Art Outbound Digest vol.16
1:文化人類学について
この10日ばかりは大きな論争みたいなものは無かったですね。
なので、今回は少し切り口を変えて、現代アートと文化人類学の関係について非常に雑にまとめてみようと思います。
文字数は限られていますから、これを読んだだけで充分ということには全くなりませんが、2020年代の世界の現代アートの世界に漕ぎ出していく上でまず最低限これくらいの地図は頭の中に入れておいて良いんじゃないくらいの解像度でお伝えできればと。ね。
では、まずですね。何で現代アートのサブスク記事で文化人類学やねんという話から。はい、そこからです。だって文化人類学ってなあにってBingに聞けばそれっぽいこと教えてくれるじゃないですか。
というわけでBing先生に聞いてみたよ!
うーん、大学の期末試験の答案でこれだけだったら加藤先生は単位出さないぞ。
間違ってはいないんだけど、解像度が低いですからね。答えの。
なお英語でBing学生(ん?)に聞いても回答はほとんど同じでした。書き直して再提出させたいレベル。間違っちゃいないんだけどな!
さてさて、何故、文化人類学の話を私が始めたのかでしたね。
Power100の最新版を見てみましょう。
13位にアナ・チン Anna L. Tsingが入っています。
前回は2位でした。1位はNFTキャラだったので人間としてはトップ。
バリバリの一線級文化人類学者です。最近流行りの「人新世」のオルタナティブ概念としてPlantationoceneというのをダナ・ハラウェイと共同で提唱している人です。ダナ・ハラウェイはフェミニズム研究の大御所ですね。科学史の方法論で女性学を研究してきた大先生。それくらい知っとるか。だよな。
もちろん、何で文化人類学者がPower100の上位なんだよというブーイングもあります。これはアメリカの美術批評家の署名記事。これ実際のアート界の影響力ランキングじゃないだろという。
いやそれよりもPlantationoceneって何ですかっていうところが問題になるのですが、これまだ定訳が無いんですよね。定訳どころか日本語で議論してる人いないレベル。そうですね。敢えて訳すと「プランテーション新世」になりますかね。
これがわかりやすいかな。
なるほど。ああ、つまり、現生人類が地球環境にもたらした大きな変化を考える上で、人新世だと1945年以降のグレートアクセラレーションを最も大きな契機と見るわけですが(見るらしいです)、プランテーション新世はもっと前、ヨーロッパ人による南北アメリカの植民地化とそれによる大規模な植生の改変を地質学的な新しい時代の始まりと定義するのだと。
はい、ここで大事なのは人新世とプランテーション新世どっちが正しいかというところではありません。これ、間違えちゃいけないところです。人新世に対する対抗概念としてプランテーション新世という考え方を置いてみたときに、何が見えるのか。差分ですね。ヨーロッパ人による世界各地の植民地化と、第二次大戦後の高度産業化や核開発やプラスチックの大増殖。どちらもモノの領域で大きな変化が生まれていますが、その元になったのは現生人類の活動で、更に言えば植民地主義も大量生産大量消費社会も、そのバックグラウンドには思想があります。
キリスト教も信じていない連中の土地は取ったもん勝ちじゃとか。
いっぱい作っていっぱい使って経済ブン回すとみんな幸せになれるんじゃいとか。
どっちもダウトでしたけど。でも当時はみんなそれを信じてやってた。
そういう構造と現象と結果をアート作品の表現に変換している作家も、まあいっぱいいますよね。このメンバーシップでこれまでに紹介した作家たちの中にもいました。何人か。南米の作家で多い気がしますね。でも日本人がやったって良いんですよ?
アナ・チンの本はポンピドー・センターのショップでも大人気だったらしいですが、彼女だけじゃなくて、デヴィッド・グレーバーも読んでおいた方が良い文化人類学者ですね。去年、デヴィッド・グレーバーのこの本を読んだ上でメディアアート作れという公募がソウルのアートセンター・ナビでありまして、イギリスの美大の先生が勝ってました(笑)
そりゃそうなるかーという感想しかありません。
日本のデイリーポータルZ式「メディアアート」作家じゃあ手も足も出ないでしょう。
プランテーション新世以外にも、もっと基本的な話はあります。
1990年代にエスノグラフィック・ターン ethnographic turn と呼ばれる動きが現代アートの世界で生まれました。エスノグラフィというのは文化人類学や社会学で使われる方法で、ある研究の対象になる人やコミュニティのあれこれを詳しく記録していくことです。大まかに言えばね。
これを現代アート作品制作に応用する手法が広まったんです。
何故かというと、現代アートというのはBing学生も言ってましたけども、人類社会のありようを批評的にとらえて表現するのが基本です。これってこうなってますよねという構造、仕組み、そこにあるものの見方や考え方を把握した上で、それが持つ問題点を可視化してみせる。現代アートが始まったデュシャンの泉からしてそうでしたし。
みんな大好きアンディ・ウォーホルだってバンクシーだってちゃんと批評性を入れた上でああいうポップな表現をしているから現代アートなので、そういうものを省略して「ウォーホル3割、バンクシー3割、フランシス・ベーコン4割でミックスした画風でおそ松くんを描いてくれ」みたいにジェネラティブAIに頼んで吐かせたようなのを下絵にアクリル絵の具でカンバスに描いたこれ現代アートですだって有名な作家3人混ぜ混ぜしましたしお寿司というのは、本当はダメなのよ。
引っかかって買っちゃうウブな人はいますけどもね。アート投資とかアートで節税とかこれからはNFTアートとかいってSNSに差し込み広告だしてるような業者のとこには結構あるよね。あるんだよ。21世紀のラッセン商売だなありゃ。
好きならどんどん買ってあげたら良いですけど値上がりは期待しないように。友沢こたおは良いんじゃないかと思ってたけど3ヶ月に1度ペースで大規模個展やっててさすがに供給過多じゃないですかという気がしてきた。個展の開催場所も売り上げしか興味なくて作家の育成なんか考えてないよねという感じのとこばっかだし。
でも買ってあげてね。買えるなら。
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