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『カタツムリレポート#1 花王株式会社』 後編

JST「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)」地域共創分野(慶應義塾大学✖️鎌倉市)リスペクトでつながる「共生アップサイクル社会」共創拠点の循環者学習分科会が運営するnoteです。こちらのnoteでは、子どもの目線でわかりやすく技術を伝えたり、研究者や技術者などの「みらいをつくる職業」をもっと身近に感じられるように、参画企業の取り組みやエピソードをインタビュー形式でご紹介していきます。


前編はこちら

研究にフォーカス!

飯島
ゼロイチからスケールアップするには、どういうところが難しいと感じますか?社会実装に近づけば近づくほど、コストや量の話になりますし、そのあたりはいかがでしょうか。

松本さん
本当に0から1を作るところが一番難しいと私は思います。これまでの世の中にないものができたとか、まったく違う新しいコンセプトのものができますよとか。そういうアイディアが出てきたら、あとは「何とか造るよ」っていうのが私の立場です。出口に行けば行くほどコストの縛りなどは大きくなってきますので、そういう意味では難しさも当然あります。

飯島
試験管からテーブルサイズというように、そのフェーズごとの特有の難しさはありますか?

松本さん
そうですね。それぞれで注目しないといけないポイントは変わります。スケールを大きくして実験すると、違う現象が起きて全くできなくなるということは、実は日常茶飯事です。

飯島
何か限界ポイントみたいなのがあるのですか?

松本さん
ここまではこういう理論でスケールアップできるけど、ここから先は別の理論がある可能性もあり、最後まで同じ理論の延長線上でものができるかというと、そうとは限らない。ギャップがあるものについては難しいですね。最終的には全く違うプロセスに変わってたということもありますね。

予想外の発見が一番楽しい〜セレンディピティ

松本さん
仮説立てて実験で検証し、仮説を修正しながら、条件変えて、また次の実験をしようとするのですが、ごくたまに全く予想外の結果が出るということがあって、それってすごい発見なんですね。
「もっとすごい事出来るじゃん!」というところが何となく分かってくると、それが一番楽しみですね。
「セレンディピティ」。偶然に何か新しいことを発見する力って訳されますが、そういう要素が研究には大切かなと思っていて、それは漠然と実験や研究をやってても見過ごしちゃうんですよ。やっぱり常に潜在意識の中で「ここは何とかしたい。ここをクリアしたい。」という思いをずっと持ち続けていると、普通の人が見過ごしてしまうような現象や「全くうまくできてないじゃん」というような結果が出ても、「あれ?これこうなのかな?」ということが分かることがあるんですね。
私もそういう経験は数多くはないですが、その時はすごく嬉しいですよね。その経験は子どもたちに伝えたいですね。

飯島
失敗の中にもなにかあるというような、、、

松本さん
失敗ではないんですね、本当は。漠然と見てしまえば、仮説と違ったからダメだと思うかもしれないですが、実は違う目線や全然別の出口があったりするんですね。

飯島
そのような意識の作り方は、回を重ねていくうちにできていたという感じでなのでしょうか?それとも、意識を持っていた方がいいことを最初から教えられるというか。

松本さん
どうなんだろう。人にはそういうことをよく伝えますが、「セレンディピティを身につける方法は?」と問われると、難しいですね。ただ実験と研究をしながら、何となく感じとったのかなという気はします。すごく偉そうに言ってますが、皆さんから見たら全然つまんない、小さいレベルかもしれません(笑)でも自分の中では「何かすごいじゃん!発見じゃん!」っていう感じで、そういうところは自己満足の世界ですね。

飯島
インタビュー項目を考える際に、研究者とか技術者の方って、小さなものに入り込めるちょっとこだわり気質のようなものがあるんじゃないかという風に予想していたのですが、松本さんはいかがですか?

松本さん
人によるかなと思います。私はどちらかというと、あんまり突き詰めるタイプではなくて、数打ちゃ当たるタイプな気がしますね。
これダメだ、じゃあこっちやってみようかな〜。ちょっとこれも煮詰まったから、ほっといてこっちやってみるかな〜というように。そういう意味ではあんまり研究者向きではない気もします(笑)だから煮詰まってしまって大変になったというような経験はあんまりないですね。ただ出口に近くなって何回やってもできないという状況はすごくプレッシャーです。これは大きな声では言えないですが、毎回何100キロというスケールで実験しないといけないときに、それを50何回やっても全然できなかったということがあり、最後は神社に拝みに行って「今日はなんとか!」みたいなことはありましたね(笑)

飯島
神社、大事ですね!
発売に近い時期になるとプレッシャーもすごそうですね。

松本さん
もう絶対何月何日までに出さないといけない、じゃあその原料はいつまでにいくつ出さないといけないというプレッシャーがあるので、そうなるともう研究じゃなくて根性の世界ですね(笑)
もうエンド決められてて、とにかくこの期日までに出すという販売準備も進んでいるわけですから、、、、

飯島
それは神社に行きますね。

松本さん
行きました(笑)

飯島
そうやって一つの商品を作るために、幾度となく失敗や積み重ねがあって世の中に出てくることを考えると、、、

松本さん
だんだん失敗のスケールも大きくなってくるので大変です(笑)

研究職の1日の過ごし方について

飯島
研究職の方の1日はどんな過ごし方なのでしょうか。

松本さん
今までは8時半に出社して、まずメールチェック。昨日の内容をもう1回確認して、実験設備を組み立てて、原料調整してっていう。午後から実験して結果を夕方にまとめて、片付けして帰るというようなコロナ前はそのような日常でした。

今取り組んでいる研究内容はどんなことですか?

(右側)つめかえパック、(左側)つめかえパックからできた再生樹脂ペレット。おかえりブロックやサイクロイドの原料になります。

松本さん
今はものづくりではなくて、どうすれば使用済みのつめかえパックを市民の人にごみではなく資源だということを知ってもらい「しげんポスト」に入れていただけるかを考えています。
難しい言葉だと「行動変容」。今までの行動習慣を、より環境が良くなるように変えていく、「人のこころ」の研究です。その中で、もののつながりと人のつながりという両方があるんだよということを、理解してもらえたらいいですね。まずはリサイクリエーションに興味を持ってもらって、その次にリサイクル技術が気になり、その先の関心を持つというような。
洗剤のつめかえパックも「水平リサイクルした」とお伝えしていますが、まだ全体の中の1%です。それ以外はまだバージン樹脂を使ってやらざるを得ないところがあります。

飯島
どのあたりが難しいんですか?

松本さん
やはり均一なフィルムにするというところが難しく、7層ぐらいの構造なんですね。一番中心のところにリサイクル樹脂を使っています。中身を一定期間、安定して保存しておかないといけないということが、容器の最大の使命ですので、それを担保するためにはリサイクル樹脂の品質をもっともっと上げていかないといけない、という段階です。
一般の家庭から回収したつめかえパックをリサイクルして造った部分は1%しか入ってないので、そこまで聞いた人は「えー全然ダメじゃん」と言われるのかもしれません。「遂にできたよ」という部分と、「まだまだこれからね」という部分を、両方ともちゃんと知ってもらいたいので、技術の部分まで興味を持っていただけると嬉しいです。
真の水平リサイクルが達成されるためには、人々の行動変容のところと技術のところ、両方がないと進歩していかないんだろうなと思います。

これからの子どもたちにむけて

飯島
子供の頃は何が好きでしたか?

松本さん
理科とか工作は好きでしたね。

飯島
学校でこれを学んでおいてよかったというものはありますか?

松本さん
今、世の中は環境問題やAI(人工知能)の進歩で大きな変化があると思いますが、世の中の動きに興味を持ってほしいです。その一方で世の中が変わっても変わらない学問として、基礎的なところをしっかり学ぶことが大事なのではないかなと思っています。基礎的な科目として古典、言語、数学(算数)などです。何100年もの歳月で生き残ってるもの。そういったものは残るだけの理由や価値があるわけですよね。そういうものをしっかりやっておけば、世の中が変わっても芯は残るだろうと思っています。
語学など、コミュニケーショに関するところは様々な面において大事ですよね。数学はいうに及ばず、プログラミングもですね。文系理系と分けることがナンセンスな世の中になってきていますので、基本的な知識として知らないといけないなと思っています。「じゃあ、あなたは全部できるの?」って言われると、全然ダメで(笑)
私、理系にしては数学が全然ダメだと思うんですね。だけど好きなことをするために必要なら、やるしかないじゃないですか。なので子どもたちに伝えたいのは、「オレ、算数苦手だから理系じゃないよな。数学もダメだしな」って、それで選択肢を狭めないでねって思います。好きなことがあるんだったら、それをとことんやったらよくて、必要になったらやるようになりますから。・・・・・・と言いながら、自分の子どもたちは全部文系に行っちゃったという、説得力のなさ(笑)

飯島
苦手だから避けるではなく、好きだからやる。
興味のあることに触れていれば必要なことは身につく、ということですね。

この研究の先に見る夢

飯島
最後に、この研究の先に見る夢は何ですか?

松本さん
あらゆるものが資源として循環して、ゴミがない世界です。思いやりに満ちたやさしい世界。やっぱりモノと人の心ですよね。それが繋がっているということですね。
これを回収に出した後、その先どうなっているのだろう、どんな人が携わっているのだろうと、というような想像力を持ってほしいなと思います。それにはまずは環境問題や資源循環に興味、関心を持ってもらうことです。すごく難しいことですが、分かってもらえるととてもうれしいです。
そしていつか仕事として引き継いでもらえたらうれしいなと思います。リサイクリエーションはただのリサイクルではなく、楽しく資源循環するプロジェクトです。「楽しく」の部分を、みなさんと一緒に考えていけたらいいなと思っています。

ーーー松本さん、ありがとうございました!!
私自身が持っていた「研究」や「技術」の凝り固まったイメージがほぐれた、良い第1回だったなと感じています。
世の中に何かを送り出す裏側の努力、またそれを未来に向けて循環させていくという想いをお聞きできてよかったです。
今後も「みらいをつくる職業」を解き明かしていきます。
お楽しみに!(飯島)

カタツムリレポート#2はこちら


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