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メビウスの円環の中で 現在地について10

今年の野音はどんなセットリストが組まれるのだろう。

およそ300曲近くある中で、必ず演奏される歌となかなか(あるいは一度も)演奏されることのない歌がある。その瞬間に歌いたい歌を歌いたい順番で決めていくのだろうし、デビュー当時の若い瞬発力が炸裂した歌を当時の気持ちで歌うことができるというのは、35年という時空を縦横無尽に行き来するかのようでもあり、若き日から何も変わっていない彼がそこにいて歌っているからでもあり…、

なんてことをうにゃうにゃと考えていたら、ここ2年うにゃにゃしていたモヤモヤが腑の底まで落ちて決着した。エレ次とソロ次についてである。
この期に及んで、まだそんなこと言ってんのか!と思われるかもしれないが、書かずにいられないのは、おそらくはたしかに居ると感じるからなのだろう。「現在地について」と題して考え続けてきたこのテーマも、ちょうど10本目。ここでひと区切り。読んでくださっている皆さんありがとうございました。

「縦横無尽完結編」後の note で

(エレファントカシマシというのは宮本浩次の)一部分。
これが私の感覚では、宮本浩次の中にソロ次がいて、その中にエレ次がいる。
エレ次はソロ次の中にいて、そのソロ次は宮本浩次の中にいる。

俺はまた出かけよう 現在地について9

と書いた。
今、逆に、エレ次の中にもソロ次はいるんじゃないか、いや、いたんじゃないかという気がしている。今更だけど。

2年前、野音を観てこんな感想を書いている。

野音2020。
沼落ちして間もなかった私は、まだエレファントカシマシの何たるかをわかっておらず、そんじょそこらのバンドが言いそうなコロナへのコメントがあったり、この状況に打ち克つために気持ちが上がるような、例えば “今はここが真ん中さ!” とか “笑顔の未来へ” といった曲をやったりするのかな、と思っていた。
今にして思えば、ソロ活動のギアを上げようとしていた宮本が、バンド活動にある種のけじめをつけようとしたかのようなセットリストだった。
そして、まるで何事もないかのように、コロナのコの字も言わない。にもかかわらず、やっぱり現実の状況は目の前に厳然として在り、そして現在は過去の続きとして在り、そういうすべてを何も語らずして表現して見せてくれた。要するにここまで歩いて来て、これからも歩いていくぜ、と。
今なら、それが真骨頂だったんだとわかる。それがエレファントカシマシなのだと。
逆に言えば、何も知らなかった私が、もらえるだろうと想像していた明朗な未来への希望があふれる歌の力は、ソロのベクトルだったんだと思う。

黒い薔薇と白い風が胎動する 現在地について5


30年間のバンド活動を経てソロに踏み切るまでには、抱き続けていた願望があり、思い悩んだ葛藤もあり、強い決意もあっただろう。それでも、この「エレファントカシマシの野音」という《場》では「エレファントカシマシの宮本」なのだ。


ここまで来てまだソロ次だのエレ次だのと四の五の言ってんだから、もうこうなりゃ極論だ。

これまでのライブのセットリストを紐解くと、野音ではキャッチーでポップな(私が期待していたような)楽曲は演奏されていないように思う。この、(近年、主にユニバ期に作られた楽曲で)野音で演奏されないものは…、
エレ次の中のソロ次が作ったんじゃないだろうか。
エレ次の中にいたソロ次が。
縦横無尽ツアーでは、ソロ次の中にいるエレ次が見え隠れしていたが、ソロ次はもともとエレ次の中にいたんだ。

エレ次とは、社会と対峙するための鎧を纏った宮本浩次。
ソロ次とは、社会と対話するために衣裳を着た宮本浩次。

結局、またしても手癖のワードをくり出すことになる。
《ブリリアントカットの宝石》。
その時々で、どの面がこちらに向いて光を放っているかで、輝きが異なって見える。
そして、ねじれてつながる《メビウスの輪》。
一周して戻ったようでもそこは裏。もう一周しないと元には戻れない。

つまり、エレ次とソロ次とは、
彼のいる場所の違いであり、表現形態の違いであり、音楽性の違いであり、
歌いたいことは同じだし、作っているひとは同じだし、歌っているひとも同じ。
ボーダーレス。
たしかにそれぞれの存在は感じるけれども、分けることに意味はない。
35年分はなかなか追いつけないけれど、今やっと、この2年分はなんとか追いつけた気がしている。

50ステージを経て、百戦錬磨のミュージシャンの演奏によってポテンシャルを証明された《エレファントカシマシ》の楽曲たちが、今ここに還って来て、いったいどんな響き方をするのか。
このひとは何を得て何を持って帰って来たのか。

ソロ活動が一段落したと見なされ、バンド活動は35周年という節目を前に加速が期待されるなか、どんな歌をどんな順番で届けてくれるのだろう。
とても厳粛な気持ちで待っています。



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