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『カタツムリレポート#5 ヤマハ発動機株式会社』後編

「一人ひとりが循環者になる未来ってどんな未来だろう?」
カタツムリレポートは、よりよい未来をつくろうとする人達や研究者の方に、その研究や取り組みのワクワクをご紹介いただくインタビュー記事です。子どもたちが「みらいをつくる職業」をもっと身近に感じられるよう、参加企業や研究者の取り組みにググッとフォーカスしてお届けします。
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このnoteは、JST「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)」地域共創分野(慶應義塾大学×鎌倉市)リスペクトでつながる「共生アップサイクル社会」共創拠点の循環者学習分科会が運営しています。


〈前編〉はこちら

Town eMotionの実現

飯島
最初の構想からTown eMotionの実現に近づいていったのでしょうか?

榊原さん
そうですね。道路空間などをもっと柔軟に使っていきましょうとか、例えばみんな渋滞になったら嫌だけれども、そもそももっとゆっくり動くという価値観もありますよね、というようなこともこのなかには詰めています。先ほどお話しした人中心であることと、感動創造企業(ヤマハ発動機さんの企業目的)という目線で、まちの感動につながるようなことを、僕らが全部引っ張るというよりは、いろんな人たちをアシストしながら、みんなで共につくる“共創”の中でわれわれが役割を持つ、ということをここには定めています。

パンフレットに描かれている Town eMotion の構想

これが3年前に書いた妄想の絵の一部ですが、実はここで音を楽しみながら動いたり、車道や歩道の使い方をもっと曖昧にして過ごせる空間にしてみたり、ということを描いています。空間としていろんな人が公平に価値を享受できて、そこでモビリティがコミュニケーションの媒介となって人同士がつながっていく。他にも、災害の時に役立つモビリティを普段から使いこなしていたら、いざという時に活用できるなど、さらにまちのインフラ全体が全部動かせるようになっていたら、時間や場所が自由になるので、例えばこの週末だけモビリティがやってきてある場所ににぎわいを生むとか、そうじゃない時は別のところで人や物を運んでいるとか、そういう柔軟なまちのイメージです。そんな妄想を3年前にはしていて、それを実際にまちの中で実験を繰り返しながら進めているという状況です。
まだまだ道半ばですが、そんな想いがここには込められています。当時は実証実験を一つもしていないけど、とりあえずパンフレットを作ろうということで全部妄想です(笑)

飯島
各地で実験、実践例はあるのですか?

榊原さん
そうですね。ちょうどこのパンフを一緒に作った方が、実はデザイナーでもあり、インフラ・土木のデザインをやっていらっしゃる方で、道路空間や河川空間等の専門家です。かつ、世田谷の三宿というエリアで商店会の理事もされている、まちを自分たちで盛り上げていく当事者でもある方です。その方にコンセプトワークから入っていただき、最初の実験は三宿でやりました。また鎌倉ではモビリティの意味を広くとらえ、多彩な活動をしています。そうした活動を通じてできた多分野の方々との関係を通じて、都心の神田でグリーンスローモビリティという乗り物でまちを回遊する実験をしたり、つくばでは、エネルギーや道路などの空間について共に考えながらモビリティを体験する場をつくったり。そういう形で首都圏エリアを中心に広く活動して、それぞれに別の意味や複数の意味を持たせて実証実験を行なっています。
また今年からはわれわれの本社がある静岡県磐田市でも、会社として地元への貢献を継続的に行いながら、そこで新しいしくみを生んでいく活動も始めています。しくみというのはビジネスであったり、製品やサービスであったり、社会と会社の界面で動くような人をつくることであったり、そうした活動を循環させていきたいな、って思っています。

御厨の取り組みでまちを巡回していたグリーンスローモビリティ

住友さん
そういう意味では、ロジカルなアプローチをもちろんやっていますが、基本的にまちづくりはご縁が大事ですね。最初のご縁が先ほどの世田谷であり、実績でもあるので、やってるとそこでまたつながりができて、他でまちづくりをやっている人が来て、どんどん広がっていったという感じですね。

榊原さん
我々はまちなかで検証したいことがあるので、先ほどお話ししたように乗り物を持ってきてにぎわいの場づくりを行ったりするのですが、そこにいろんな方が興味を持って見にきてくださり、そこから関係が生まれて「今度一緒にこういうのをやりませんか?」という話になって、どんどんホップしていく感じ。

住友さん
世田谷でやっているところに鎌倉リビングラボの秋山先生らがいらして鎌倉での活動が加速し、鎌倉のひとまちラボに世田谷の方々が来て、鎌倉のスマートシティ推進の参与の方と世田谷の方々がつながって、世田谷もスマートシティに力を入れるようになったり、いろいろな面白いご縁に発展していってますね。

2021年におこなった三宿あおぞら図書館

榊原さん
これは一番最初に行ったあおぞら図書館という地域の共創関係から生まれた実験例ですが、地域の商店会のイベントに協力する形で大学と図書館と一緒に実現しました。僕らだけではできないことですから、しっかり関係性を作りつつ、これを皮切りに今度は道路空間を使った社会実験に展開していきました。この乗り物がグリーンスローモビリティといって時速20キロ未満でゆっくり動くモビリティサービスなのですが、このようにまちに馴染むファニチャーのようなデザインんのコンセプト車両です。もともとは心地よい移動空間としてデザインされたものなのですが、「これって停めておけばここでくつろげるじゃん!」というアイディアが生まれて。キッチンカーを1台持って来て2台で運用したら、人が滞留できる。そうすると狙った時間に狙った場所に、例えばパーキングメーターのあるところに停めれば、そこがにぎわいの場になるんじゃない?って言って、これも商店会と一緒に実際にやってみたっていう。

コンセプト車両を使った滞留空間の実験「三宿モバイルパークレット」

飯島
停まっているだけでまちの雰囲気が変わりますね!

榊原さん
普段はどこにでもあるような道路空間ですが、ここには実は美味しいチョコレートショップがあって、その前にこのモビリティを設置すると、お店と歩道とこの道路空間が一体の空間として、場作りができるよということを証明できたという。

三宿のチョコレートショップの前でにぎわいが生まれている様子

榊原さん
多様なモビリティの一つに「カーゴバイク」というジャンルがあり、オランダ製の電動アシストのタイプもあれば、日本の会社が試作して製品化しているものもあります。また他にもパーソナルな移動に適したモビリティがあり、こちらが早川さんが企画した試作品です。

パーソナルモビリティNeEMO

早川さん
ワイルドなシニアカーと言いましょうか(笑)コンセプトカーの段階でニーズも多く、実際に今の日本の道路交通法に則ってまちなかで乗れるものを作った試作車両です。

リビングラボでの実験風景

榊原さん
このNeEMOを使った取り組みがリビングラボとの関わりの初期ですね。リビングラボに依頼をして、人を集めていただいて、今泉台で試乗イベントを行ったり、別の日には坂の多いエリアで急坂チャレンジもしました。
2022年には由比ヶ浜海浜公園でリビングラボDAYというイベントも開催しました。この時もパラサーフィンのナミニケーションズさんや、共創活動の一環でマツダさんをはじめ、ユニバーサルデザインというテーマでいろいろな企業に集まっていただきました。われわれのパートナー企業でもある「GKデザイン」という日本の老舗のデザイン集団の「モノ/コトLab.」もユニバーサルデザイン分野で先駆的な共創の取り組みをされているので、そういったところにも関わっていただきながら実践していきましたね。

住友さん
そういう意味ではいろんな地域で共創活動を実践していますが、このリサイクリエーションラボでのサーキュラーエコノミーをテーマにしたTown eMotionの活動は鎌倉だけです。今後はここで学んだことを他のエリアにも展開できると思います。

榊原さん
さて、これらの実験をものづくりにどう反映していけるかっていうところで、例えば滞留空間。人が滞留する仕方にはいろいろありますが、ランチタイムはご飯を食べたいし、止まり木のようにコーヒーだけ飲んでいる場も考えられるので、時間と場所で乗り物の中身を組み替えられるようにしたんですね。
実際にそうした体験ができる試作車を作ってまちの中で試す。お店の前で、車内の椅子やカウンターの組み合わせを変えたりしながらやってみたり。そうすると路上のパーキングスペースとお店が一体になっちゃうんですね。朝とか夕方は落ち着く場所として使えばいいし、昼間はうわーっとにぎわうみたいな。これも実験ですね。ただすべてを実際に試せるわけではないので、目指す理想の姿の仮設をバーチャル動画にして共有してリアルな実験と合わせて検証し、新しい製品やサービスに反映させていこうっていう取り組みです。
それもあって、乗り物単体だけではなく空間とかまちと一緒に考えないといけないということが大きなポイントです。そんなアプローチで新しい乗り物とかまちそのものも考えたいなと思っています。
でも僕らだけではできないですし、僕らはどうしてもモビリティの開発がコアになるので、まちの専門家の方やCOI-NEXTであればゼネコンの大成建設さんなどまち全体を考えられる人たちがいるので、そういう人たちとで一緒にやる、という感じですかね。

休憩・交流できるくつろぎの場を提供する「ラウンジモビリティ」

住友さん
そうですね。例えばこれも中身はゴルフカーなんですが、これをベースに地域のニーズに合わせて専用に作ることもできるので、リサイクリエーションラボのテーマである地域の資源を例えばこういうものにアップサイクルして、地域のオリジナルを地元の住民の人たちやいろんなステークホルダーの人たちと共創で作るみたいな形もあるのかな。

榊原さん
そうすると長く愛されるしくみになると思います。

住友さん
活動の中でいろいろ仮説を立てて検証していく必要があります。カーゴバイクもその一つで、地域の資源循環を考えた時、できるだけカーボンニュートラルな輸送手段であることが求められ、ヨーロッパで有効性が実証されているカーゴバイクが有効ではないかと考え検証中です。

榊原さん
そうですね。検証した結果、有効じゃないっていう可能性ももちろんあるんですよね。そうしたら仮説をアップデートしていけばよいので。

COI-NEXTでのヤマハ発動機の役割とチーム

飯島
COI-NEXTでの役割というか、循環を支えるモビリティというような位置付けというところをどう捉えていますか?

住友さん
多分物理的な資源の循環だけではなくて、組織と組織、人と人をつなぐ、メディアとしての乗り物っていうテーマのような気がしています。

榊原さん
そうですね。

飯島
すごくチームワークを感じるのですが、学校などでチームを組む時などに何か生かせるものがあるんじゃないかなと思います。どうしてこんな創造的なことを考えられるチームが作れるのか、何か秘訣などあれば教えてください。

早川さん
私は実は他の部門との兼務でして、本籍としてはそちらでDX推進とかをしているんですが、意識的に仕向けないと自分の業務だけに集中する集団とそれを管理・調整するリーダーの構図になりがちなんです。このチームを見ていていつも思うことは、共通目的がいつも芯にあって、普段個々バラバラに動いたり自分の仕事をしてるんだけど、お互いがそのことを理解しているから、助けて欲しい〜なんて状況になったときに、状況を共有するだけで、「それだったら自分が手伝えるよ」とか、「ここを手伝ってほしい」というのを、気軽かつ自主的に言い合える関係性を持っているのが強みだなと思
います。

榊原さん
なるほど〜!そう分析するんですね!新鮮だな〜(笑)

早笠さん
決まったルールが良しとされる部門もあって、部署によって文化が違うのですよね。それはそれで良しとして、このチームは基本的にはティール組織として実践していますよね。

榊原さん
そうですね。僕、司令塔じゃないんですよ。どちらかというと、頑張ってやってね!みたいな感じなんですよね。僕が何かを指示するということはあまりなくて。例えばここだったら、僕がリードするわけじゃなくて別の人がリードして進んでいくと。このメンバーも鎌倉専任というわけではなく、別の地域ではまた別の組み方があって、そのプロジェクトや場に応じて目的に応じてチームを組んでいる形なので、みんなにそれぞれ一定の責任役割が必ずあるという状態ですかね。それは一つのポイントかもしれないですね。

早川さん
「ジブンゴト」としてちゃんとやってるというところが一番かもしれないですね。

飯島
同じ会社の中でも別の部署と違う点ではすごく大変な気もしますが、、。

榊原さん
なので、もちろん課題はありますよね(笑)ただ、僕らも、これが全社に普及するべきとは全然思ってなくて、会社を人とか生き物として見たときに、こういう活動も一定は必要で、会社が人格だとしたら、その人格の中にちゃんと新しいことを常に探し続けることと、もうちょっとしっかり腰を据えてやるということがあると思うので、全体の中でいう役割みたいなことなのかな。

早川さん
考えてやるよりも指示されたことをやる方が好きな人もいるので、「餅は餅屋」で適正に合わせた形になってくるといいのかなと思います。

榊原さん
本日は貴重な機会をいただきありがとうございました。これだけの人数で盛り上がると、あとで編集するの大変ですね(笑)

ーーーヤマハのみなさま、ありがとうございました!!
今までの「研究者」とは少し違った形でしたが、綿密な計画からではなく実践や現場からのフィードバックを経ていくやり方は共通していました。共有している目的に対してそれぞれのやり方でアプローチをしている、という点がとても印象的でした!(飯島)


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