加藤忠史

精神科医&脳科学研究者です。双極性障害の原因を解明し、診断法・治療法を開発することを目…

加藤忠史

精神科医&脳科学研究者です。双極性障害の原因を解明し、診断法・治療法を開発することを目指して研究しています。( なお、発言は個人的なものであり、所属組織を代表するものではありません) Twitter account: @KatoTadafumi

最近の記事

「うつを生きる 精神科医と患者の対話」内田舞、浜田宏一著

 内田舞先生と、元Yale大学教授の経済学者浜田宏一先生との対談、「うつを生きる 精神科医と患者の対話」(文春新書)が出版されました。  タイトルは「うつ」ですが、浜田先生は双極症と診断されて、30年以上リチウムを服用されているそうです。  浜田先生のうつ状態の体験は深刻で、ご自身の語る「自殺妄想」という言葉は、死ななければならないと強く確信し、訂正できなくなってしまう、といううつ状態における希死念慮の性質をよく言い表しているように感じました。  地下鉄の駅で待っていると、地

    • 『ふつうの相談』東畑開人著

       決して分厚い本ではないが、その内容は数多の専門書を超えた広く深い視座を提供するものであった。  本書の論点を乱暴にまとめれば、以下のようになる。 1. 精神分析や来談者中心療法などの専門的臨床心理技法の原点は、一般に広く行われている「ふつうの相談」である 2. 全てのメンタルヘルス臨床は、世間知を活用した「ふつうの相談」を中心とし、各学派、各現場における学派知、現場知を極点とした、「球体の臨床学」のどこかに位置づけられる。 3. メンタルヘルスのプロフェッショナルは、何らか

      • PNES臨床講義

        脳神経内科領域で作られた概念が精神科領域に逆輸入されることが増えている。アパシー、BPSDなどがそのような用語であるが、脳神経内科由来の言葉は、アルツハイマー病の「Head Turning Sign (アルツハイマー病の患者さんが、質問されて、脇にいる家族に助けを求める様子を描写したもの)」のように、患者さんの内界を捉えようとする精神症候学とは異なり、見た通りの、ある意味身も蓋もないような表現で、驚かされることも多い。PNES (psychogenic non-epilept

        • 本人と家族のための双極症サバイバルガイド 宗未来・酒井佳永・山口佳子訳(加藤忠史監訳) 日本評論社刊

           昔からよく論文を拝見していた双極症の家族療法の専門家、ミクロウィッツ先生の本です。隅から隅まで共感する事ばかりで、実に良い本です。  特に、第4章「悪いのは病気? それとも私?」は秀逸でした。ここで語られている、「自分と病気の過剰な同一化」は、私も感じていたことをうまく言語化してくれたなあと感じました。  また、第9章「あがってきた躁状態のかわし方」は、かなり力点が置かれていて、類書にない特徴だと思いました。  また、第11章「死にたい気持ちを克服する」では自殺、第5章「な

        「うつを生きる 精神科医と患者の対話」内田舞、浜田宏一著

          科学を育む査読の技法 水島昇著 羊土社 

          日本学術会議の、査読に関する委員会で水島先生の発表を伺い、本書を知り、早速拝読した。水島先生のようなノーベル賞級の研究者に査読について指導してもらえるとは、何ともありがたいことである。 論文査読を行う側の立場としてどう考えるか、編集者としてどんな査読者がありがたいか、そして投稿者としてどんな査読者がありがたいか、という3つの立場について、さまざまな考えが述べられており、水島先生のお考えに同意することばかりであった。 一部は、自分の経験と異なる点もあった。研究室内の人に査読

          科学を育む査読の技法 水島昇著 羊土社 

          カール・ダイセロス著:『「こころ」はどうやって壊れるのか ~最新「光遺伝学」と人間の脳の物語』

           本書は、光遺伝学の開発者として神経科学領域で知らぬ者はいない、カール・ダイセロス氏の単行本「Projections: A story of human emotion」の日本語訳である。  この本を読んで一番驚くのは、いつも彼の論文を読んでいる神経科学者ではないだろうか? もちろん光遺伝学(Optogenetics)の話も随所に出てくるが、内容の半分以上を占めているのは、精神科医としての彼だからだ。光遺伝学の開発者として、メジャー誌に次々と論文を発表し、多くの共同研究をこな

          カール・ダイセロス著:『「こころ」はどうやって壊れるのか ~最新「光遺伝学」と人間の脳の物語』

          池田曉史[著]『メンタライゼーションを学ぼう 愛着外傷をのりこえるための臨床アプローチ』(日本評論社)

           本書はMBT(Mantalization-Based Therapy)の入門書である。精神分析を専門とする池田曉史氏により書かれただけあって、前半では、評者にはなじみのない、最近の精神分析領域の様子(学派の対立に意味がなくなっている現状など)や、「解釈は間違うことに意味がある、ただしフォローが必要」、「今時の精神分析家はこんな稚拙な解釈はしない」など、最近の精神分析家の臨床実践を少しだけ垣間見たような思いである。また、心理的自己誕生のメカニズムなど、精神分析の復習や、フロイ

          池田曉史[著]『メンタライゼーションを学ぼう 愛着外傷をのりこえるための臨床アプローチ』(日本評論社)