見出し画像

日常から心を解き放つ、もうひとつの時間との出会い

この先もずっと手元に置いておこうと思う本がある。その中の一冊が、星野道夫さんの旅をする木

この本の中にもうひとつの時間というとても印象的な一説がある。

星野道夫さんの友人がクジラが宙に舞い上がった瞬間をみたときの話。

目の前で起きた光景に、友人は言葉を失っていた。彼女が打たれたものは、フレームの中の巨大なクジラではなく、それをとりまく自然の広がりだったのだろう。その中で生きるクジラの小ささだったのだろう。そして一瞬ではあったが、彼女がクジラと共有した時間だった。ずっとあとになってから、彼女はこんなふうに語っていた。
「東京での仕事は忙しかったけれど、本当に行って良かった。何が良かったかって?それはね、私が東京で慌ただしく働いている時、その同じ瞬間、もしかするとアラスカの海でクジラが飛び上がっているかもしれない、それを知ったこと・・・、.... (省略)」
ぼくたちが毎日生きている同じ瞬間、もうひとつの時間が、確実に、ゆったりと流れている。日々の暮らしの中で、心の片隅にそのことを意識できるかどうか、それは、天と地の差ほど大きい。

山を登り始めて、シカやサル、カモシカと出会い、彼らの生きる時間を意識するようになった。人間が日常を送る世界で出会う動物たちとはちょっと違った、彼らはわたしのことなど気にもせずそこにいる。彼らの世界にお邪魔したときに、もうひとつの時間の存在に気づいた。
満員電車に乗っているときに、ふと思う、
彼らは今何をしているだとろう、と
この瞬間わたしの心は都心を抜け出し、あのとき歩いた山にいる。

わたしにとって山で出会う動物は特別な存在。
山登りをし、彼らと出会うことで、同じ時間に存在する無数の時間(生)を意識できるようになったことは、わたしの人生をとても豊かにしてくれている。

星野道夫さんの本を読んだとき、こんなにも優しい文章を書く人がいるのか、と感動した。短編集で読みやすいので、是非手にとってみてほしい。

おまけ

山に入ると、人も動物でありひとつの種でしかないと強く実感する。最近、サスティナブルなんて言葉が流行り高尚な雰囲気を出しているが、突き詰めればそれは種の存続のことではないだろうか。
サスティナブルやエシカルに取り組むとき、自分や会社、業界、種族など自分が見えている範囲だけでなく、同じ時代を生きる多くの隣人たちのもうひとつの時間を意識できるかどうかは、大きな分かれ目になるのではないかと感じる。

参考


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?