ホンモノ

「本物」しか要らないと、目に入るものをバサバサと切り捨てていったら、いつの間にか私は丸裸になっていた。

そもそも「本物」が何かもわからなかったのに。「自分の気に入らないもの」を排除することが麻薬みたいに一瞬の快感をもたらしているとも知らずに。

あらゆるものを手放せば、そこに自動的に何かが入ってくると思っていたのだ。何の苦労もせずに、何の痛みも伴わずに、空いた場所には何かが収まるはずだと。丸裸のまま震えていれば、そこに何かが降りてくると信じていたのだ。

怠け者の行き着く先は一つであると、おとぎ話の中で散々忠告されていたことであるのに。

忘れなければ人は生きていけないけれど、それは全てを忘れることの免罪符ではないのだ。

それでも、それでも私は、「本物」が欲しい。

丸裸の身体がそれでもまだ重たいのは、この欲求を捨てることができないからか。夢のようなそれは私の心臓にびっしりと根を張り、血液に乗せて身体中を駆け巡る。

それでも、それでも私は、「本物」しか要らない。

「本物」が何かもわからないのに。見たことも触れたこともないそれに、この身を焦がすほどに憧れている。

この世にそんなものがあるかもわからない。それは自分で作り上げるべきものなのかもしれない。

誰か教えてくれよ。私は間違っているのか。私は間違っていたのか。間違っているのなら今すぐ叱りつけてくれよ。そっちに行っては行けないと引き止めてくれよ。愛を持って。そこに愛がなければそれはただの憂さ晴らしじゃないか。

愛して欲しい。愛するから。本物が欲しい。私の全てをあげるから。

何も残っていない私に、あげられるものなど一つもありはしないけれど。

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