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コンバインvs農夫

100歳以上の人間が10万人をついに越えた。
右を向いても左を向いても老婆…。そんな日本になってしまったが故に起きた異常な事態かもしれない。
その村は8〜11歳までが人口の8割を占めていた。この時代にこの数字はヤバい。村長が天才でスーパー出生率を叩き出したのか?俺も初めはそう思った。だが現実は違うらしい。
去年の人口は3万人。それがリーマンショックみたいな落差で今年は1万人をもうすぐ割りかけている。
イカれてる……。悪魔が住み込んで激ヤバカルトが毎日生贄をあげまくってるのかもしれない。俺はただならぬ危険を感じてその村に向かった。

村は俺の予想以上に狂っていた。
家は軒並み破壊され地面にならされてる。
人の姿もない。あるのは2、3台のコンバイン。それから……ヒマラヤスギが何本も。
状況を整理していると、スギの一本からロープが垂らされた。
「解決の糸口だ…」
「よぉこそぉ!お名前はぁ?」
「ジェス…私立探偵だ…。」
登り終え俺が迎えられたのは、巨大なヒマラヤスギに括り付けられたツリーハウスだった。
上にありすぎて気付かなかったが、木の幹に何棟も張り付き、隣木にはジップラインがついている。
ここの村人は木上生活人だった!でもなぜ?
「見んさいアレ」
老婆がコンバインを指差す。それは次第に数を増し、5台から10台。10台から1000台に数を増やし、村を跋扈していた。
「乗ってるのはみーんな小学生」
老婆の話によれば、村の爺さんが孫にたわむれでコンバインを貸したら流行ったらしい。子供の目から見ればコンバインはムテキのマシンだ。イネも狩れるし人も狩れる。
乗り方はすぐにYouTubeで覚え、コメ農家ばかりだったのも祟った。はじめに餌食になったのは酒飲みの花岡爺さんだった。血に飢えた小学生は次々と道を歩く老人、校長、役場を襲い、みんな等しく肉→骨粉になったのだ。
だから逃げた。脚で勝てなくても上に逃げればよし。
木上生活人になった理由はコレだった。

「燃料切れを狙えばいい」
「だーめだよ。燃料づくりもEテレで覚えちゃった」
デジタルネイティブめ。奴らは想像以上に手強い。このまま解決しなければ俺も帰れない。こんな加齢臭に包まれてたら鼻が曲がって女も抱けない…。
俺が黙考してると、翁が手を上げた。

「ケジメつけさしてくれ…」

はじめに孫にコンバインを教えた男だった。おそらく罪の念でいたたまれなくなったのだろう。自分が生きてるのに飽き飽きした顔だった。
「俺と組め。グラウンドゼロ…」
俺は翁の手を握ると、作戦を練った。


「糞投げ部隊ーッ!ゴー!」

夜更け、俺を囮に作戦は始まった。
追ってくるコンバインに空から排泄物を落としまくるのだ。
小学生は、ウンコと口で言ってもトイレ掃除は大嫌い。そんなどうしようもない生態を逆手にとった名案だ。
空から糞が襲いかかる!

「ウワーッ!!!」

操作を誤った小学生は転倒!勢い余って肉→骨粉になった。

作戦の第一はこれで完成。次が目玉だ。

「さぁ一台手に入れたぜ。グラウンドゼロ。」

第二はそう。グラウンドゼロによる小学生掃討作戦だ。すでに村一帯はコンバインの唸り声に溢れていた。野犬が怯えて逃げ出す!肉→骨粉!残念そこもコンバインでした!

俺はロープでツリーハウスに引き上げてもらう。敵を数える。ひい、ふう、みい、よお……

「8000はいるぞ!気を付けろ!」
翁は手を上げる。慣れた手つきでコンバインを操作する。キャタピラが生き物のように、道を進む。
向かい打つ小学生。牛乳瓶の蓋で飾り付けられたコンバインと、ラメ加工されたコンバイン、黒い竜が書かれたコンバインが三方から迫る!!
あわや衝突死かと思われたその時。翁のコンバイン、翁号は精密な制動によりウィリー!前方の牛乳瓶コンバインを乗り越える!
「アビャビャー!」
キャタピラの一撃に小学生!顔面破壊!二台のコンバインは互いに激突→骨粉!

その後も、翁号の進撃は止まらなかった。翁は燃料が切れれば、死んだ小学生号を奪い再び掃討した。つまり、永久機関。覚悟の決まった男の運転は無垢な苛虐心を砕きまくった。

朝日がのぼる。コンバインの残骸の山で翁が手を振っている。その顔は遠目でもさっぱりしている。人は振り切れるとあんな感じになるのだ。
事件は落着した。この日だけで人口は大幅に減ったがこの村に限った話ではない。日本がどうなろうと、俺は撮りためたアンナチュラルが見られればそれでいい。

「長生きしろ…グラウンドゼロ」
駆け寄る老婆たちを見送り、俺は村を後にした。

(おわり)

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