偽銘の捉え方について考えさせられる

昨日偽銘の長船盛光の作を拝見してから少し偽銘の刀の捉え方について考えさせられている。

というのも2年前は「偽銘」と聞くだけで物凄く毛嫌いしていた。
何の為に偽銘を入れるかを考えると「人を騙して高く売る為」など良い理由が思いつかなかったからである。
そういう刀を手元に置いておくとその刀を見る度に鑑賞に集中したいのに人間の腹黒さが頭をよぎり刀の鑑賞に集中出来ない、さもすればその刀自体を鑑賞したいと思わなくなるのではないか、そんな事が頭をよぎっていたからである。
しかし、その時は実際に偽銘の刀をまだ見た事がなくあくまで頭の中でそのように一方的に思い込んでいた、という方が正しいかもしれない。

それが昨日初めて偽銘を見る中で、偽銘の刀が想像以上に出来が良くそれでいて値段が物凄く安い、という現実に直面した。
乱れ映りがはっきりと立ち、匂い口にムラがなく均一で比較的健全であった。確かに地鉄は新しい印象を受けた。
長船盛光の銘が切ってあったが、どうやら新刀の石堂派によるものだそうだ。
あくまで個人的な感覚値ではあるが80~100万くらいの出来の脇指が16万円であった。

現実的に刀を買うという視点で見ればどうしても値段は無視できない。
100万円の正真作の脇指が買える人であればそちらを買えばいい。
しかし実際に15万円程度しか予算が無い状態で正真の脇指を買おうとすれば、研ぎ減っていたり、錆が沢山ついていたり、疵が多かったりなどどうしても出来や状態が悪くなる。
一方で偽銘の方が仮にあまり研ぎ減っておらず、疵も少なくそれでいて出来が良い物であったらどちらを買うのが長い目で観て良いのだろうか。

確かに偽銘のものは鑑賞しながら怖さも感じた。
どうしても茎を見るので、盛光という偽銘の字の形が頭に摺りこまれてしまう。
毎日のように家で鑑賞した際に、いくら偽銘と分かっていてもどこまで銘を無視できるのか自信があまりない。

盛光の偽銘

上の刀身については石堂として見続ける事は出来そうなので特に恐怖などは感じなかった。

普通に刀身の出来が良い

しかし改めて考えて見れば別に鑑定士になるわけでもなく、仮に盛光の間違った銘が頭に刷り込まれてしまったからといってあまり大きな問題になるとも思えない。
刀身は毎日見ても別に盛光と誤解せずに石堂として見続ける事は問題なく出来そうである。というよりもいやらしさを感じる変な加工などがされておらず美しければそれで良いのかもしれない。

もう一点、冒頭に書いた人間の腹黒さを感じる気がするという点については、所持していないのでどう感じるのかは分からない。
しかし偽銘刀を正真と同じ値段で買うわけではないのだ。
もし正真作として買って偽銘だと分かった場合は、その刀を見る度に騙された時の事を思い出し嫌な気持ちになり、その刀を見る事すら嫌になるかもしれない。
しかし偽銘を偽銘として本来よりだいぶ安い値段で買うのであれば、騙されたという気持ちは少なくとも残らない。
自分自身が被害を受けたかどうかの、この差は大きい。
大事なのは偽銘を偽銘と知って持つ事なのではないだろうか。

安い刀には必ず欠点がある。
そこを許容できる人であれば、状態と出来が良い刀を安く手に入れる事も出きそうである。
一方で刀屋さん曰く、出来も状態も悪い偽銘刀もとても多いとの事。
それはどうしようもない刀であり、買うのはお世辞にもお勧めできない。
錆刀で3万円で安く思えたとしても、結局研ぎに出して白鞘を新調したら20万円位かかる。
故に今回の話は出来の良い偽銘刀に限った話である。

因みに改めて書くが偽銘の刀の購入を推奨しているわけではない。
正真作が買える人であればわざわざ偽銘を買わずに正真作を買えば良い。
むしろそちらの方が絶対に良い。
ただ予算が少ない場合はどうしても選択肢が狭まるわけで、その中で正真作に拘るよりも偽銘を候補に入れるのは意外にありなのではないか、という話である。
偽銘ではないが「刃切れ」の刀も同じ候補になり得ると思う。
刃切れと呼ばれる細い線が刀身に入っているだけで価格がぐっと下がるという特徴がある為であるが、鑑賞においてその疵があまり気にならない人であればそちらもとてもお得な刀になるだろう。

（画像出典：刀剣ワールド）

いずれにしても今回偽銘の刀を拝見させて頂き、偽銘への考え方、捉え方が少し変わった事は間違いない。

偽銘とはいえ、16万円とは思えない出来の作

今回も読んで下さりありがとうございました！
面白かった方はいいねを押して頂けると嬉しいです^^
記事更新の励みになります。
それでは皆様良き御刀ライフを～！

↓この記事を書いてる人（刀箱師　中村圭佑）

「刀とくらす。」をコンセプトに刀を飾る展示ケースを製作販売してます。