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少女漫画の思い出

 父が児童文学好きで家にたくさん本があったのに加えて、うちには姉が買い集めた昭和の少女漫画のコレクションもあった。そちらにもずいぶんお世話になった。
 長姉は、移り気なメジャー路線なのでオタクとは言えないものの、やや収集癖があって、少女漫画の他にも鉛筆や消しゴムなどの文房具も、尋常ではない量を集めていた。わたしと同じならお小遣いは極々わずかだったはずで、お年玉やおねだりなどを駆使していたのだろうか。わたしは交渉が苦手で、くれるのを待つか他を切り詰めるタイプだったけれど、姉は昔からねだるのが上手だった。もらうのが当然ぐらいの勢いで。
 かつて長姉は家庭内の暴君で、漫画を読む為には、おやつを買いに行くパシリをするなどして機嫌をとる必要があった。ただ、わたしの方が家に帰る時間が圧倒的に早かったから、こっそり部屋に入って読んでは、時々ばれて怒られていた。怒られるのは嫌だけれど、物語の続きを読む魅力に抵抗できなかった。

 うちにあった少女漫画は、おもに姉が購読していた『なかよし』系列のもので、後には『ぶーけ』や『花とゆめ』系列のものを買った。同級生のほとんどは『りぼん』派で、外では話の合う子がいなかった。
 昔の少女漫画は、時代がかった悲劇や壮大過ぎるファンタジーなど、何となく昼ドラのような分かりやすさがあり、子どもの頃はそういう非現実的な極端さも楽しんでいた気がする。絵柄の好みもあるけれど、うまく表現できない。鋭角的でない絵が好きな気はする。劇画も嫌いじゃないけど、馴染んでいないので好みでないかもしれない。
 家にあったコレクションで覚えているのは、あさぎり夕、いがらしゆみこ、竹本泉、原ちえこ、高階良子、高橋千鶴、庄司陽子などだ。りぼんの人だけど萩岩睦美もあった。あと、1冊だけあった楳図かずおの『へび少女』がとにかく怖くて、でも恐る恐る読み返していた記憶がある。田舎では蛇や井戸が身近なので、妙な生々しさを感じた。
 たまに友達の家でりぼん系のものを読ませてもらったり、ピアノの先生の家で順番を待つ間に『いつもポケットにショパン』を読んだりもしていた。
 大人になって気づいたけれど、わたし達姉妹は、恋愛ものを好んではいなかった。そういう恋愛でない少女漫画のニッチな作家さんが、花とゆめ系からぞろぞろと出てきた時期だった。美内すずえ『ガラスの仮面』、成田美名子『エイリアン通り』、『動物のお医者さん』などの佐々木倫子、川原泉、日渡早紀『僕の地球を守って』、明智抄、清水玲子のアンドロイドのシリーズや『月の子』『輝夜姫(の途中まで)』などなど。

 古いのは途中で手放してしまったけれど、途中からはわたしもコレクターに加わって、大島弓子、内田善美、吉野朔実、楠本まき、三原順など、大人も読んで楽しめるものを買い揃えて、それらは今も持っていて読み返している。慰めでありエネルギーにもなり、知識もずいぶんともらった。
 ここ10年くらいで買ったものは、少女漫画とは呼ばないかもしれないが、ナウシカ、羽海野チカ『三月のライオン』、タムくんの『ブランコ』、田中相『千年万年りんごの子』、施川ユウキ『銀河の死なない子供たちへ』、ほしよりこ『逢沢りく』、1巻だけだけれどさくらももこ『コジコジ』。どれも名作だと思う。今後買おうとしているのは、松本大洋の最近のものだ。
 長姉は今は「大人なのに漫画読むの?」などと言うようになったけれど、わたしは、漫画だって大人の人生も左右するぐらい力があると思っている。今も、読書するエネルギーが沸かない時期は、漫画だけでもと読むことが多い。とにかく何かを読んでいたい。

 カバー写真は、千日紅(センニチコウ)の花。


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