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【つくること】 LIBRARY BOOK CIRCUS 那須塩原市図書館みるる 2日目

様々な業界の方とともに【きく】→【かんがえる】→【つくる】という循環から、これからの?図書館?をつくる旅に出かけたわたしたちですが、遅くなりましたが、5月末の土日を使って、「那須塩原市図書館みるる」にて、【つくる】第1弾とも言えるLIBRARY BOOK CIRCUSを開催しました。その模様を『「聴く」の文化を広げていく』という素晴らしき活動をされている、インタビュアーの中田 達大さんにまとめていただきましたので掲載いたします!2日間にわたり行われたイベントのその2日目です!

ブルーハーツを聴いたときの衝動

「ブルーハーツを初めて聞いて『うわぁすげぇ……』となるのが一番おもしろい瞬間といいますか」
 
予期せぬタイミングで「ブルーハーツ」という言葉が聞こえて、我に返った。私はいま「みるる」の窓際のテーブルで2日間の「Library Book Circus」を終えたばかりの染谷さんにインタビューをしている。私自身がこの2日間で感じたこと、浮遊していた言葉、そして参加者のみなさんの表情が、お話を聞きながら頭のなかを駆け巡っていた。
 
そこに「ブルーハーツ」。
意識は再び、染谷さんの言葉に引き戻される。


「僕は兄貴の影響で音楽が身近にあったので、クラスの子に『これ、かっこいいよ!』ってCDを紹介するような、ある意味でませた子でした。いまの仕事の役割とそんなに大きく変わっていない気もするんです。『いいものを紹介したい係』みたいな。そういうのが好きなんですよね、きっと」
 
染谷さんが率いる株式会社ひらくは、ブックホテル「箱根本箱」や本屋「文喫」など、数々の話題となった場づくりをプロデュースしている。ともすれば高尚なものとして扱われてしまう「本」にまつわる世界。「Library Book Circus」の親しみやすさはどこからくるのか知りたかった。
 
「どの世界にもすごくコアなファンはいますが、圧倒的に多いのはそうでない方々。ブルーハーツを初めて聞いて衝撃を受けたときの僕は、間違いなく後者でした。音楽でも映画でも本でも、『これすげぇ……』ってものに出会って、そこからのめり込んでいく初期衝動の部分が一番おもしろいと思っていて。なので僕の企画は全部、コアファンではなくそれ以外の大多数の方々に届けたくてやっているつもりです」

それを聞いたとき「Library Book Circus」の親しみやすさの理由が少しだけ分かった気がした。「こんな風にしたら、おもしろくないかな?」と語りかけてくる感覚があった理由も。
 
染谷少年にとってブルーハーツは音楽の世界への入り口になった。もしかしたら「Library Book Circus」がつくろうとしているのも入り口なのかもしれない。サーカス小屋の赤と白のストライプの垂れ幕。そのなかを覗いてみたら、見たこともない世界がライトアップされているかもしれない。
 
この2日間で染谷さんが繰り返し使っていた言葉を借りるなら、垂れ幕の向こうの世界を覗くために必要なのは、少しばかりの「センス・オブ・ワンダー」なのだ、きっと。
 
さて、2日目のサーカスも開演である。

物語がはじまる

「今日はなにを読もうかな」
 
「みるる」の1階から女性の透き通る歌声が聴こえてきた。たまたま2階にいた私は、すぐに階下へ向かった。すると目に入ってきたのは「えほんのもり」という名称で親しまれる絵本や児童書のコーナーの前にいる2人の女性とそれを囲む子どもたち。
 
どうやら、ライブラリーライブが始まっていたようだ。パフォーマンスを務めるのは、俳優の松永衣吹さん(イブキさん)と歌い手やまはき玲さん(やまはきさん)による朗読と音楽のユニット。文字通り、図書館内でのライブだ。

絵本「ぐりとぐら」をイブキさんが身振りも交えながら情感たっぷりに朗読する。イブキさんの横ではやまはきさんがウクレレをポロロンと弾きながら笑っている。絵本に囲まれた空間をバックに2人のつくる優しい空気感。大人の私でも一瞬で惹きつけられた。まわりを見ると案の定、私以上に子どもたちはじっと物語の続きに集中している。
 
そもそも図書館でライブというのが異様な光景でもあった。「図書館では静かに」と教えられてきたからだ。私の固定観念をまた「みるる」が軽々と壊してくれる。ここの空間設計によるものも大きいだろうが、館内で音楽が鳴っていても全く違和感がないのだ。現に、まわりの大人も子どもも自然と表情が緩んでいる。それが、きっと1つの答えだろう。
 
そういえば、図書館総合研究所の廣木さんが昨日のトークイベント後に「イベントをやってる横で勉強している人がいたり、利用者の方々が自然体で過ごしていたのもよかったですよね。ルールやレギュレーションで示すのではなく、『みるる』は空間も含めた雰囲気でこの場の過ごし方を伝えている」と話していたのも印象的だった。確かにあの時間、イベントを楽しむ人たちの空間と普段使いの人たちの空間はぶつかることもなく、ゆるやかに共存していた。
 
さて、ライブラリーライブの前半戦を終えると、2人は「みるる」から次のステージがある「くるる」へ向かう。その会場までの移動もパフォーマンスの一部だ。ライブをしながらお客さんと一緒に練り歩く。偶然、それを見つけた親子が、ウクレレの音と歌声に吸い寄せられるように後ろを付いてくる。そうやって、みんなで屋外広場へ向かう。その光景は、もはや絵本の世界に似て見えた。

初日に続いて、この日も晴天に恵まれた。薄めた水色の絵の具をさっと塗ったような空。そこにぷかぷかと細長い雲が浮かんでいる。前日より風も優しく、まさに那須の初夏の心地よさを象徴するような一日だ。その青空の下に、歌声が響く。
 
「物語がはじまる」
 
「くるる」の屋外広場では、子どもたちが我先にと席に着く。やまはきさんの歌から再び始まった朗読ショー。今度は「ねこのウィリー」という物語だ。子どもたちはまたもや息を止めるように真剣に見入っている。

先日、とある方から「子どもの読書離れが深刻だ」という話を聞かされた。私が小学生の頃から言われている気もするが、今はさらに深刻なのだろうか。きっと統計データを覗けば、その深刻さが示されているだろう。たしかに、本を愛するひとりの人間としては、本に親しむ子どもがひとりでも増えることは、素直に嬉しいことである。
 
でも……と同時に思う。
読書離れを懸念する大人が、本を読む「べき」ものとして扱うと、きっと子どもはそれを敏感にキャッチする。本は人を自由にするものであり、束縛するものではない。私は、本の世界に「べき」はお呼びでないと思っている。
 
そんなもやもやした考えは、ライブラリーライブの子どもたちの表情を見ていたら、どこかへ飛んで行った。むしろ、きっと大丈夫だ、とさえ思えてきた。2022年においても、絵本と歌に夢中になっちゃう子どもたちの横顔はここにある。ずっと昔からあった横顔だ。そして、今もここにある。今日みたいな体験の先に、「よければ手に取ってみてね」くらいの遠慮深さで本が待っている。彼ら彼女らに開いてもらうのを。
あの子たちは、きっとたくさん出会うだろう。


胸躍る冒険の話、昨日までの世界が違って見える話、まるでこれは自分だと思える話、笑える話、なんだか泣けちゃう話。
 
そのときは、またあの横顔に似た真剣な眼差しで、ページをめくっているのだろう。

その街ならではのサーカス

絵本と言えば、少し変わった切り口で出会いを演出する展示があった。そのことについてもぜひ触れたい。「BPM Reading」は、「心拍数で本を読む」という紹介文が表すように、本を「ジャンル」や「著者」ではなく「読んでいる人の心拍数」で分類して提案する新しい試みだ。

BPMは1分間の拍数を表す言葉である。
例えば、「すごく落ち着く(60/bpm)」という分類では、のんびりゆっくりしたいときに読む本として『月夜のみみずく』や『しずかな夏休み』といった絵本が並べられている。その倍のBPMとなる「超興奮(120/bmp)」のコーナーに目をやると、私が子どものとき夢中で読んだ『ルドルフとイッパイアッテナ』を見つけ、まさに超興奮!もう20年以上前に夜更かしして読んでいた本が、いまも読み継がれていることを思うと、なんだかワクワクする。いまの自分の気分に合わせて、普段とは違う絵本との出会い方が演出されているユニークな展示だった。

もう1つ、「BPM Reading」の隣にも選書展示があった。もっと那須塩原市のことを知るために行われた「那須塩原の10のこと」だ。この展示の肝は、図書館の本を分類するときに用いられる日本十進分類法(NDC)を、街を分類するキーワードとして捉え直している点だ。POPの紹介文にはこう書かれている。
 
「サーカスの空中ブランコが縦横無尽に宙を行き来するように、NDC分類のバーをめがけて、あらゆる角度から土地の魅力を引き出します。展示された本が『那須塩原』を軸に繋がりあう感覚をお楽しみください」
 
例えば「産業」というNDC分類がある。それがこの展示では「那須野が原と酪農」と読み替えられている。そして、地域の主要産業である酪農について書かれた本が並ぶ。他にも「芸術・体育」というNDC分類は「アートと巡る那須塩原」といった具合に、地域オリジナルな変換がなされている。

「Library Book Circus」はこの土地で行われているからこその企画が多い。この展示の企画にも関わった株式会社ひらくの深井航さんはこんな風に話していた。
 
「以前から図書館で働く方々は、イベントを考え、実行する時間が忙しくてなかなか取れないと聞いていました。そこで『Library Book Circus』は、地域ごとのコンテンツをはめ込んでいくと1つの大きなイベントが出来上がるフォーマットを目指して立ち上げられました。そのため、『那須塩原の10のこと』の選書も『みるる』の司書さんがしてくださったんです」
 
ちなみにNDC分類で「歴史」の部分は「疏水なくして繁栄なし」とあった。先人たちが開拓して、この地域を全国有数の農業地帯に変えていった水にまつわる歴史。2日目には、那須野が原博物館館長による「那須疏水について」というトークイベントも開催された。

思い返してみると「Library Book Circus」はトークイベントのゲストも、この地域ならではの人で企画されていた。このフォーマットが機能するなら、どんな街にもサーカスは旅に出ていける。深井さんは楽しそうにこうも語っていたことを思い出す。「『Library Book Circus』が全国のいろんな場所で、同じ日曜日に開催されるくらいに広がっていったらいいなぁ」と。
 
読むサーカスは、まちからまちへ。

明日も生きていく街

さて、トークイベントも残すところ2つのみとなった。そのうちの1つは、那須塩原市長である渡辺美知太郎さんを招き、様々な角度からお話を伺う「街×人トーク『渡辺市長に聞いてみよう!』」である。

トークは渡辺市長の学生時代からスタートした。慶応義塾大学文学部の美学美術史学専攻に入学。その理由として「当時所属していたオーケストラでクラシックの曲目を書いていたのですが、それを卒論にそのまま書けば楽なのではという安直な気持ちでしたね」と語る渡辺市長の気さくな雰囲気に、会場の空気も緩んでいく。学生時代は展覧会の運営なども行い、美大生と一緒にファッションショーを開催するなど精力的に活動していたそうだ。
 
「でも、もともと政治家になるなんて思っていませんでした」と語るように卒業後は教育関係の会社に就職した渡辺市長。「当時はプラプラしてましたよ」と笑う。そんな渡辺市長が、政治の道に入るきっかけの一つがまさにアートだった。直島、金沢21世紀美術館、横浜トリエンナーレのように、アートで街おこしをする例を見聞きするうちに、自分もやってみたいと思ったそうだ。
 
それを聞いた染谷さんが「『みるる』と『くるる』は、まさに文化の発信基地になっていますよね」と言うと、渡辺市長は強くうなずきながら、両館ができたときの生々しい心情を語ってくれた。

2019年に現職に就任した渡辺市長。その年の7月には「くるる」がオープンした。コロナ対応に待ったなしで追われる中、翌年には「みるる」が開館。つまり、完成間近の大詰めのタイミングで、前市長からこのプロジェクトを引き継いだのが渡辺市長だった。複雑な諸問題に一つずつ対処することが求められる時期だ。そのため、完成したときは、喜びもありつつも、どちらかと言えば「この場所の価値をこれからどう高めていこう」という不安の方が大きかったそうだ。まさに、こんな話は市長からしか聞けない。
 
ただ、蓋をあけてみると多くの方が来館してくれた。他の街からわざわざ足を運んでくれる方もたくさんいた。それを見て渡辺市長は少し安心したという。染谷さんも「複合的な使い方ができる図書館として全国で注目されていますよ」と言葉を添える。「今後もこの場所で他の地域の人も来てくれるようなイベントを開催していきたいですね」と渡辺市長が嬉しそうに話していた。

トークの最後に渡辺市長の口から「生き延びられる街」という言葉が出てきた。それは那須塩原市の目指す姿として市長のテーマになっている言葉だった。
 
「生き延びられるとは、持続可能ということです。そして、持続可能とは、付加価値を常に生み出せる状態のことだと思います」
 
食もエネルギーも観光も持続可能な街づくり。生き延びるという非常にフィジカルなニュアンスには「耐え抜く」という感覚が混ざっているように思えるが、そうではなく「付加価値を生み出すこと」だと市長は言う。そこには、染谷さんが言う「おもしろがる」にも近い響きがあると個人的に感じた。まさにアートもそうだ。石ころ1つを誰かにとっての価値に変えてしまう。物事を新しい視点から切り取ること。
 
終演後、眼鏡をかけた小学生の男の子が市長に話しかけにきた。見守っていると、ちょっと緊張した様子で「僕は将来、公務員になりたいです」と伝えていた。渡辺市長は腰をかがめて優しく話を聞いていた。男の子の顔には笑顔が浮かんだ。

こうやって街は、ここに生きる人々の営みと想いをつなぎながら、今日も続いていく。

サーカスは次の場所へ

イベントの期間中、駅前広場の方からギターの音が聴こえてくることが何度もあった。どうやら、「絵本のうたいきかせ」が行われているようだ。「よみきかせ」ならぬ「うたいきかせ」。みんなが知っている絵本を、楽器などと一緒に芝生の上で読んだり歌ったり。担当するのは株式会社ひらくのみなさん。イベントの聞き手も務めて、その合間にギターを奏でる染谷さんは何者なのだろうと思ったのはここだけの話だ。

ライブラリーライブのときも感じたが、楽器と絵本の組み合わせは子ども心をがっちり掴む。私が見かけたのは、午後の日差しが傾き始めたタイミングだったが、木陰の小さな空間でみんな良い表情をしてその空間を共有していた。
 
ここまで読んでいただいた方には分かってもらえそうだが、「Library Book Circus」は本や図書館そのものではなく(もちろんそれも含まれるが)、もっとその手前にある何かを耕すような時間を届けてくれた。押し付けがましくも、説教くさくもなく、ほんのちょっとの工夫で「おもしろがる」ことはできることを体現してくれた。今後もサーカスはきっと行く先々で、その地域の魅力や価値と混ざりながら、掛け合わさりながら、また新しい「おもしろさ」をつくりあげていくのだろう。
深井さんが「こんなことがあった」と教えてくれた。
「1日目に入り口で立っていたら、下野市で1回目の「Library Book Circus」をしたときの図書館の方々が声をかけてくれたんです。わざわざ遊びに来てくださって『私たちのところから始まったサーカスがここで展開されてるんだ!』って喜んでいて。仲間が増えていく感覚と、1年が経ってもまだサーカスの余韻のようなものが残っていることが嬉しくて」
そしてこう付け加えた。
「街にサーカスが初めてやって来たときはよそ者ですが、2回目は旅をして帰ってきたんだってなりますよね」
日が傾いてくる。
「この2日間の」という前置きをつけるなら、サーカスの終わりが近づいてきた。

知られざる図書館の世界

最後を飾るトークイベントも楽しみにしていた。「教えて司書さん!」というテーマで、その名の通り「みるる」の司書さんが登壇して、なかなか知りえない図書館の裏側や司書というお仕事についても聞けるイベントだ。私は、もともと書店員として本屋で働いていたので単純に図書館の中の人の仕事には興味があった。
深井さんも企画に関わっているそうで「司書さんが台本や資料をすごく丁寧に作ってくれるんです。去年の下野市での開催時も司書さんは緊張しつつもノリノリで準備してくださって。司書さんにとってもモチベーションに繋がる企画になればとても嬉しいですね」と言っていた。そう、この時間は司書さんが主役である。

両日で開催していたため、担当の司書さんが昨日と異なるみたいだが、私が参加した回は櫻井さんと高澤さんのお二人が話してくれた。「みるる」がアートに力を入れる理由から、電子書籍を貸し出せる電子図書館など、耳よりな情報もたくさん教えてもらった。
 
その後、質問コーナーで私は司書さんの一日について質問をしてみた。きっと利用者には直接見えない仕事も多いはずだと思ったからだ。案の定、私たちがよく見かける受付カウンターに座り、本の貸し出しや返却の対応する仕事はほんの一部だそう。他には、展示の準備、本の修理、本の紹介文を書いたり、広報業務もある。冊子の印刷もあるし、新刊の手配も必要だ。これは特殊なケースではあるかもしれないが、「みるる」が出来たときのように旧黒磯図書館から書籍を移動させ棚に入れていく業務もそれに含まれる。
 
物井さんがいうには、引越しの際はダンボール箱で2,400箱ぐらいになったという。
 
「もはやダンボールの海という状況でしたね。それをこちらに運んできて、ダンボールを開けて棚に入れていく仕事は貴重な経験でしたよ」
 
イベント終了後に櫻井さんと高澤さんに少しだけお話を聞く時間をいただいた。櫻井さんは「昨日は『くるる』に行って『ぐりとぐら』の読み聞かせを担当しました。子どもたちは本を読めば一生懸命聞いてくれるし、ホットケーキを焼いている間はみんなで工作をしたり、すごく楽しかったです」と話してくれた。

高澤さんも「やっとこういうイベントができて嬉しいです。本に限らず、いろんなことを組み込むことによって来館してもらうきっかけになるのが大切ですよね」と「Library Book Circus」を通じてたくさんの人が「みるる」に来てくれたことを喜んでいた。
 
「そういえば昨日、ある方が『みるる』の選書はいいですねと言ってくださって。そうやって実は図書館ごとに選書の色が出ていることをちゃんと見てくれる人もいるんですよね」
 
なかなか普段は知りえない司書さんのお仕事。16時になり、このトークイベントをもって、2日間に渡って続いた「Library Book Circus」は静かに幕を閉じた。図書館は18時まで開館するため、司書さんはそれぞれの持ち場へと戻っていった。

サーカスのいない日常は続く

後片付けを終えた「みるる」の物井さんに少しだけお時間をいただき、この2日間を振り返ってもらった。
「イベントの感想ですよね。そうだなぁ……やったことのないことに挑戦できたのはよかったですね。例えば、館内で楽器を鳴らして練り歩くライブラリーライブもそうです。『みるる』はまだまだいろんな可能性を秘めてるなって改めて知ることができた2日間でした。この建物が持つポテンシャルの新たな引き出しを教えてもらったような」
物井さんは静かに淡々とお話になるが、言葉には図書館の現場でこれまで何度も考えて、何度も感じてきたものが含まれているように思えた。
「やっぱりこの屋根の下で長い時間過ごしていると、『みるる』に対する愛着って言うのかな……愛のようなものが育まれていると思うんです。この2日間を通じて、私だけでく他のスタッフも、より『みるる』のことが好きになったんじゃないかな。そうやって私たちが『みるる』に対して愛情や愛着を持って仕事をしていけば、優しい雰囲気を持った図書館になっていくと思うんです」
サーカスは、図書館に何を残していくのだろうか。
物井さんの言葉を聞きながら、そんな問いが浮かんできた。

物井さんは「そういえば」と嬉しそうにこう言った。
「ライブラリーライブは来年『みるる』で開催することになりそうです。読み聞かせと楽器なので、普段利用してくださっている方も楽しんでもらえるイベントになるはず。あとはカラぺハリエさんともお話をして、ここでワークショップを開いてもらうことになりました」
サーカスで生まれたものが、日常に戻った「みるる」のこれからに続いていくようで嬉しくなった。サーカスは今日で一旦サヨナラだが、「いつもの図書館」が何かを受けとり、そのバトンを繋いでいく。
 
「図書館運営は2日間で終わりじゃなく明日からも続いていくので、また切り替えてやっていきます。そういった意味では、今回のサーカスで生まれた種が芽を出してね、花ひらくようにしたいですね」

「みるる」の窓際には西日が差している。夕暮れ時に母親の運転する車から見えたサーカス小屋の景色を再び思い出す。
 
どこから来たんだろう?
そして、どこへ行くのだろう?


サーカスは旅をする。
まちから、まちへと。