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俺の幸せってやつ

俺は、一目惚れをした。
海と山に挟まれた、小さな村の小さな商店。店先で穏やかな笑みを浮かべる女性を見た瞬間、ピンときたのだ。

この人と暮らしたい。


何気ない顔をして、彼女の店に入る。
「あら、見ない顔ですね。」
少し驚いた顔をしてから、にっこり微笑んで話しかけてきた。優しさの中にも芯がある声に、俺はますます虜になった。
しかし、ろくに女性と関わってこなかったせいか、取っ掛かりが掴めない。
しばらく居座っていたが、なんだか気恥ずかしくなって逃げるように立ち去ってしまった。


情けない顔合わせを挽回すべく、プレゼントを用意して再び足を運んだ。
彼女は、前回より驚いた表情をして、それから花が咲くように笑った。
「まあ、私にですか?ありがとうございます。」
彼女はプレゼントを気に入ってくれたようだ。悩んだ甲斐があった。
小さな丸椅子の横に座って、彼女を見る。
「ここは良いところでしょう」
口ごもっていると、椅子に座った彼女から話しかけてくれた。
「山があって、海があって、気持ちいい風が吹いて、みんな穏やかで優しい場所です。」
その通りだ、と相槌を打つ。
「魚は食べましたか?とても美味しいですよ。」
うむ。君がそう言うならぜひ食べたい。
「私は、産まれた時からずっとここに居るんです。友達はみんな都会に出てしまったけど、なんだか離れられなくて。」
そうか。これほど良いところなのだからそうかもな。
「貴方はどこから来たのですか?」
色んな所を渡り歩いてきた。
「疲れたでしょう。ゆっくりなさっていって。」
ああ。そうさせてもらう。
「あ、いらっしゃいませ」
客が来て、彼女が席を立つ。
にこにこと世間話をしながら、笑っている。ふと、客が俺を見て微笑んだ。
どうしていいかわからず、手を組み替える。
しばらくして、客は品物を手に帰っていった。
俺もそろそろお暇しよう。
「また来てくださいね。」
彼女は、そう言って見送ってくれた。
浮足立った心を押し込んで、何食わぬ顔で商店をあとにした。


翌日、また彼女の元を尋ねた。
「いらっしゃいませ」
今日も綺麗だ。
「ちょうど買い物から戻ってきたんです。」慌ただしく片付けをするのを眺めていると、小皿が目の前に置かれた。
「これ、お魚チップス。良かったら食べて下さい。」
おお、こりゃすまない。ありがたく頂こう。色々な小魚が、パリパリに乾燥されている。何も味付けされていない、素材そのままの菓子だ。
吟味して、小山の横の方から細長い魚を食べた。
「どうですか?」
美味いよ。
彼女は誇らしげに微笑む。
「小さい頃から、定番のおやつなんです。格好が悪くて、生で売れない魚を干してるんですけど、味は全然劣らないでしょう。」
ちっとも劣らないとも。だが、これは多分、格別に美味いと思うね。
「ハルミさーん!」
「はーい!」
店の裏の方から呼ばれて、慌ただしく行ってしまった。
ポリポリと、小魚を堪能しながらゆっくり流れる雲を眺める。
本当に、良いところだ。


堤防で風に吹かれていると、若い男が近寄ってきた。
「おー、新顔ってあんたか。」
「どーも。」
まったりした時間を邪魔されて、眉間にシワが寄る。若いのは血気盛んで騒がしくて好まない。
「ここに住むつもりか?」
「まあな。」
「噂に聞くと、結構都会から来たらしいじゃん。」
「ああ。」
「なんでこんな辺鄙な場所に?」
「気に入ったから。」
「ふーん。」
俺のそっけない返事に、若者は黙った。
せっかくのんびりしてたのに、興醒めだ。ハルミの所にでも行こう。
「あ、どこ行くんだよ。」
「着いてくるなよ。」
「さては、ハルミのばあさんとこだろ。」
ピタッと足が止まる。
「お前、口には気をつけろ。」
睨みを効かせて言うと、若者は嘲笑うように続けた。
「なんだよ。事実を言っただけじゃないか。」
「俺がどこに行こうと関係ないだろ。」
「もの好きだなぁ。あの人、一回も結婚してないんだぜ。俺なら売れ残りはゴメンだけどな。」
無性に苛立って、若者に詰め寄る。
「なあ小僧。目上の者には敬意を払え。ハルミは立派なレディだ。二度と小馬鹿にするな。」
「そんなマジになんなよ。ま、じいさんにはばあさんがお似合いだよ。」
若者は薄ら笑いを浮かべながら、俺の横をすり抜けようとした。
思わず手が出た。
「このジジイ!やんのか?」


ヨタヨタと坂を登る。
傷がズキズキと痛んでいた。
「やだ、どうしたの!」
店先からハルミが駆け寄ってくる。
なんてことはない。ちょっと揉めただけだ。「こんな怪我して…もういい年なんだから、喧嘩なんかしちゃだめよ。」
ハルミは、俺を店の奥に座らせて、タオルや水を持ってきた。
「そんなに深くないわね。でもバイキンが付いたら大変だから、ちゃんと手当しましょう。」
こんなの、舐めておけば治る。気にするな。
手当を断ろうとすると、ハルミは怒った顔で近づいてきた。普段の、優しい態度からはかけ離れた雰囲気に、思わずじっとする。
消毒液の臭いが鼻にしみた。
「どうして、喧嘩したんですか?」
大切な人を馬鹿にされたのが気に食わなかったんだ。
そっとハルミの顔を見る。目元や口元にはシワがあって、確かに若くはない。でも、ハルミはいい女だ。優しくて暖かい。こんな良い人を、貶されて黙っていられるわけがない。「もっと自分を大切にして下さい。心配になります。」
大丈夫だ。あの小僧にはよく分からせておいたからな。
ハルミの優しい手が、傷の痛みを和らげていった。


その日、ハルミは店先でお客と話していた。釣り道具を持った夫婦だ。
「堤防で若いのとやり合ってたよ。もう大騒ぎで凄かった。」
「まあ、そうなの…。」
おじさんの大袈裟な言葉に、ハルミが手を頬に添える。
「乱暴なんじゃないの?子供らに怪我させたりしないと良いけど。」
「そんなんじゃないわ。普段は穏やかなのよ。」
おばさんの苦言に、力強く反論する。
「ハルミちゃんの所によく来るんでしょう?何かあったら大変だから、棒でも用意しておきなさいな。」
「棒だなんて大袈裟よ。ちゃんと言い聞かせておくから、心配しないで。」
「まあ、ハルちゃんがそう言うなら…なんかあったらすぐ呼んでくれよな。」
夫婦が立ち去ったが、なんだかバツが悪くて出ていけない。
今日は止めておこうか…
そう思って帰ろうとした。
「ハチさん!」
振り返ると、ハルミが満面の笑みで駆け寄ってくる。
「怪我はどうですか?良かったら、お魚チップス食べていきませんか?」
いや、今日は、ちょっと、うむ…
ハルミの勢いに負けて、店に入る。いつも、ハルミが座っている丸椅子の横に、同じような丸椅子が置かれ、座布団が敷かれていた。「どうぞ、座って。」
笑顔に押されて、おずおずと座る。
「最近来なかったから、心配してたんですよ。」
まあ、なんだ。ボロボロだとみっともないと思ってな。
山盛りのお魚チップスが出される。
「今日は煮干し多め。この前、煮干しよく食べてたから、好きだと思って。」
じんわりと、心が暖かくなる。
お前って、本当に良い女だな。
特別美味しい煮干しを食べている俺を眺めながら、ハルミは独り言のように語りだした。「私、ずっと独り身なんです。ここは人が少ないし、私は村から出たこと無くて。両親が亡くなって、この店を継いで、もうずっと独り。寂しくはないわ。村の人は皆良くしてくれるし、変わらない毎日が好き。」
「でも、ハチさんが来るようになってから、なんだか足りなかったものを見つけたような気がするの。おかしな話だけど、その…ハチさんが来るのを、いつの間にか楽しみにしていたんです。」
「ハチさん。良かったら、私と一緒に暮らしませんか?」
鼓動が高鳴る。
俺は今、告白されたのか?なぜだ。一目惚れし、足繁く通ってきたのに、素直に頷けない。あまりに急すぎて、心が付いていかない。
黙り込んだ俺を見て、ハルミは笑った。
「なんて、こんなおばさんに言われても困っちゃうわよね。良かったらまた来て下さい。お魚チップスはいつでもありますから。」
俺は何も言えないまま、店を後にした。


それから、幾度となくハルミの所へ行こうとして足を止めた。手前の角から、坂道の上から、裏の細道から、ハルミの姿を見ては、一歩を踏み出せずに踵を返してしまう。
生きてきて初めての感覚に、俺は戸惑い、悩み、苛立ち、振り回されていた。
むしゃくしゃして、浜辺まで一気に走り、流木に八つ当たりしたりした。
今日も、一心不乱に砂を掘り返していると、年老いた男が近づいてきた。
「荒れてるのお。」
「なんか文句あるか。」
「文句など無い。噂の男が浜辺を荒らしてると聞いて見に来たのじゃ。」
年寄りは静かに腰を下ろした。白く濁った目で、海を見渡す。
手に付いた砂を払って、なんとなく横に座った。
「この前は、うちの若いのが失礼したのお。」
「ああ、あいつか…。」
「まだ子供気分が抜けないのじゃ。許してやってくれ。」
「いや、まあ、俺もやりすぎた。」
年寄りは穏やかに笑う。
「ハルミさんの所に通っていたそうだが、最近はどうかね。」
ドキッとして年寄りを見るが、別にからかっている様子はない。俺は、少し考えてから、ハルミとの出来事を話す。彼は、静かに聞いてくれた。
「おぬしはどうしたいのじゃ?」
「そりゃ、ハルミと暮らせたら良いだろう。だが、こんな簡単に決めて良いものか…」
「魚を捕る時、悩んでいるとすぐ逃げてしまう。もう一度同じ魚を捕るのは難しい。」
年寄りの言葉に黙り込んでしまう。
そうして、日が暮れるまで、俺たちは浜辺に座っていた。


決心が付かないまま過ごしていた。その日は朝から村全体がざわついていた。
嵐が来るようだ。
空が厚い雲に覆われ、湿っぽい風が吹き荒れる。役場から注意喚起の放送が流れ、人々は家の雨戸を閉めたり、船を避難させていた。ハルミは大丈夫だろうか。
ポツポツと雨が降り始める。今ならまだ、走れば間に合う。だが、あの日以来会っていないのに、行っても良いものか…。
ゴロゴロと不穏な音が鳴って、俺は走り出した。今行かなかったら、嵐が過ぎるまで不安だ。そんなの耐えられない。
雨が強くなってきた。半ば滑るように角を曲がると、シャッターが降りた店が見えた。横の玄関を叩く。
ハルミ!ハルミ!
ガラガラと戸が開いて、驚いた顔のハルミが出てきた。
「ハチさん!こんな日にどうして…びしょ濡れじゃない。中入って。」
いや、無事なら良いんだ。顔が見たかっただけだから。
安堵して帰ろうとした瞬間、劈くような音が響き、雨が滝のように降り注いだ。
ハルミが強引に玄関に引き入れ、戸をしっかり締めた。
「しばらく来なかったから心配してたんですよ。今タオル持ってくるから。」
ふわふわの清潔なタオルを被せられ、ヒーターの前へと案内される。
「もう独りだから出しっぱなしで…良かったわ」
そう呟きながら、コンセントをさして電源を入れる。
「今日は泊まっていって。明日には止むと思うから。」
うむ…お言葉に甘えよう。
家に入ったのは初めてだ。年季を感じるが、手入れが行き届いていて居心地がいい。
「怪我はすっかり良くなったわね。」
額に当てられた手が、じんわり温かい。
走ったせいか眠くなってきた。だが、こんな嵐の中押しかけて寝るなど、格好がつかない。しかし、眠気には抗えず、夢の中へと誘われていった。


兄弟と、母の懐を取り合っていた。
我先にと飛び込み、母は全員を受け入れる。暖かい腕の中で、母の匂いに包まれて、深い愛情を感じていた。


ぼんやりと目を覚ます。
小気味よい音と、良い匂いで満ちている。
ハルミが掛けてくれたのであろうブランケットから抜け出して、音のする部屋に入った。「あ、おはよう。ちょうどお夕飯できますよ。ありあわせだけど、どうぞ。」
次々と手料理が並んでいく。
ゆっくりと口に入れた。
素朴だが、丁寧で優しさが詰まっていて、とても美味しい。
「どうかしら」
絶品だとも。
ガツガツと食べると、ハルミは嬉しそうに笑った。
夜もふけた頃、ハルミに連れられて奥の部屋に入った。
嵐は一層酷くなって、轟音に包まれている。
「ハチさん、こっちに。」
ハルミはベッドに入って、布団を持ち上げた。
な、おま、一緒に寝るつもりか?
「冷えますから、早く入って下さい。」
半ば強引にベッドへ引き入れられた。
カチカチに固まっている俺を見て、ハルミが微笑む。
「ちょっと狭いけど、一緒のほうが暖かいわ。この嵐ですっかり気温が落ちたわね。」ああ…もう、季節が変わるな。
「明日はきっと良い天気よ。おやすみハチさん。」
おやすみ。


とても眠れないと思ったが、ハルミの寝息を聞くうちに眠っていたようだ。
小鳥の声で目を覚まし、ハルミを起こさないように抜け出す。
嵐は過ぎ去ったようだ。真っ青な空、飛び散った葉っぱ、少し冷えた空気が肺を満たした。
トイレを済ませると、ハルミも起きてきた。「おはようハチさん。」
おはよう。
朝からハルミと一緒にいられるなんて、素晴らしい。
朝ごはんを食べていると、ハルミは少し遠慮気味に切り出した。
「ハチさん、やっぱり私と暮らすの嫌ですか?」
俺は少し考えた。
嫌じゃないさ。これからは共に暮らそう。
ハルミはホッとした顔で笑った。


ハルミと暮らすようになって、しばらく経った。俺の食器が増え、座布団が増え、一応ベッドも増えた。
村のコミュニティにも入れ、それなりに上手くやっている。ハルミの店を手伝い、時々でかけたりして、のんびり過ごしていた。
たまに、お土産を持って帰るとすごく喜んでくれるのが嬉しい。
一つ、とても驚いたことがある。ハルミは凄まじい長風呂だった。溺れているんじゃないかと心配になって見に行くと、いつも湯船に浸かりながら「ハチさんも一緒に入る?」なんて聞いてくるのだ。俺はいつも、そそくさと逃げてしまう。だが、他の連中に聞くと大体女は長風呂らしい。不思議なもんだ。


「あら、今日はハチさんが店番なの?」
話し好きなおばさんがやってくる。
「すっかり寒くなったわねー。今年は雪が降るかもしれないって。雪かきのスコップ出さないとねー。」
ベラベラと話が止まらない。
客の前で失礼だとは思いつつも、うとうとしてしまう。
少しばかり陽が傾いた頃、おばさんが大声を上げた。
「やだ、私ったら長居しちゃった。これお代ね。ハルミちゃんによろしくね!」
そう言って慌ただしく帰っていく。今日も村は平和だ。


すっかり冷え込んだ頃、店番をしていると同世代の男が店に走り込んできた。
「おいハチ、聞いたか?」
「何を」
ものぐさに起き上がって聞いてやる。
「赤子が捨てられてたんだってよ!」
「なんだって?」
一気に目が覚めた。
「まだ乳飲み子でさ、この村には産んだやつ居ないし、誰かがわざわざ捨てに来たんじゃないかって大騒ぎだよ。」
「で、その子はどうしたんだ。」
「今、役場の連中が病院連れて行った。ここいらには施設なんか無いし、どうすんだろうな。」
「そうか。この村でそんなことが起きるなんてな…」
その日は、ざわざわと落ち着きがなかった。誰もが捨て子の話をし、母親の憶測を立て、子供の行く末を想った。
そして、俺は帰りの遅いハルミを待ちわびていた。ちょっと買い物に行くと出ていったきり、日が暮れても帰ってこない。顔も知らぬ赤子より、ハルミが事故にでも合ったんじゃないかとヤキモキしていた。
すっかり月が登った頃、店の前に車が止まった。ハルミが、運転手に礼を言いながら降りてくる。
ハルミ!どうしたんだ。心配した…
何か妙な雰囲気だ。
ハルミ、その、抱えてるのはなんだ。
「ふふ。ハチさん、見てください。」
ハルミはいたずらっ子のような笑みを浮かべながら、俺に腕の中を見せてきた。白い布に包まれたそれは、まだ生まれて間もない赤ん坊だった。
お前、どうする気だ!
「ハチさん、私達ふたりきりだし、この子うちで面倒見ましょう。」
ダメだ!大体俺に相談もなく連れてきて!
しかし、ハルミはさっさと寝室に連れて行って赤子を寝かせてしまう。
ハルミ!俺は認めないからな!
どんなに怒っても、ハルミの決意は堅かった。
そこからは冷戦が始まった。ハルミとは口を利かず、赤子は居ないものとし、朝から晩まで外を出歩いた。ハルミは、俺のことを気にせずに、一日中赤子に付きっきりになっていた。そして、俺が家にいる時はこれ見よがしに目の前で赤子の世話をした。


「じゃあ、私お風呂入ってきますから、ハチさんお願いしますね。」
その日も、ハルミはそっぽを向いてる俺にそう言って風呂に行ってしまった。
ふん。誰が赤子の面倒なんか見るか。
しかし、置いていかれると気になってしまう。そっと覗き込むと、すやすやと眠っていた。
ミルクの匂いがする。
なんとなく、ちょんと触ってみると、身じろぎをした。ビクッとして手を引っ込める。もう一度ちょんちょんと触ると、次は手に抱きついてきた。
しまった。動けなくなってしまった。
無理に動いたら起こしてしまうだろうか。しかし、早くしないとハルミが来てしまう。
これ以上ないほど集中して、そーっと手を引き抜いていく。
「ハチさん。」
後ろから話しかけられて、飛び上がってしまった。
ハ、ハ、ハルミ!いつ来たんだ!!
ハルミは、俺の動きにびっくりして起きてしまった赤子を優しく抱き上げる。
いや、これはその…。
「可愛いでしょう。」
にこにこと言う。その顔は、遠い日の母親を彷彿とさせた。
「ねえ、ハチさん。」
うむ…。


結局、赤子はうちに居座った。
名前はいつの間にかハルミが付けていて、ギンになっていた。もっと別の名前が良いんじゃないかと思ったが「長生きできそうでしょ」というハルミの笑顔を前に、何も言えなかった。
ギンはとにかく良く食べた。昼夜問わず二時間起きに飯を求め、排泄し、それが終わると寝た。少し大きくなると這いずり回るようになり、ちっとも目が話せなくなった。
ハルミは何かに集中すると、他のことが疎かになる性格だ。だが、幼いギンはそんな事はお構いなしにあちこち探検してしまう。
いつの間にか、俺は出かけなくなり、一日ギンに付きっきりになっていた。
「ハチさんは偉いわねー!ウチの旦那にも見習ってほしいわ!」
「本当に助かってます。私うっかりしてるから、ハチさんが居なかったら大変だったわ。」
そんな話を背中で聞きながら、ギンをあやす。と、急に神妙な顔をして固まった。
「ギン?どうした?」
俺の問いかけには答えず、うーんという顔をしている。ツーンと刺激臭。
「は!おま、トイレならそう言え!」
慌てて連れて行くが、時すでに遅し。畳にはオシッコが筋になっていた。
どうしたら良いのだ…
途方に暮れる俺をよそに、ギンはすっきりした顔で遊びに戻っている。
「ギンちゃーん?ハチさーん?」
ハルミが様子を見に来る。
あ、ハルミ、これはそのギンがな…
ハルミは、畳の筋と、コロコロ遊んでいるギンを見て笑った。
「あらあらまあまあ」
ハルミはテキパキと片付けて、ギンを撫でた。その日から、俺は口酸っぱくギンに言い聞かせた。「トイレの時はちゃんと言え」と。
あと、寝相が悪い。真ん中を陣取り、大の字になって寝るものだから、俺もハルミも隅で寝るしか無かった。ひどい時は俺が床で寝る。蹴落とされた時は頭にきたが、幸せそうな寝顔を見るとなんとも言えないものだ。
好き嫌いは許さなかった。最初は生意気にも選り好みをし、優しいハルミはそれに付き合っていたが、ある日堪忍袋の緒が切れた。
「ハルミの飯を残すやつは何も食うな!」
そう言ってギンの飯を全部食べると、ギンは泣き喚いた。ハルミは好物を出そうとしたが、俺が睨むと手を止めた。
次の飯の時には、苦手なものもきちんと食べた。しばらく俺に取られまいと、早食いしていたが、好き嫌いするよりずっと良いだろう。
そうして、ギンはすくすくと大きくなった。トイレをマスターし、飯もよく食べ、一日中よく遊んだ。
とにかく体力が無限だ。
あっちへこっちへ走り回り、よじ登り、なんでも口に入れる。やっと疲れて寝たかと思っても、二時間もすれば全回復してまた遊び回る。俺とハルミはすっかり疲れて、座ったまま寝ることも増えた。


縁側で、仰向けになって目をつむっていると、近所の男が通りがかった。
「おう、ハチさん。随分お疲れだねー。」「ああ、疲労困憊だ。貴重な休み時間を邪魔するな。」
「釣れないなー。なあ、たまには一緒にどうよ。」
「パスだ。他のやつを誘え。」
「なんだなんだ。育児なんて女に任せときゃいいのに。」
「そうもいかんだろう。」
なんせ、ハルミはおっちょこちょいだし、ギンはやんちゃだ。お互い年で体力も少ない。任せっきりにしたら、気が気じゃないのだ。「変わってんなーじゃあな。」
男はそそくさと去っていった。
もう一休み…と思ったところで、ギンが身体をよじ登ってきた。
「おとーしゃん、あそぼー!」
ああ、さらば俺の時間。


ギンが外へ遊びに行くようになると、俺達は一段落することができた。
「あっという間に大きくなりましたねー」
ハルミがお茶を飲みながら呟く。
ああ、本当に目まぐるしい日々だった。
今も変わらず騒がしいが、幼児期に比べたらかなり穏やかだ。のんびりと、ハルミとの時間を楽しむ。
しかし、長くはなかった。
いつも、昼過ぎには帰ってくるギンが帰ってこないのだ。
「どこ行っちゃったのかしら…」
探してくるから、ハルミは待ってなさい。
「あ、ハチさん!」
ハルミの声を聞きながら、全力で坂を駆け下りた。
浜辺を見回すが、ギンは見当たらない。たむろしている男達に駆け寄る。
「なあ、うちのギン見なかったか?」
「いや、見てないなぁ。」
「なんだ、ギン居ないのか?」
「帰ってこないんだ。」
「そりゃ、大変だな。俺たちも探すよ。」「助かる。」
男達と別れ、畑の方に行くと女達が子供を遊ばせていた。ギンより少し幼い子だ。
「うちのギン知らないか?」
「ここには来てないよ。」
「ギン兄ちゃんどうしたの?」
「帰ってこないんだ。なんかあったら知らせてくれ。」
「分かった。気をつけてね。」
あちらこちらを走り回っては、手当たり次第に声をかけた。しかし、誰も知らないという。広くない村だが、空き家や裏路地が多く、小さな子供を探すのは困難を極めた。「ハチ!ハチ!」
山の麓に住んでる小柄な男が、慌てた様子で走ってきた。
「あっちにトンビが集まってるんだ!確認してないけどもしかしたら…」
聞き終わる前に、俺の体は動き出していた。そこは山の麓の空き地だった。誰も手入れしていないので、草が生い茂り、大きな木が生えている。そこにトンビが何羽も集まって、何かを威嚇していた。
「ギン!ギン!」
「おとーさん!」
草むらの向こうにギンの姿が見えた。
ギンの注意が逸れたのを見て、トンビが降下してくる。
俺は全力で殴りかかった。
爪や嘴が肌を切り裂く。負けじと拳を振るい、羽が飛び散った。
トンビが距離を置き、睨み合いになる。
ギンに怪我はないようだ。しかし、先に行かせるにも抱えて走るにも、周りにトンビが多すぎる。
「おとーさん…」
「そこの草に隠れてろ。」
体を大きく見せて、ギッと睨みつける。
しかし、トンビも引かずに再度襲いかかってきた。
絶対負けるものかっ!
ガリッと、爪がトンビの首に食込む。そのまま地面に叩きつけると、トンビは動かなくなった。
飛んでいる他のトンビがざわめく。
睨みつけながら、ギンを連れてその場を離れた。
「おとーさんごめんなさい…」
涙目で付いてくるギンを叱る気になれなかった。
「怪我はないか?」
「うん。」
「じゃあ帰ろう。母さんも心配してたぞ。」「うん。」
港に声をかけた奴らが集まっていた。
「ギン!見つかったのか!」
「ハチ…お前大丈夫か?」
「大丈夫だ。トンビに襲われていた。他の連中に気をつけるよう伝えてくれるか。」
「ああ。」
「気をつけて帰れよ…。」
「ありがとな。」
ヨタヨタと坂を登る。以前もこんなことがあったな。あの頃はまだハルミと暮らしてなかった。まるで、ずっと昔のことのようだ。「おとーさん、足痛い?」
「気にするな。」
そう言いつつも、だんだん頭がぼんやりしてきていた。
「なあ、ギン。でっかくなれよ。でっかくなればあんな鳥、近寄ってこないからな。」「うん。ギンでっかくなる。おとーさんよりでっかくなるよ!」
「良い子だ。先に帰りなさい。母さんに無事な顔見せてこい。」
「おとーさんは?」
「父さんはちょっと休憩してから帰る。ほら、行け。」
「分かった!おとーさん早く帰ってきてね!」
トタトタと走っていくギンの後ろ姿を眺めた。初めて会った時は、目も良く見えていない赤子だったのに、随分立派になったもんだ。
道の端にゆっくり座り込む。
ちょっと休憩するだけだ。ちょっと休んだら帰って、ハルミの飯を食うんだ。今日はなんだろうか。マグロとか食べたいな。買い物に行ってないから無理か。なら、鶏肉でも…構わんがな……


誰かが喋っている。体がうまく動かない。すごくだるい。
「命に別状は無いですが、かなり深く切れていたので後遺症が残るかもしれません。」「ああ…でも無事で良かった。」
「今晩は入院して様子を見ましょう。明日また来て下さい。」
「はい。よろしくお願いします。」
「ハチさん、頑張ってね。」
ハルミの優しい手が頬を撫でた。返事をしたいが声が出ない。ドアが閉まる音と共に、意識が途切れた。


どうやら、坂の下の夫婦が俺を見つけてハルミに知らせ、山向こうの病院まで連れてきてくれたらしい。足や腕には包帯がぐるぐる巻かれ、トンビの爪が切り裂いた片目は見えなくなっていた。しかし、命に別状は無く、数日で退院し、家に帰った。もう歳だし、目はいいとハルミが言ったのだ。俺もそう思う。早く帰りたかったしな。
家に帰ると、ギンが飛びついてきてハルミに引き剥がされた。
「こら、ギンちゃん、お父さんは怪我してるから優しくして頂戴。」
まあまあ、とギンを撫でる。
「おとーさんなんで帰ってこなかったの!」
「すまん。ちょっと寝ちゃったみたいだ。」「ギンが悪い子だから帰ってこなかったの?」
「そんなことはない。ギンは良い子だよ。」ぐっと顔を埋めるギンを抱きしめる。ハルミが、そんな俺たちを優しく包んでくれた。


村はしばらくトンビ騒ぎで持ち切りだった。「こんな大きなトンビが死んでたのよ!ハチさん凄いわー」
「子供らも危ないってんで、しばらく大人が付き添うことになったよ。」
「ハチさんが大柄で良かった。小さかったらやられてたかもしれないわ。」
店先から聞こえてくる話を流しながら、縁側で日向ぼっこをする。
結局、片目は開かなくなり、足は引きずるようになってしまった。でも不便はない。ハルミとギンが居て、飯が食えて、ベッドで寝れれば問題ないのだ。
やがて、トンビ事件も忘れられ、静かな日常が戻ってきた。店番をして、時々散歩をして、お土産を持って帰って、ギンの面倒を見て、ハルミが溺れてないか確認して、ベッドで眠る。
穏やかな日々は、幸せそのものだった。


ギンは宣言通り、俺より大きくなった。
なんだか家が狭くなったような感覚だ。図体ばかり大きくて、まだまだ子供気分が抜けず、最近は生意気な口を聞くことも多くなった。それでも、可愛くて仕方ない。
ある日、ギンが手術をすることになった。
「日帰りだから大丈夫よ。ハチさんはお店よろしくね。」
ハルミに強引に連れて行かれたギンが心配で、落ち着かない。見かねたお客や通行人が、声をかけてくれるが上の空だった。
夕方、やっと帰ってきた。
ギンはぐったりとベッドに倒れ込んで眠った。
「大丈夫か…」
心配で側を離れられない。
「上手くいったから大丈夫よ。痛みが引いたら元気になるわ。」
そうか…。
しかし、安心できず、その日は中々眠れなかった。
翌日になると、全快とはいかないがだいぶ良くなったようで、飯もよく食べた。
あんまり構いすぎて「父さんしつこい!」と怒られてしまった。数日すると、すっかり元気になり、それからちょっと丸くなっていった。


何度も季節が巡り、少しずつ体が衰えているのを感じてきた。ハルミが手作りしてくれたセーターを着て、店番をする。
共に遊び歩いた仲間は、次々と旅立っていき、村も世代交代を迎えていた。
「ハチさん、ハルミちゃん、寒いわねー」
お喋りなおばさんが、シニアカートなるものを押しながらやってきた。もうおばあさんだ。
「聞いた?中学校が合併するんですって。」「聞いたわ。通学に車で片道2時間でしょう。これから中学に上がる子は宿舎に入るしか無いわね。」
「ねー。まだ幼いのに。村からますます子供が居なくなっちゃうわ…。」
奥からギンが出てきた。
「父さん、何の話?」
「お前には関係ないから安心しろ。」
「ふーん。」
この頃そんな話ばかりだ。
少しずつ村が変わっていく。時の流れには逆らえないものだ。


俺は、縁側で寝ていることが増えた。
あまり食欲もなくて、ハルミの作ってくれる飯を食べきれない事も多くなった。
「ハチさん…。」
ハルミが俺の横に座る。
「最近調子悪いでしょう。」
そんなことはない。心配するな。
俺は元気にして見せる。そのまま居間に向かった。
水をくれ。喉が渇いた。
ハルミは俺の様子を見て、物憂げな表情で水を出してくれた。


年が明けた頃、俺は吐くことが増えた。
ハルミは、何度も俺を病院に連れて行こうとしていた。その度に拒否し、逃げ回ったが、ついに抵抗する体力もなくなり、病院に行くことになった。
色々な検査をしたあと、医者は悲しげな顔をした。
「慢性腎不全です。かなり状態が悪いですね。」
「そんな…治るんですよね?」
「薬を出したり、脱水を防ぐために点滴などをすることはできます。ただ…」
少し押し黙った。
「ハチさんはもう歳ですから、かえって負担をかけてしまう可能性も高いです。」
ハルミは、手で顔を覆った。
泣くな。俺はまだ生きてるじゃないか。
「すみません…。何か、私にできることは無いですか?」
ハルミは涙を拭って、ぐっと堪えている。医者は、俺とハルミを見て続けた。
「食事療法があります。腎臓に負担をかけない食事を心がけて下さい。それから、水をよく飲ませて下さい。」
「あとは、悔いの無いように過ごされて下さい。」
医者は、ハルミの肩をポンポンと叩いた。
その日から飯が不味くなった。
今までの美味い食事ではなく、缶詰に入ったミンチ状の何かが出てくる。肉なのか魚なのか野菜なのか分からない。大好きなマグロや、お魚チップスも出してもらえなくなり、俺の食欲はさらに無くなっていった。
ハルミは、俺が食べないことに不安を感じ、無理に食べさせようとしたり、泣いたりと情緒不安定になっている。申し訳なくなって少しばかり食べてみるが、やはり美味しくない。
ハルミの料理が食べたい。
そう訴えても、中々変わらなかった。
夜、ハルミが寝たあと、ギンがそばに来た。「父さん、母さんはなんでいつもと違うものを出すの?」
「父さんの腎臓が悪いからだ。」
「なんで腎臓が悪いと、飯が変わるの?」「長生きしてほしいからだ。」
「長生きして良いことがあるの?」
「ギン、人間とは愚かで傲慢で繊細なんだ。人間は死をとても恐れていて、他の楽しみを無くしてでも生きようとするのさ。」
「じゃあ、母さんが変なのも、父さんが死ぬのを怖がっているからなの?」
「ああ。」
「なんで?父さんはまだ生きてるじゃないか。」
「人間とは、今を生きることが難しいんだよ。過去を悔い、未来を案じ、苦悩を抱える生き物なんだ。」
ギンは心底不思議そうな顔をする。
まだ分からないだろう。
「ギン、母さんの側に居なさい。寂しさも悲しみも、幸せも喜びも分かち合いなさい。」
「…うん。」
ギンは、言葉の真意は分からないようだが、頷いて頭突きをした。


春の息吹を感じる頃、俺は自力で動くこともできなくなっていた。
ハルミは、あれからたくさん悩んで、泣いて、悔いていた。
「もっと早く気付けたら」「やっぱり治療をすれば良かった」「私の食事が良くなかったのかも」
そして必ず、俺を抱きしめて言うのだ。
「ごめんねハチさん、ごめんね…。」
その度に俺は、ハルミのせいではない、これは定めなのだと言った。
そうしてある日、ハルミは吹っ切れた。
大好きなハルミの手料理が出てくるようになった。よくわからない水が、普通の水になった。泣かなくなって、前と同じように過ごすようになった。たくさん話して、一緒に寝た。ギンは、ちょっとだけ寝相が良くなった。平穏な日々が幸せだった。


早朝に目が覚めた。
なんだか今日は調子が良い。身体に力が入る。
久しぶりに自分の足で起きた俺を、ハルミは泣いて喜んだ。
飯を平らげ、ギンとプロレスをした。
縁側で昼寝をし、店先に出た。
すっかり定位置になった、ハルミの膝に乗る。かつて俺が座っていた、座布団が乗った丸椅子はギンの定位置になっている。
さわさわと、柔らかい風が吹いている。
最初に来た頃はキツく感じた潮の匂いも、今では落ち着く。
ハルミが、優しく首を撫でた。
「ハチさん、初めて会った時の事覚えてる?」
もちろん。
「急に見知らぬ猫が来て、とっても驚いたわ。次の日は、立派なアジを持ってきてくれたね。」
ああ。港でじっくり選んできたんだ。
「それから、トラくんと喧嘩して怪我をしてきたり。」
あの若いやつも、最近じゃすっかり老けたな。
「キジ白なのにハチワレだと思って、勝手にハチさんって呼んだけど、すんなり受け入れてくれたね。」
ハルミが呼んでくれるなら何でも良かったよ。
「一緒に暮らしましょうって言った日から来なくなっちゃって、なんだか気まずかったわ。もしかして分かってたの?」
そりゃ、レディと暮らすんだから悩むさ。
「台風の日、びしょ濡れになりながら来て、びっくりしたけど嬉しかった。あれから、ずっと私の側に居てくれたね。」
あの時、ハルミが誘ってくれなきゃ俺は今も野良だったかもな。
「猫用のご飯、どうせなら作ってみようって毎日工夫してみたりして。ちょっと失敗しても、文句も言わずに食べてくれて嬉しかった。」
ハルミの飯を残すわけがない。全部美味かったよ。
「ギンを貰ってきたときも、最初は戸惑ってたけど、良いお父さんになってくれて本当に助かった。」
あれは根負けしたよ。まあ、ギンも立派に育って俺も嬉しい。
「ギンがトンビに襲われたときも、体張ってくれて…私が行かなきゃいけなかったのに、ごめんね。」
良いのさ。ハルミが怪我したら大変だからな。
「ギンの去勢手術の時は、一晩中付き添ってくれて。ちょっとうざがられてたりしてたね。」
こっちは心配だったのに、親の心子知らずだよな。
「山鳩や雀、アジ、色んな物を持って帰ってきてくれたね。バッタが枕元にあった時はさすがにびっくりしたわ。」
まさか虫が嫌いだとは思わなかったんだ。あんなに叫んだのはあの時だけだったな。
「全部全部、幸せで、本当に…」
頭に涙が落ちてきた。
「ハチさん、貴方が居なくなったら悲しい。お風呂の前で鳴いてくれないと寂しい。お魚チップスも、マグロも、鶏肉も、いくらでも用意する。おトイレが上手くできなくても、歩けなくても、私がお世話するから、だから、死なないで、死なないでよ…」
溢れ出る涙をそっと舐めた。
ハルミ。命あるものはいずれ死ぬのだ。出会うために生まれ、還り、次の命を受けるのだ。俺は幸せだった。ハルミに出会って、ギンに出会って、この村でお前たちと暮らせて良かった。何も後悔しなくていい。
「父さん、行くの?」
「ああ。元気でなギン。」
ちょんと鼻を合わせる。
ゆっくりと、体の力が抜けていく。
「ハチさん、ハチさんっ!」
ハルミにキツく抱きしめられる。
「ありがとう、ハチさん…」
ありがとう、ハルミ。またな。

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