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刀の美しさ、何をもって決めるのか

遂に登場しました。AIにより美しい刀を作るという試み。
実に現代的です。
「美しい」の定義付けが1番難しそうではあり、時間はまだまだ掛かりそうですが出来たら面白そうです。


①何をもって美しいとするのか

さてまず上記記事を読む中で、南北朝期を彷彿とさせる大切先の刀身姿を見て、「なぜのたれ刃の南北朝期体配の刀が美しいとされるのか?」と疑問に持たれた方も多いのではないでしょうか。
記事を読むと、「過去11年に渡る日本刀の展覧会のデータを学習させました。(中略)刀の切っ先が大きいもの、もしくは迫力があるものがどうやら受賞しやすいという結論に行き着きました。」とあります。
つまり、ある一団体が開催している現代刀コンクールの受賞作の傾向を分析した結果、こういった姿の物が受賞しやすいという「傾向」であり、歴史ある日本刀全てを対象に導き出したデータではない事が分かります。

なるほど、納得しました。
というのも一般的に鎌倉期が日本刀の黄金期と言われているように、沢山の名工が出現した時期であり、名工が沢山出現したという事は全体的な質も高いレベルの刀が多い事が想像できます。
名工って定義が曖昧なのよと思われるかもしれませんが、昔から評価の高い作品を多く残している刀工が名工と呼ばれます。
評価は常に多くの識者によってされてきた歴史であり、それはやはり信憑性も高く美しいのでしょう。
事実鎌倉期の刀剣の国宝や重文指定数は最も多いです。
勿論時代時代で突出した名工というのは登場するので鎌倉期の○○の作は南北朝期の■■の作よりも美しいといった単純な比較は個人の主観も含むため難しくなるのですが、平均的に見てもどうも分析の結果、鎌倉期の姿を抑えて南北朝期姿の刀の方が美しいという分析結果が出てくるとは考えづらく感じたのです。


②美しさをどう決めるか

美しさを決める為の手法について、記事の手法(刃文の形状云々など)については個人的には頭を傾げる点も多かったです。直刃でも丁子でものたれ刃で人気の差はあれど美しいものは美しいですから。
ただ批判する以上は私自身の意見を書かねばならないので以下からは私が思う美しさを決める手法について書きます。

まず記事内で「国宝や重要文化財などの日本刀が何をもってそういう評価を得ているのかを明らかにしたいと考えています。」と書かれています。
これは既にある程度明らかになっていると思います。
国指定品には出来や健全性の他に伝来の凄さなども多分に含まれていると聞いた事がありますが、もともと現在の国宝や重要文化財を選定する際の審査員の中に本間薫山氏がおり、この方の選定方法の基準というのは現在の日本美術刀剣保存協会の審査方法の礎として根付いている気が個人的にはします。というのも日刀保の初代会長が本間薫山氏ですから。

この日刀保の指定に重要刀剣という指定があります。
初期の「重要刀剣指定品」は、この中のどれを重要文化財に指定してもなんら不思議ではない作というのが選ばれていると、確か「薫山刀話」という著書の中で語られていた気がします。
現在では重要刀剣の一つ上のランクが登場し、特別重要刀剣が民間の最高指定となっています。
特別重要刀剣では、健全性、出来、伝来などが審査対象になり優れた物が指定されているので誰が見ても感嘆する作が指定されます。

色々意見はありそうですが、特別重要刀剣の特徴なりデータをAIに読み込ませて判断させるというのは刀の美しさを決める上でより信憑性のある指標になりそうな気がしています。
当然ながらこの特別重要刀剣は鎌倉時代の物だけが指定されるわけではなく、江戸時代以降、幕末の刀なども指定されています。
鎌倉時代の刀と南北朝期の刀どちらが美しいか?は判断出来なくても、南北朝期の刀の中で美しい刀とそうでない刀の傾向を出す事は現在審査が出来ている以上、ある程度出来るはずです。

なので、現代刀コンクールのデータの代わりに第27回までの特別重要刀剣指定品の刃文形状なり、地鉄の様子、姿、などなどを取り込むだけでもかなり精度が上がるのではないかと思った次第です。


③終わりに

そういえば本日「第27回特別重要刀剣等指定展」に行ってきたわけですが、やはり重要刀剣と特別重要刀剣の間にはかなり大きな差があるように感じます。
特重の美しさは圧倒的です。
刃文にしてものたれ刃や丁子刃だから美しいのではなく、姿、地鉄、刃文すべてがバランスよく綺麗にまとまっているから美しい。
でもこれを数値化して表すのはどうすれば良いかなどの手法は全く分からない。

何となく思うのは、美しい刀というのを例えばのたれ刃で南北朝期の大切先の体配で、地鉄はこうで…みたいに断定するのはなかなか出来ないのではないかと思います。
出せるのはあくまで合格の「傾向」だけ。
傾向でいうなら、典型とされる作が合格しやすいという問題もあり、異風な作は美しくないのか?となる問題もありそうで、細かく考えていくと森の中に迷いそうなのでやはり実現はまだまだ先になりそうです。
しかしながら美しさが科学的に可視化される未来が来るのはとても楽しみです。是非こういった研究が今後も進んでいけばと願わずにはいられません。

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それでは皆様良き御刀ライフを~!

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↓この記事を書いてる人(刀箱師 中村圭佑)

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