洋側は天気が良いらしい。でも逆に雪がないから寒く感じるとのこと。
こういう話は北海道出身の人から聞かないとなかなか分からない…

これから実際に住んでみて、ただ漠然と抱いていた北海道のイメージが覆されていくのが楽しみだ。

お昼は車で小樽の街を案内してもらった。
六花亭やルタオなどの土産物屋の並ぶ道が繁華街のようだが、案外この道が長かった。

人口も11万人とのことで、まったく小樽のことを調べていなかった身からすると、結構栄えてるなという印象。東京で言えば小金井市くらいの人口だ。それでも友人によると過疎の一路を辿っているという。

別の道にはCoCo壱番屋やユニクロ等もあり、主要なお店は揃っている。

実はニトリが北海道発祥というのも今回初めて知った。引越したら色々ものが必要だからニトリで購入したいけれど、北海道は送料が高いから東京で買って運ぶしかないかな…などと考えていたら、普通にニトリがあった。しかも小樽には、ニトリが出資した小樽芸術村がある。

昔小樽が栄えていた時の鉄道の跡も残っているらしい。今まで知らなかった色々なことをこれから知っていきたいと感じた。


天狗山スキー場にも連れて行ってもらった。
スキーは基本的にしないのだが、東京人にとっては一大イベントであるスキーがこんな身近にあるところが雪国だなあと感じた。

春が近いのにとてもきれいなパウダースノー。
しかも滑っているのはみんな地元の人たちで、オリンピック選手か?と思うくらい上手で、こんなところでは恐ろしくて初心者の私はスキーなどできない。
春や夏になったらぜひハイキングに訪れてみたい場所だ。

その後札幌まで送ってもらったが、たった1日しか都会を離れていないのに、もう都会が嫌だった。
札幌は地方都市だが、十分都会だ。
東京から札幌への移住は、雪があるかどうかの違いくらいだったので、自然を求めていた私たちの選択肢にはなかった。

機上の人となり、東京の街並みが見え、羽田空港に降り立ちTOKYO の文字を見ただけでうんざりした。帰りの電車内の密集度も北海道とは違い隣もびっしり人人人だった。

東京は悪いところではない。ただ人の多さが問題なのだ。
これからリモートワークなどが増え、地方移住が進み、少しでも東京の一極集中が減っていくことを願う。

翌日は仕事だったが、東京の街を歩いていると小樽の残像が強く、雪がないのが寂しかった。
朝の通勤でも小樽の余韻が続きボーッとした感じというか、気持ち的にゆったりしていて、何を今まで勝ち負けにこだわっていたんだろう?と真剣に考えるほどだった。
周りの人にも寛容になれた気がした。

が、一日東京で仕事しただけでその日の終わりにはもう忙しない東京モードに戻っていた。
東京のパワーは恐ろしい…
こうして都会は人のパワーを吸い取っていくのだ。

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