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【復刻】いい景観でメシが食えるのか〜もうひとつの「ただいま、つなかん」②

2011年の秋、半年かかったがれきの片付けがようやく終わり、ボランティアたちもずいぶん減る中、私は唐桑半島に残り、コミュニティ誌づくりを始めます。

ハード面では見る見る片付いていくまちとは裏腹に、被災した人たちの心はむしろ疲弊感を増すばかりで、よし、今こそ「夢を語る地元の人にスポットを当てよう」と意気込んで取り掛かりました。

初回のインタビュー先は決まっていました。そう、学生ボランティアの拠点「ツナカン」の一代さんです。被災しながらも、いつかここを民宿にしたい!と夢を語る一代さんの存在を、とにかく知ってもらいたかったんです。

からくわ未来予報誌 KECKARAけっから。#1

2011年の年末から翌正月にかけて。小さな唐桑半島でA4の冊子を何千部も刷って配ったものだから、よくも悪くも反響が大きく、私はこのフリーペーパーの自主制作をきっかけに、唐桑に腰を据え、まちづくり活動を始めようと決意します。

団体を立ち上げて復興助成金を申請しつつ、役所で復興支援員も兼務して、毎年なんとか食いつないで活動を続けました。

一代さんも有言実行。ツナカンは民宿「唐桑御殿つなかん」へとリニューアルし、ついにお客さんがやってくるようになりました。一代さんは本業である牡蠣の養殖業の仕事もしつつ、その傍ら副業で民宿の女将になりました。

2013年、復興まちづくりに酔い、理想しか語らない男(24歳)が、オープンしたばかりのつなかんでもがいていた記事を見つけました。


いい景観でメシが食えるのか [2013年11月29日(金)]

唐桑御殿つなかん。

かつて、地元の高校生らとわいわい命名した「つなかん」の4文字は、ついに宿泊営業の資格をとった。
不思議な感覚。じーんと嬉しい。

さて、そのつなかんに先日お客さんを招いたときの話。
たまたまつなかんに泊まっていた仙台のオリさんと市内から来てくれた塚本さんと、夜呑みながら議論になる。以下、その一部をまとめたもの。

2人のおっちゃんが声をそろえる。
「都会の方が住みやすいでしょう。買い物はすぐできるし、大きな病院もあって医療面も心配ない。」
地域で生きるとは。地域づくりとは。
もちろんこの2人の大人は「ふっかけ役」。

「みんな都会に行っちゃったら、日本の一次産業はどうするんですか!米食えなくなりますよ?」私はすでにエンジン全開。

「買えばいいじゃん。中国からどっかから、安価でいいものがたくさん手に入る時代だ。みんな都会で暮らせば安心だ。」
流行りのコンパクトシティですか。
「そうそう、コンパクトシティってヤツよ」オリさんが笑う。

一方、噛み付く私。「あーもう!いいですか、都市なんてロンドンの時代からその問題性が指摘されているんです。このままじゃ日本の都市部は…隣の家の人の顔も知らないし…治安とか…」

「そうか?日本はいい国だと思うよ?」オリさんが問う。

頭がぐるぐるまわる。思考と酒がぐるぐる。「…確かに日本はいい国です。学生時代、途上国をまわって痛感しました」あれれ、日本の都市部ってそういえば何が問題なんだったっけ…

オリさんは一流企業で現役で活躍する今年還暦。この人たちジャパニーズ・サラリーマンが成した戦後復興に凄まじい恩恵を受けている私。でも負けられない。
「地域には豊かさがあります。この豊かさの価値はこれから見直しが図られ、地域の活性化なしにはこの国は立ち行かなくなります。都市部依存型の時代は終わります。これからは、より『人間らしい生き方』が…」

「いい景観でメシで食えるのか?たくまくんの言う豊かさはお腹を満たしてくれるのかい?」

…!

ユタカさの認識が変わるとは。
吉本さんや結城さん、梅原さんが言っていたことを本当の意味で自分のものにできていない自分がいた。
「都会にはカネがある。でもカネ以外のものなら全部ローカルの方がもってる」結城さんの言葉がよぎる。
結城さん、でもカネで何でもできる世の中で、どれだけローカル(地方)が通用するんでしょうか。
ぱたんと倒れた。
まだまだだ。これじゃ田舎に人が残らない訳だ。
「たくまくん、ごめんねぇ。本当はそんなこと思ってなくても反論がどんどん出てくるもんだ。でもおもしろかった~」とオリさん、塚本さんは笑っている。
勉強になりました。本当にありがとうございました。

仕事だ。職がないとメシは食えない。

目をそらしていた事実。
やはり「仕事をつくる」ことからは逃げられない。
さて、参った。


加藤拓馬のブログ「遠東記」より
https://blog.canpan.info/entoki/archive/157 (一部)

映画『ただいま、つなかん』公式サイト
https://tuna-kan.com/

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