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刀展示ケース製作日記① ライトの選定

今回から私が作る展示ケース(刀箱漆)の制作工程を複数回に分けて連続して書いていきます。
刀を飾る為の工夫を凝らしたつもりです。

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動画でも刀展示ケースの機能を一通り紹介してます。


以下の内容に加筆して書いていく予定なので、先をすぐ読みたい方は以下ブログ内の「製作日記①~⑧」をご覧ください


①ライトの選定の打ち合わせ

刀鑑賞時における一番のポイントはやはり照明の種類と光の当て方だと思います。

その為、刀展示ケースに使用するライトには一番こだわって作っています。かなり苦労した部分なのでどこのライトを使ったか等は明記しませんが、色々トライアンドエラーを繰り返して選定しています。

市販されているライトは5Wのナツメ球から100Wまでの様々な大きさ、形状の物を20種類程試し、ライティング専門の会社を複数社訪れて実際に刀にライトを当てるなどもしました。

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ライトは刃文を見るライトと、地鉄を見るライトの2種搭載して切り替えをしたかった(手に取らなくても両方が見えるケースを作りたかった)という思いが強くありました。
刀剣店でも必ず白いライトとオレンジ色のライトがあることに気が付いた方も多いのではないでしょうか。
それはつまり、地鉄を見るのに適したライトと刃文を見るのに適したライトがあるという事です。

マニア向け機能ですが、切り替えが出来たら見る側としても楽しめそうです。




②ライトの候補

・地鉄用ライト

地鉄は日光下で見るのが一番見える事は周知の事実です。
その次に見えるのは蛍光灯でしょう。
ですが、蛍光灯は紫外線を吸収する膜を付けないと美術品を傷めてしまう事、交換の手間や、電気代がかかる事から使用は控えました。
ですのでLEDで限りなく蛍光灯に見えるライトを選んでいます。

LEDは紫外線が出ないので傷める事はありませんし、長寿命です。毎日ずっと付けても8~10年位は持ちます。
(当然ですが、交換もすぐ出来るようにケースは作っています)

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日光程ではないですが、地景が良く見えます。

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・刃文用ライト

こちらは刃文を見る為のライトです。
刀は長さも反りも刃文の形も皆違います。

どんな刀も綺麗に飾る為の条件として、最低限以下機能は必須です。
1.好きな場所から照らせる
2.照射角度を変えられる
3.光の強さを変えられる
4.演色値が高い

一方刀以外に様々な展示物を飾りたい場合、あると便利な拡張機能
5.配光角を調整出来る
6.ライト色(2300K~5000K相当)の切り替えが出来る

私の場合は刀を飾る事に特化すれば良いので、①~④までの機能で十分です。
⑤と⑥については、ケースに適したものを実験して決めれば調整出来なくても良い為です。
美術館の展示ケースは⑤と⑥が付いていますが、それは刀以外にも展示出来るようにするためです。
刀を飾るだけという視点で見るとコスパが悪くなります。

候補のライトはこちら。

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③どんな刀も綺麗に飾る為の必須条件


1.好きな場所から照らせること

→レール上スライド出来るので、好きな位置から照らせます。

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2.照射角度を変えられること

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3.光の強さを変えられること

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以下は適当に配線して実験した様子です。
ダイヤルで光の強さを調整できますが、強くしすぎると刃文が飛んでしまいます。
そういった意味でも調光機能は必須ですね。


4.演色値が高いこと

演色値(演色評価数)とは簡単に言えば光の綺麗さと考えてもらえれば良いと思います。
基本的には高ければ高いほど良いです。
刀剣博物館含む多くの美術館ではRa95と高いものを使用してます。

私が選定したライトもRa95の物を使用しています。
安いライトは大抵Ra80位です。
Ra80のライトは1個当たり1000円位と安いので使いやすいですが、これだと刃文が飛んでしまい刀を綺麗に見る事が出来ません
ちなみにケースに採用したライトは小さいですが1個25000円します。
4個使ってるので…めちゃめちゃ高いですね…。
その分綺麗には見えますが…

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④その他ライトの豆知識

5.配光角について

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(画像転載元:https://www.jlma.or.jp/led/pdf/05HaikouLED.pdf)

これはライトの光が光源からどのくらいの角度で広がっていくか、というものです。
上の写真だと右に行くにつれて配光角が狭くなっています。

どの配光角が良いとか明確にあるわけではなく、刀との距離や光の強さも大事な要素となってくるので、実際の見え方を確認しながらそれにあったライトを決める必要が出てきます。
ケースの大きさが変われば変える必要があります。

但し経験上、基本的には鈍角(広範囲を照らせる)の方が日本刀の照明には合っている気がします。
鋭角(狭い範囲を照らす)だと光がより強くなる傾向がある為です。
光が強いと当然刀身に反射したときに眩しく見えるので鑑賞の妨げになります。

6.光の色について

よく2700K、3000K、4000K、5000Kなどと表示されています。
2700Kにいくほどオレンジ色、5000Kに行くほど白くなります。

日本刀の照明にLEDライトを使う場合はオレンジ色(2700K)に近い物が適していると思います。
地鉄を見る場合は白色(5000K、蛍光灯のような色)に近い物の方が適しています。


以下は短刀展示ケースですが、オレンジ色が2700K、白色が5000Kです。
(ライトに焦点を合わせて撮影しているので刃文が飛んで見えますが、ご容赦ください)

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⑤レフ電球とLEDの見やすさについて

よく「LEDだと刀は全く見えない!レフ電球こそ1番だ!」という方がいらっしゃいます。

レフ電球が見やすいことに対して否定はしないのですが、見やすいLEDも実際は多く存在します美術館でもレフ電球は使用していません

ただそれらのLEDは一般的に高価で入手しづらく業務用として市販されていない事も多いです。
恐らくは市販されている安い価格帯のLEDを見た方がそういった意見を言っているように思えます。


⑥刀剣店で見てもらう

ライトの候補が固まったタイミングで刀剣店の方にも見て頂きました。
自分で作っていると、苦労した分無意識に良く見えてしまうのは良くあることです。
それを補正する意味でも、刀のプロの眼で見て頂くのは大事です。

刃中の働きがしっかりと確認することが出来、安心しました。
そして、ここが「良さ」と思っていたところが、話を聞くとあまり良さになっていなかったり…など、刀剣商にお話を聞く事で発見が沢山ありました。
親身に相談に乗っていただけて本当に感謝しかありません。

頂いたアドバイスを受けてさらに改良を重ねていきましたが、設計時には他にもこんなところにも注意、工夫しました。


⑦その他ライト周りの工夫

地鉄ライトの角度調整機能はそこまで鑑賞に影響しなかったので、今は無くしています、が最初は実験も兼ねて角度を調整出来るようにしていました。

ライトには拡散シートを付けています。これが無いとライトが「点」になっていまい刃文が見えない事は勿論、眩しくなってしまいます。

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・完成後の見え方

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・終わりに

ライトは用途に合わせて実に様々な種類のものがあります。
刀鑑賞時のライト選定は本当に肝なので一番検討に時間を要しましたが、その分良い物が出来上がったように思います。

日々ライトも研究開発されているので、時間の経過とともに更に良いライトが出てくるようであれば設計変更していきたいと思います。


今回も読んで下さりありがとうございました!
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それでは皆様良き御刀ライフを~!

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