【笑えない旅話】今回は笑えない話。人生で一番死を身近に感じた話
2015年1月下旬、友人2人と2週間のタイ旅行に出かけた。
みんな海外初心者だった。
成田からバンコクを経由してチェンマイに入り、
マッサージやらナイトマーケットを満喫した。
チェンマイから更に北のパーイに移動し、町の真ん中から歩いて20分くらいの静かな所に宿を取った。
パーイ2日目の夜だったと思う。
町で夕食を済ませてぶらぶら散歩し、宿に帰ろうと思ったがタクシーがつかまらない。
それまで滞在していたチェンマイは大きな町で、夜中まで露店やバーが賑やかだったが、パーイは町の中心のほんの一部を除いて夜は静かだった。
タクシーらしき車が停まっている建物に人がいたので声をかけてみたが、今日はもうお終いだよ、というような事を言われた。
トゥクトゥクも走っていない。
3人で相談した結果、歩いて帰ろうということになった。
一月末のパーイはカラッとしていて気持ちよく、春と夏の間の、風がとても爽やかな夜だった。
20分くらい余裕で歩けると思った。
楽しくお喋りしながら町の外れまで来ると、街灯が段々と減り、道は細くなり、周囲から人の気配が無くなった。
それでもまだ我々は余裕だった。
そこから少し行ったところで、闇の中から何かが近づいてくる気配を感じた。
信じたくなかった。
安全だと思いたかった。
が、3人ともとんでもないトラブルが迫っているのを感じた。
闇から出てきたのは野犬の群れだった。
恐怖であまり覚えていないが、芝犬より一回り大きいくらいの犬が7匹ほど、暗い道の先からこちらに向かって来た。
ヤバい、ヤバいと思いながらも、まだ心のどこかで襲われることはないだろう、と思っていた部分があった。
が、犬は牙を剥いて唸り、吠えた。
我々はぐるっと野犬に囲まれて、前にも後ろにも行けなくなった。
どうしよう どうしよう どうしよう どうしよう!
マンガに出てくる飢えた獣みたいに、低い姿勢で犬歯を剥き出し、ギャンギャンワンワン吠えまくっている野犬に囲まれている。
食われる、と本気で思った。
一緒にいたYはパニックになって叫び声を上げて、ジタバタと足踏みのような動きをしている。
犬が吠えるたびに飛び上がって大声を出していた。
もう1人のNも硬直している。
旅具店も頭が真っ白だったが、犬をこれ以上興奮させてはマズいのは分かった。
とりあえず3人でしっかり腕を組んで離れないようにしようと提案した。
それから、歩幅を合わせて、まっすぐ進行方向だけを見て、静かにゆっくり進むように言った。
横一列に右から
Y・N・旅具店
と並んで腕を組み、ゆっくり歩き始めた。
何が正解だったかは分からないが、
とにかく自分たちは人気のない町外れの道の真ん中にいる。
ここにから離れて安全な場所まで辿り着かなければならない。
Yのパニックは治らず、ギャアギャア言いながら足や腕を振り回している。
Yをどうにかしなきゃならない。
Yの動きが犬を一層興奮させかねない。
命の危険を感じた旅具店はYを怒鳴りつけた。
『Y!!うるさい!黙って歩け!前だけ見ろ!!』
走って逃げたい気持ちだったが、それは絶対にやってはいけない気がした。
3人バラバラになってはいけない。
犬を刺激してはいけない。
それ以上のことは何も考えられなかった。
宿まであとどれくらいだろうか。。。
犬の輪の中心にいる我々がゆっくり歩き始めると、犬の輪もそのままついてきた。
犬どもの唸り声は獣そのもので、時々我々を試すかのように勢いをつけてダダっと飛びかかる様な仕草をし、また下がるというようなことを繰り返している。
その度にYがギャァァ!と叫び声を上げ、右に左にうろうろした。
Yが左右に逃げようとすると、腕を組んでいる我々も巻き添えをくってヨタヨタした。
普段大声なんて決してあげないNが
『Y!黙れ!いい加減にしろ!!!』
と叫んだのを聞いて、旅具店はもうダメかもしれないと思った。
Yは自分の手で口を覆い、うー、うー、と声にならない声を漏らしていた。
どのくらいそうしたのか分からないが、遠くに宿の灯りが見えた。
門のシルエットが見える。
あと少し!
結局門の直前まで野犬に囲まれたまま辿り着いた。
不思議なことに、野犬どもは門の中までは入って来なかった。
部屋に着くとみんなヘラヘラ笑い出した。
無事だったのが信じられなかった。
一通り冗談を言いあった後で、膝が震え出した。
時間差で身体の緊張が解けたらしく、力が入らなくなり、ヘナヘナとベッドに座り込んだ。
ものすごい恐怖だった。
翌日レセプショニストにその話をすると、目を丸くして
『なんてこと!なんで電話して来なかったの?!危ないわよ!』
と言われた。
ちなみに、昼間も宿の周りを散歩したりしていたが、とても平和でのんびりしていて、まさか野犬がいるなんて想像もしていなかった。
自分の知らない土地ではどんな危険があるか分からない。
鉄砲や強盗だけが怖いわけではない。
昼と夜では雰囲気が全く違う場所がある。
などなど、旅具店はこの経験から多くを学んだ。
36年間自由きままに生きてきたが、
この体験が死を最も身近に感じた体験だった。
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