note小説 三十路のオレ、がん患者 第7回 手術前夜まで
入院は生活に制限が加えられるのに暇で困る。
窓の桜も散り始め、根元に咲く菜の花が優しく見える。
世間では新年度で新学期だ。
オレは世間から隔絶されてメスを入れられると言うのに、世間では新入生や新入社員が入学して出会いを求める先輩や同期が物色している時期だろう。
実際にオレもしていた。
どうなったという事ではないが、物色自体を楽しんでいたのかもしれない。
その天罰なのかわからないが、入院病棟に閉じ込められている。
病室はどう見回しても「おじいちゃん」がほとんどだ。
ナースコール押してもすぐに来ないとか病院食はマズいとか患者や看護師が入れ替わってもこの話題は入れ替わる事はないだろう。
入院生活は、暇で生活に制限があるが、もう1つ。
プライバシーがゼロ。
カーテンで隣と仕切られているだけで医師も看護師も勝手に開けて入って来て用が済んだらちゃんと閉めていかない。
何だこいつら?
どういう教育を受けて来たんだ?
入院生活でこれはストレスの一つだった。
それにしても人生でこんなに食事をしてないのは、初めてだ。
確かに手術の時に食べ物があっては仕事にならない。
食べてはいけないと言われると、食べたくなる。
そんな時に限ってテレビの「ヒレかつ vs ロースかつ特集」に目が行く。
方々に連絡をすると、必ず「かわいいナース」という文言の入った返信が来る。
「紹介してね」だの「仲良くなっちゃえ」だの。
ケガで入院しようものならわかる。
周りの私と同じで「若いし初期だろうし大丈夫でしょ」という考えなのだろうか。
自分がガンで手術のために入院をしていて看護師に色目を使おうと思うか。
初期と末期でない事だけは確定している。
幸い・・・、いや失礼。
「オレが思う」かわいいナースはいなかったので事なきを得た。
という事で良いだろうか。
でも怒ってはいけない。
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