日本銀行券の向こうにいる人たち

 人間1人というのは、なかなか微力なものでして。群れを形成しなければ、強くないんですね。人間より頭が良くて、運動神経も良い動物もいますけれども、彼らはソロプレイなんです。

 チンパンジーは筋力もプロレスラー並みだし、フォトリーディングのように一瞬で画像記憶できる。個体としたら、人間より優秀です。でも人間ほどコミュニケーション能力、すなわち、知識の伝達が出来ないから、生物種としては人間の方が繁栄している。


 そもそも、我々ホモサピエンス以外にも「人類」は、何十万年か前まではいて、ネアンデルタール人とかフローレンス原人とかデニソワ人とかいたそうで、ネアンデルタール人なんか、脳の容量もホモサピエンスより多いし、筋骨隆々だし。チンパンジーの上位互換ですね。でも、コミュニケーションにより群れを形成する能力が、ホモサピエンス=我々のご先祖の方が上回ったらしく、結局、繁栄したのはホモサピエンスだった。

 ホモサピエンスの最大の特徴は「協力」です。100人ぐらいまでなら、本能的に群れを形成することができるし、それ以上の集団も、幻想や虚構(同じことです)をベースに、集団形成できる。

 となると、我々が自分の生活で気をつけるべきことは「誰と協力しているのか」ということです。現代社会は、複雑になってきており、これが見えにくくなっている。特に「お金」を介在させると、協力相手が見えにくくなっています。群れを形成しているんですが、誰と群れを形成しているかを知らないんです。


 我々がコンビニでチョコレートを買ったら、それは、ガーナのチョコレート農家や、カカオを運搬するタンカーや、タンカーの燃料を採掘しているアラブの国々とか、コンビニのCMに出演しているタレントの事務所社長とか、タレント事務所に融資している銀行の株主とか、おそらく何百万人と「協力」しているんです。でも、そんなことを分かってチョコレートを買っている人は、世界に1人として、いない。198円のチョコレートのうちの、いくらが、誰に行っているのか、分かっている人なんて本当に1人もいないです。

 もし、その何百万人を知ることができれば、そのうち何人かは「こいつとは協力したくない」という人だって、いるわけです。ひょっとしたら、カカオ農園では児童労働させているかもしれないし、アラブの石油王は無駄にフェラーリを乗り回すだけのボンボンかもしれないし、事務所社長は枕をしまくりかもしれないし。でも、お金を介在させると、そのような相手が見えなくなる。強力ではなく「搾取」されているような状態でも、相手が見えないから、どうしようもない。


 逆に、お金を介在させないシンプルな取引を増やせば、それだけ取引相手の顔は見えてくる。そうすると「良い人(あくまで自分が思う良い人)」と取引する割合が増える。

 「お金のない世界」という、ファンタジックな理想郷の本質は、自分が「良い人」だと思う相手との取引割合を増やす、ということです。お金とは、知らない相手との取引を可能にしますが、その弊害で、協力したくない人と協力していても分からない、ということがあるんです。

 理想は、お金がありつつ、皆が「良い人」になること、というか、少なくとも「悪いこと」を法律で取り締まれる状態だと思いますが。実際、日本でも労働基準法を守っている会社なんて少数派だと思いますし。現実世界では、法律は守られない。ならば、そこに背を向けるライフスタイルも選択肢の一つであろう、ということです。


 都会に住むと困るのは、お金を介在して、多くの人と協力せざるを得ない環境だからです。土地も所有していない(人が多い)。家も所有していない(人が多い)。それを助長するかのように、実家暮らしは「こどおじ」とか言われる。食糧もエネルギーも生産できないから、買うしかない。

 すると、知らず知らずのうちに、無数の人と協力していることになる、というか、搾取されている状態になる。でも一方で、多くの人と協力できるわけだから、選択肢の数は多い。スーパーの品揃えも豊かだし、エンタメもたくさんある。そういう楽しさは、都会にある。


 田舎は、生産している人が多くて、ただ、絶対数としての人数は少ないです。だから、協力する相手は少なくなり、一人との協力は深くなる。そこで「良い人」と協力するようになれば、それだけ生活が豊かになる、ということです。

 さらに、そこでお金を介在させなければ、単純に言えば、税金を払わないでサービスや財の交換ができるので、「日本国」を省いた協力ができる。日本国と協力したくないのであれば、お金を介在させない取引を増やせば良いだけです。ま、日本の向こうには、アメリカとか諸外国政府もありますし。


 個人間の取引を信用関係だけではなく、数値化したいのならば、お金を使うまでもなく、メモ程度に「数値」を発行すれば良いだけで、大きく言えば、オリジナルの通貨発行になるわけです。

 法的にグレーだと思いますが。メモ書き程度でいいんですよ。このぐらいの仕事をしてもらったから、今、負債を負っている、ということです。負債を負っていることを視覚化したのが、通貨発行です。日本銀行券(普通のお金)も、国債の引き受けが元ですから。それを個人間でやっても、同じです。そういう小さな通貨発行ぽいことをすることも、できる。


 ま、僕は人それぞれの事情があるので、お互いに「1万円の仕事」を交換するのは平等ではない、と思っているんですが。そこら辺は、好みというか、理由のない思想的な問題ですので、コミュニティ内での通貨発行をして、一般的な「平等取引」を増やしていくのも良いと思います。そういう取引は、顔の見えない、日本銀行券の先にいる人たちを省いた協力ができるので、良い人との取引割合が多くなり、結果、生きるのが楽になるだろう、ということです。またあした。

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