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本人と家族のための双極症サバイバルガイド 宗未来・酒井佳永・山口佳子訳(加藤忠史監訳) 日本評論社刊

 昔からよく論文を拝見していた双極症の家族療法の専門家、ミクロウィッツ先生の本です。隅から隅まで共感する事ばかりで、実に良い本です。
 特に、第4章「悪いのは病気? それとも私?」は秀逸でした。ここで語られている、「自分と病気の過剰な同一化」は、私も感じていたことをうまく言語化してくれたなあと感じました。
 また、第9章「あがってきた躁状態のかわし方」は、かなり力点が置かれていて、類書にない特徴だと思いました。
 また、第11章「死にたい気持ちを克服する」では自殺、第5章「なぜ双極症になるのかー遺伝・脳の変調・ストレス」では遺伝、という、通常取り上げにくい問題について、ズバズバと踏み込んで記述されており、驚きました。
 もちろん、双極症に対して有効とされる心理療法については、さまざまな治療法を統合した形で対処法として語られており、大変有用だと思います。認知行動療法、対人関係社会リズム療法、家族焦点化療法、心理教育、などと分けて考えること自体に意味がないと感じられる位に、全てが融合しています。そして、これらの記載の中にも、どんな技法でも良くなれば良いんだとか、精神分析っぽいのはだめ、自助グループは目的がはっきりしたのが良い、など、結構鋭い意見が語られていて、興味深く思いました。
 心理教育的な内容も網羅されており、生物学的なことについては、女性特有の問題も含め、多くの記載がありました。
 随所に関連書が引用されていて、双極症の心理療法の本が結構多く日本語に訳されているのだと再認識しましたが、こうしたさまざまな気分障害の心理療法の本の見取り図としても大いに有効だと感じました。
 宗先生たちによる翻訳は、「『アドレナリン出まくり』の軽躁状態」といった軽妙な翻訳で、楽しく読める一冊になっています。
 ミクロウィッツ先生は、家族療法が専門なのに、多嚢胞性卵巣など、医学的なところまで踏み込んで書いておられ、すごいなあと思いました。一人の医師が心理だけでなく身体から社会資源まで、しっかりとケアしてくれているという安心感も、この本から感じられると思います。
 かなり量が多いので、全部読まなきゃと思うとたじろいでしまいそうですが、第4章、第9章を読んでいただくだけでも価値がありますし、気になるところからつまみ食いしていく読み方でも良いと思います。
 最後のところで、著者は、双極症に対処するための戦略を、
・双極性障害についてできる限り学ぶこと
・一貫した医療を受けること
・心理療法を最大限に活用すること
・社会的支援を頼りにすること
・セルフケアツールを使うこと
とまとめていました。
 病気に操られるのではなく、病気を操ることを学ぶために、本書は大いに役に立つと思います。


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