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『カタツムリレポート#7 東京エコリサイクル株式会社』〈後編〉


前編はこちら

人にフォーカス!

法律ができる前から実証プラントを作り、検証に奔走

大木さん 実は川上は家電リサイクル法ができる前から、日立製作所の立場で実証プラントを作り、家電リサイクルの実現に取り組んでいました。

川上さん 当時、家電製品はほとんどが廃棄後に埋め立てられており、これではいけないと、日立製作所として環境課題に取り組む一環として家電リサイクルを開始しました。しかし、メーカーにとっては新たな法律がビジネスに与える影響を懸念し、当初さまざまなせめぎ合いがありました。それでも、実証プラントを作り、実現可能性を示すことが必要だと考え、法律ができる10年より前から実践してきました。最後は家電製品協会やメーカー全体を巻き込みながら、全国的にプラント技術や回収方法、破砕技術などの開発と普及が進み、法律制定につながる状況が生まれました。

飯島 家電リサイクル法ができる前は、家電製品は主に埋め立てられていたのですね。

川上さん 2001年当時は容器包装リサイクル法、家電リサイクル法、自動車リサイクル法などのリサイクルに関する法律が一気に制定されましたが、それらは自治体の税金によって処理され、ほとんどは埋め立てられていました。そして埋め立て地の逼迫という最大の問題になった。そのため、法律制定の根底には、リサイクル促進と埋め立て量の削減目標がありました。

飯島 今のプラスチック課題は、例えば海ガメの鼻にプラスチックストローが刺さっている動画が世界配信されたり、世代を超えて同じ時代に生きている人々が同じ情報をキャッチし、同じ課題感が浸透しているという点で変化が起きやすいと感じたのですが、家電リサイクル法ができる前の社会的背景として、例えば公害問題や社会課題が一般市民を巻き込んで共有されているということではなかったのだな、ということが今のお話からわかりました。

川上さん そうではなかったのです。当時はとにかく埋め立て地がなかった。

飯島 でもプラスチック課題についてはみんなが知っていて、変化が起きやすいという意味で、家電リサイクルにとっても良い兆しかもしれないですね。

川上さん 2004年ごろから徐々に使用されるようになってきました。なぜかというと、当時日本で回収されたほとんどのプラスチックは中国に輸出されました。中国では多少品質が低くても再利用製品として販売するような意識や市場があり、世界中から廃プラが集まり、国内の公害問題にも発展したため、中国側が廃プラ輸入を全面禁止しました。これが5~6年前ですから、これにより日本国内の需要が増加し、再生プラスチックを活用する必要性が高まりました。
その後、ヨーロッパからの圧力や海洋プラスチック問題などが加わり、メーカーもリサイクル材を積極的に活用すべきだという意識が高まりました。我々は20年以上にわたりこの仕事に従事してきましたが、やっとですね。意識そのものが変わってきました。

飯島 ここ2~3年でさらに企業側も市民側も環境への意識が高まったのではないかと感じます。

川上さん 日立も2030年までに製品の40%から50%にリサイクル材を使用することを目標として掲げています。これまではバージン材の方が安いという観点でリサイクル材を避ける傾向がありましたが、我々が回収したプラスチックをメーカーに戻し、新しい製品に利用される流れができつつあります。白物家電という言葉が象徴するように、メーカー側は消費者動向を重視しますので、リサイクル材を使用した家電製品は買いたくないという消費者意識もあったと思いますが、それが今世の中の風が少しづつ変わってきて、消費者側も多少高くてもそれらを購入しようという意識が徐々に広がってきていると感じています。

ちょうど取材直後にyahooニュースで取り上げられていました。
日立の再生プラスチック製造現場から - 家電の再生プラスチック使用率向上に必要なもの

たくさんの家電製品が回収され、トラックに運ばれて
一つ一つの製品が人の手によって分解されていきます。
分解された各素材は破砕のために運ばれて
各素材たちは風力選別機で選別され、
は、はじかれた!?
PPやPSなどそれぞれのプラスチックの種類ごとに分けられ、再製品化されたり、3Dプリンタのペレットに利用されたりします。

未来にフォーカス!

家電リサイクルが示す未来と法整備の重要性

飯島 今の事業の先にどのような期待や夢がありますか?

川上さん 動脈産業と静脈産業が一体となってリサイクルを進める方向性になることが夢ですし、互いに良い方向に発信し合って、受け入れられるような状態になればと感じます。また根底には法律の制定とメーカーへの規制も重要だと思います。家電リサイクル法はメーカーにリサイクルを義務付けすることで進展しています。小型家電リサイクル法や昨年4月に施行されたプラスチック資源有効利用促進法はメーカー側の義務はほぼなく、リサイクルしやすい製品の開発努力義務ぐらいです。ある程度法律で規制することも成功の鍵になると思います。

大木さん 川上は家電リサイクル法の法改正グループにも参加していて意見提供をしていました。現在も5年に一度の審議会では、リサイクル料金の前払い方式と後払い方式などについて議論が行われています。家電リサイクル法は主に買い替えの際に不要になった家電を引き取ることになりますので、小売店や販売店には回収、メーカーにはリサイクルの義務、消費者には支払いの義務がありますが、これは経済の仕組みを考慮して作られています。ヨーロッパではWEEE(Waste Electrical and Electronic Equipment)という法律が存在し、日本の家電リサイクル法よりも広範な品目を対象にし、メーカーや輸入者などがリサイクルの義務を負っています。また、特定の有害物質を含むような材料の利用を制限したり、それを利用する場合は製品に課税するなどして環境に優しい製品の製造が進んでいます。一方、日本はリサイクル法で品目を細分化し、適切な料金を消費者に支払ってもらいながら進めています。世界的に見ても日本の家電リサイクル法は成功していると言えるので、どちらが良いか判断は難しいですが、日本人はゴミの料金を支払いながらも真面目にリサイクルに取り組む文化なのですね。

大木さん ヨーロッパではその他にも、田中先生も同様にこの取り組みで提唱されているマテリアルパスポートなど、製品に使われている素材や資源、CO2排出量などをトレースするシステムなどの動きもあります。静脈産業におけるDXについては、私たちは既存の業務や技術を改良し、業務効率や持続可能性を高めるための守りのDXに今は焦点を当てていますが、先ほどのマテリアルパスポートなどの仕組みが将来的に普及するようなことがあれば静脈産業のDXにも波及する可能性があるため、注視しています。
また、2人の息子を持つ親として、最近の教科書や社会科の授業で環境に関するキーワードが増えている印象で、家電リサイクル法やSDGsも普通に教科書に載っていることから、環境教育が進んでいると感じます。今後、この世代が大人になるにつれて環境への意識がどう変わるかが興味深いです。家電リサイクルの必要性や仕組みが正しく理解されるために、我々も情報発信や啓発に協力し、社会の循環につながればと思います。

ーーー川上さん、大木さん、ありがとうございました!!
現場を見学させていただき、家電リサイクルは決して簡単なことではなく、そして意外とわたしたち消費者の意識に委ねられている部分も大きいと感じました。リサイクルのしやすさや製品の機能などトレードオフになる面も多いですが、消費者、メーカー、リサイクル会社、自治体が意識を共有して取り組んでいけたらいいですね。(飯島)


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