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クローンおにぎりの逆襲

かぱっ

「ヒヒヒ、ぼくがクローンおにぎりさ」
お弁当箱を開けると、いきなりおにぎりが話しかけてきた。
「きみだけにとってもこわーい真実を教えてあげよう。でもほんとにこわーい真」

かぽっ

フタをしめると、おにぎりの声はしなくなった。

かぱっ

「実だからきみは泣いちゃうかも」

かぽっ
かぱっ

「しれない。さぁどうする?」
「うん、聞かせてよ」
「フフフ、きみは命知らずなやつだね。でもでもほんとにこわーい」
「あのさ」ぼくはおにぎりの言葉をさえぎった。「それ、大丈夫?」
「ひとつの話をする時にハードル上げすぎじゃない?まだきみの話を聞くかどうかもオッケーしてないのにそんな煽って大丈夫なの」
「えっ」
「「きみが食べてるのはおにぎりじゃなくて実はクローンおにぎりだったのさ」って話じゃないよね?」
「……」
ぼくの問いかけで、おにぎりの海苔の色味が少し薄くなった。
「先週もクローン唐揚げが来たんだけど流行ってるの?その界隈で」
「流行ってるっていうか、その」
ぼくが黙っていると、おにぎりは気まずくなったのか、ますます海苔の色味が悪くなっていた。
「唐揚げさん、が、この前、得意そうにしゃべてて、そしたらクラスのコーンとか、グリーンピースがすごいキャーキャー言ってて、あっこれやったら自分も後で、人気者になれるかなって」

かぽっ

中から「すいません……」と消え入りそうな声がした。
ぼくは少し考えをめぐらせた。先週来た唐揚げについてだ。
思えばあいつも腹が立つやつだった。喋りだした時はかなりびっくりしたけど、出だしの後の演技が棒で自分でも引くぐらい冷めてしまった。でも、唐揚げのやつはその反応が逆に怖がってると勘違いしているようで衣が浮き足立っていた。
延々と同じ話を続けそうなのですぐに口に運んだが、裏でそんな話になっていたとは。
思い出すと、こいつはまだマシなやつかもしれない。

おにぎりのすすり泣きが聞こえなくなった後。

かぱっ

ぼくはお弁当箱を落としそうになった。
おにぎりの海苔がピンク色になっていたからだ。
「大丈夫?」
「すいません、つい考えごとしてて。すぐ出ちゃうんです」
海苔が紫になった。
「周りで僕だけなんですよ。だから昔からコンプレックスなんです」
「……それだよ」
おにぎりが不思議そうにぼくを見た。
「海苔だよ。海苔で行こうよ」
「どういうことです?」
「例えばだよ。きみはいま海苔を一色変えられる。ということは海苔を五枚貼れば五色出せるってことだ。
そして海苔を増やして並べ替えれば、絵が描けるんじゃないか?」
おにぎりの海苔の色は白銀になっていた。
「でもそのぶん、きみの感情が複雑になってしまうけど」
「やります」
おにぎりの声は決然としていた。
ぼくとおにぎりはうなずき合った。それだけで十分だった。

かぽっ

お弁当箱が少し軽くなった。
吹き抜ける風は夏の草のにおいがした。
(おわり)

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