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ショートストーリー『禁断の山』

 切り立った銀色の山には決して近づいてはならない。
 そう言い聞かされて育ってきたが、男は自分の欲求を抑えることは出来なかった。その山を制覇したい。そして、その山に何があるのかを知りたかった。
 

男はついに禁断を破り、旅立った。何日も歩いた末にたどり着いた銀山は、近くで見ると恐ろしいほどの絶壁であった。並みの者ならばとても登れないだろう。しかし、その男は超人的なクライマーであった。些細な凹凸に指を掛け、ゆっくりと男は山を登っていく。岩の切れ目にハーケンを打ち込み、ザイルで体を固定して休む。地を這うように、じっくりと確実に男は山を登っていった。
 

三日後、男は山の頂上へたどり着く。奇跡のような登山であった。そして、男は頂上からの山を見て、眼を疑った。

空洞なのだ。切り立った山は円形をしており、ぽっかりと中央が空いていた。目の前には崖が広がっている。その崖を下りれば山の中央に下りることになる。おそらくまだ誰も踏み入れたことのない未開の土地が広がっているはずだ。

男は意を決すると、崖を下りはじめた。山の中央に何があるのか、見なければならない。下りる作業も困難を極めた。ふもとまで届く長いロープがあれば、楽に下りられたであろうが、もちろんそんな物は存在しない。

三日後、男は疲労からついに手を滑らせて、転落してしまう。もう少しの距離とは言え、まだ致命傷は免れない高さであった。しかし、運がいいことに男は怪我一つしなかった。地面が灰に覆われていたために、それがクッションの役割をしたのである。
 

男はこの灰が積もっている大地を不思議そうに踏みしめた。そして山の中央に向かって歩く。すると、目の前に巨大な白い柱が立っていた。天を貫くような柱が何本もある。柱はほとんどが折れ曲がっていた。木材を白く塗ったものなのか、折れた場所からは茶色い肌を覗かせていた。

この柱は一体何なのだ?

男が不思議に思っていると、上空から灰が降ってきた。地面を埋め尽くしているものと同じである。どこかの山が噴火し、火山灰が降ってきたのかと男は思った。しばらくすると灰は止み、男はほっとする。歩けども、その大地には灰と巨大な白い柱しかなかった。何かしらの死のイメージしか、ここには存在していない。

そんな時に、またも異変が起こった。気温が急に上がり、空が赤黒く染まってきたのである。そして、その空が落ちてきたのだ。男は悲鳴をあげて逃げたが、空に押しつぶされて帰らぬ者となった。やはり、ここは決して近づいてはならない場所だったのだ。


男がいた。その男は少しイライラとしていた。気分を紛らわせようと、タバコを咥え、ジッポを響かせて火をつける。そして、うまそうに口からゆっくり白い揺らぎを吐き出した。男は少しの間、煙を味わうとタバコを灰皿に押し付けた。灰皿の中の小さな悲鳴は、男の耳には届かなかったようだ。

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