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イヤイヤフライト。

少し遅めの夏休みをとって、飛行機の旅に出た。

目下の懸念はやはり、2歳児の長時間フライト。
前回、台湾行きの飛行機で、未就学児は、というか、うちの子は3時間が限界では?と思っていた。

そして、今回、直行便で行けば6時間ほどで行けるところを、行きは2回の乗継を経て現地入り。

そして帰りに待ち受けていたのが5時間フライト。

まあ、なんとかなるだろうと思っていたのが甘かった…

2歳児のイヤイヤが炸裂した。

これは、2歳児のイヤイヤを抑えるどころか、助長させてしまい、自分もすっかりパニックになり、乗客の皆様にも大変ご迷惑をかけ…そんな情けない話。

血も涙も流れた戦いの記録…


午後2時頃、離陸。

用意しておいたのは、新しいトミカ、ダイソーで買っておいたシール帳。

行きの飛行機はこれで何とかなった。

ショベルカー走らせたり、シールぺたぺたしてれば耐えられる。

帰りの飛行機、1週間たっぷり遊んだ後で、やっぱり疲れてたと思う。

機嫌悪そうで、少しうだうだした後、ねんねした。

このまま着陸まで寝ててくれないかなーなんて思ったけど…そんなわけもなく。

約1時間後に起きてきた。
しかも、大変ご機嫌悪い。

元々寝起きの悪い子だけど、それにしても、少しおかしい。
明らかにイライラしてる。
イライラ?怒り?不安?恐怖?全部混ぜこぜ。

とにかく暴れる、泣く。
多分、出口に向かいたい、飛行機を早く出たいんだ。

「ごめんね」って何度も声掛けながら、息子を抱え込む。息子は怒って、トミカで顔を叩く。鉄の塊は痛い。私がトミカを取り上げる。
そして、次の手も早かった。素早く私の顔を引っ掻く。頬がピリピリする。

ふと周りの視線が気になって顔を上げる。
皆見てる…
目が怖かった。

視線を息子に戻す、おとなしくさせなきゃ。
周りの人たちは、きっと思ってる。
「なぜ子供を大人しくさせないのか」「そんな幼い子をなぜ搭乗させたのか」

さて、思い返せばあの頃、私も気がおかしくなっていた。

私の頭には、その頃読んでいた小説のワンシーンが浮かぶ。夜逃げ中に、父親がやかましく泣く赤子に手をかけるシーン。
そしてもうひとつ、戦時中に防空壕で赤子が…

とか、そんなことがぐるぐるしてしまって、とにかくこの子を静かにさせねば、と思うばかり。

息子の身体をぐっと抱き込む。
…要は、息子の動きを封じ込めようとした。当然、息子は激しく抵抗する。
私と息子、力のぶつけ合いになる…そりゃ泣くよ…。

この間、夫は膝で娘を寝かせながら、「代わろうか?」と声を掛けてくれた。

が、私は即答で断る。
娘まで不機嫌に起きたら大惨事では?
とにかく、私が息子を抑えなくてはいけない。

それでも、治まらないどころか、ますます激しく泣き叫ぶ息子。疲弊する私。CAさんがジュースを持ってきてくれた、息子が弾き飛ばす。
前の座席の人がポッキーを手渡してくれた。息子、投げる。周囲の視線が痛すぎて顔も上げられない。

娘がいつの間にか起きていて、夫が「代わるよ」と息子を抱き上げる。

私は放心状態。

夫は、泣く息子を抱っこして、飛行機の通路を往復し始めた。息子は夫をたたいたりしたけれど、少しずつ少しずつ、落ち着きを取り戻していった。

あれが一体、何分間の出来事だったのかも分からない。

とにかく、長かった。


帰ってから夫と旅の思い出話をしていて、この帰りのフライトの話が出た、夫が思いがけないことを言った。

「でも、飛行機の人たち優しかった」

飛行機の人たち…ポッキー渡してくれたご家族は優しかった。そして、確かにあれだけ騒がしくしておいて、だれも怒鳴り込む人はいなかった。でも視線は痛かった、辛かったよ、と内心思った。

夫が笑いながら話してくれた。

夫が飛行機の通路を行ったり来たりする間、座席のあちこちから手が伸びて、皆お菓子を渡そうとしてくれていたそう。

その前にお菓子を投げ飛ばす前科持ちだったので、夫は申し訳ないながらも受け取らなかったんだけど。
とにかく、あらゆる方向からお菓子をもつ手が伸びてきたことを、笑って話していた。

そんなこと、全く知らなかった。

そして、振り返って、はたと思う。

当然、快く思わなかった人がいただろうけど、多くの人は、とても心配してくれていたのでは?

頬を息子に引っ掻かれたと書いたけど、あの後、飛行機を降りて鏡を見ると、血の滲んだ傷が左頬中央を縦断していた。

そうそう、子供の爪って薄いからか、さっくり深くいくんだよね…

視線が痛くて、私は皆「とんでもない母親だ」と非難の目を向けているのだと思っていた。
でも、あれって、顔に大きな傷作って、血を滲ませて茫然としている私への、心配とか同情。あるいは、非難というよりは、ちょっと引いてた?のでは??

あの時、目が合った人たちの顔をぼんやりと思い出せる。
うん、やはりあれは、「そ、それ大丈夫?」って顔だった気がしてくる。

反省点は色々ある。
シール帳もっと必要だったかな、とか。
後、モニターありだから、映画見れると思い込んでたけど、4列に1モニター程度だった。
iPadに動画入れて持ってく、とかするべきだった。

そして。精神論になっちゃうけど…!
いかなるときも、母はどっしり構えてないとだめだなーと思った。あんなパニックに陥らず、「大丈夫よ」ってにこにこ宥められる母でありたかった。

パニックになって、存在しない悪意を創造してしまった。次はちゃんと誰かの優しさ受け取りたい。

そして、ご迷惑をかけた乗客の皆さんにごめんなさい。
息子、飛行機降りたくて仕方がないときに、寄り添うどころか、思い切り動きを封じようとしたこと、本当にごめん。









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