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ショートストーリー『ブリーフマフラー』

僕には冬になるたびに思い出すことがある。あれは五年前のことで初雪が薄っすら降っては消えていた。

その日、僕は友達三人と「だるまさんが転んだ」を遊んでいた。鬼が後ろを向いて眼をつぶり「だるまさんが転んだ」と言ってから振り返る。そして他のものは少しずつ鬼に近づいていき鬼が見ていたら動いてはいけない。それらを繰り返し鬼にタッチすれば勝ちというあのゲームである。
 

僕はその時、鬼をしていた。団地の前の滑り台と砂場しかない小さな公園。その日は寒かったため僕ら以外は誰もいなかった。
 

僕は木に持たれかかり「だるまさんが転んだ」と言って振り返った。すると見知らぬ少年が一人混じっていたのである。その少年は瞬きもせずに静止しており勝手に僕らの遊びに混ざっていたことはすぐにわかった。

「ねえ、変な子いるよ」
 

僕がそう言っても誰も返事もせずに動きもしなかった。僕たちの「だるまさんが転んだ」はかなりルールが厳しく鬼が見ている間は瞬きを四回以上したらアウトになるぐらいなのだ。

当然口を開いてもアウトである。みんなゲームを中断したくないのだなと思い僕はまた「だるまさんが転んだ」を言った。
 

振り返るとまた誰も動かない。少しみんな前進していた。僕が眼をつぶっている間にみんなは新入りを確認できたはずである。でも誰も気にした様子もなくゲームは続いている。仕方ないので僕はまた「だるまさんが転んだ」を言った。


振り返る。その時、あることに気が付いた。飛び入り参加してきた少年が裸足になっていたのである。

あれ? と僕は首を傾げた。僕らのルールでは鬼は二十秒までしか、振り向いていてはいけない。そうしないとみんな瞬きでアウトになるからである。僕は疑問に思いながらまた「だるまさんが転んだ」を言った。
 

振り返る。すると新入りは下半身がブリーフ一枚になっていたのである。上半身はセーターを着て首には赤いマフラーを巻いていた。とても滑稽な姿だ。しかも不思議なことに脱いだ服が見当たらなかった。

「ねえ、あの子パンツ見せてるよ」
 

そう言っても誰も動かない。不思議に思いながら僕は「だるまさんが転んだ」を言った。
 

振り返る。新入りはブリーフ一丁で首には赤いマフラーを巻いていた。かなり寒いはずなのに動かず震えもしない。マフラーだけが北風に揺れている。

「ねえ、アホな子がいるって」
 

でも誰も反応しない。もしかしてこの子が見えているのは僕だけなのかなと思った。そう思うとブリーフマフラーがやたらと怖い存在に思えた。そして友達三人とブリーフマフラーはもうあと三歩ぐらいの位置にいる。ブリーフマフラーにタッチされたら恐ろしいことが起きるかも知れない。そんなことを心配しながら僕はおそらく最後の「だるまさんが転んだ」を言おうとした。

でも「だるまさんがころん」でタッチされてしまう。僕は驚きのあまり飛び跳ねて後ろを向いた。

タッチしたのは友達だった。僕はホッとして回りを見た。するとブリーフマフラーが消えていた。僕はすぐみんなに今いた新入りの話をした。でもみんなそんな奴いなかったよ、と笑うばかりである。起きながら寝ぼけるなよと馬鹿にされる始末だ。


今となっては友達三人がグルになってイタズラをしたものだと思っている。

確か友達の一人が面白い親戚が来ていると言っていた。その子を飛び入りで参加させ僕を驚かせたのだと思う。

思い返してみれば友達たちの止まっているポーズが不自然だった。必ず片手は隠れていたのである。多分だが脱いでいった服を友達が持っていたのだろう。


でもちょっとは思う。

あれは幽霊とか妖怪みたいなもので僕たちと遊びたかっただけなのではないのかと。きっと寒い中で楽しく遊んでいる僕らを見て仲間になりたかったのだ。

しかし、それだとかなり露出好きな幽霊か妖怪である。まあ、人間の常識を当てはめるのが悪いのかも知れないけど、そんな人ではない上に変態に好かれるのは複雑な気分である。しかも僕だけ見えていたのならなお更だ。だから冬になる度に僕はブリーフマフラーを思い出す。

もう一度会いたいような、そうでないような、まあ、面白い存在だったのは確かである。

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