立ち位置の違いによる視点の変化

立ち位置が変われば視点も変わる~仕事における視点の違い~

これは、私が2014年に参加した「早稲田大学マニフェスト研究所 人材マネジメント部会(現:地域経営をリードするための人材マネジメント部会)」にて幹事をされていた熊本県庁の緒方さんが話されていた内容を基に、私なりの解釈を加えたものです。緒方さんにはこの場を借りて、感謝申し上げます。


立ち位置が変われば視点も変わる

「立ち位置が変われば視点も変わる」という経験は、大なり小なり誰もがしていると思います。
異動や昇進をしたとたん、今までと逆の立場にならざるをえなかったり、若い頃に言われていたことが、年を重ねてようやく理解できるようになったり、あるいは学生時代の部活やアルバイトなど、新人の頃と先輩になってからでは見えているものや考え方が変わっていったと思います。

この視点の違いを仕事に当てはめて、立ち位置=役職で考えてみると、仕事上の役割の違いが見えてくるのではないでしょうか。
もしかしたら、「なんで自分がこんな仕事しなきゃいけないのか?」と自分の立場と仕事のギャップに悩んでいる方のヒントにもなるかもしれません。

公務員(私の勤める市役所)の場合、新人から管理職までは主に次のような役職に分かれています。さらにこの上には、副市長や市長が続きます。

「2+3=?」の仕事

新人の頃は、まずは業務内容を知る必要がありますので、マニュアルのある仕事やルーティンワークなど、既存のルールや根拠などを理解し、正しく素早く結果を出す仕事が多いのではないでしょうか。
これらの仕事は、言い換えれば、既に判明している「現状」に、既に決定されている「手段・方法」を用いて、求められている「結果」を出すので、単純化した数式にすると「2+3=?」で表せます。

ここでは、「現状」に適合した「手段・方法」で、いかに効率よく「結果」を出せるかが職員の腕の見せ所です。
例えば、ごみの分別についての問い合わせ対応や転入転出の際の手続き、あるいは選挙の投票所や開票所での分担作業などでしょうか。

そして、そこには新人や異動したての職員にしか見えない「疑問」や「改善の余地」があることが多いです。
その「疑問」や「改善の余地」をヒント(視点)にして、業務の効率化や改善を図っていきます。
長年の慣習や常識に慣れてしまった職員では気付くことのできない「視点」は、新人採用や異動などにより「立ち位置」が変わったことにより得られる効果と言えます。

「?+?=5」の仕事

しかしながら、そうやって業務改善をしたこの数式も時代や環境の変化にだんだん合わなくなってきて、「2+3」のハズなのに、「4」になったり「6」になったりすることが出てきます。

ということは、「2」と判断していた「現状」か、もしくは「3」と決めていた「手段・方法」が時代や環境に合わなくなってきた可能性があります。

そこで、今度は「結果=目的・理想」が「5」になるために「現状」を調べて(調査)、現状に見合った「手段・方法(あるいは事業・施策)」を考えていく(企画する)ことになります。
あるいは、選挙によるトップの交代や国・都道府県の方針転換などで、「『結果』を『7』にしろ!」という命題が下りてくるかもしれません。
その時も同じように、現状の調査・把握とそれに合った手段・方法・事業・施策などを企画しなければなりません。

これらは、時代や環境などの変化に対応するための仕事ということになります。
例えば、保育園の待機児童をゼロにするための取り組みや、ごみの減量化・資源化を進める取り組み、都市計画決定された道路の整備などでしょうか。

「?+?=?」の仕事

そして、究極的には「目的・理想」を考えるところまでも含めた仕事が求められるようになります。
理想の将来像を思い描き、それを実現するために時代の流れや環境の変化を感じ取り、正確な現状把握やデータ分析をし、それらに適した手段・方法あるいは事業・施策を企画立案していく、少し大げさに言うならば「未来」を創る仕事と言えるかもしれません。
例えば、長期計画(総合計画)の策定や若者から高齢者まで地域で活躍するためにはどうすればいいかとか、シティプロモーションやシティセールス、ブランディングなどもそうかもしれません。

これまで述べてきた内容を一つの図にすると次のようになります。

ここでポイントとなるのは、「立ち位置=役職」により変わる「視点」は、必ずしも明確に線引きされているものではなく、グラデーションであるということです。
新人であっても「未来」を創る仕事の一翼を担うことはありますし、提案することだってあります。逆に、管理職や役員クラスであっても効率化や業務改善の視点は持っています。
したがって、図もグラデーションにしてあります。

OODAループ

さらにもう一つ、図の□の部分(答えが分からない部分)をどうやって導き出すかがポイントです。
それを鍛える方法の一つが、OODA(ウーダ)ループの活用だと考えます。

良く聞く似た言葉にPDCAサイクル(Plan→Do→Check→Action)がありますが、これは元々は工場などの品質管理や生産性向上のために生まれた、現場を管理・統制するための考え方です。

一方のOODAループは、アメリカ空軍で考案された意思決定のための考え方で、個々人の直感や機動性を重視し、想定外の事態が起きた場合にも瞬時に判断を下すなどの有効性を発揮します。

どちらが良い悪いというものではないので、PDCAサイクルの欠点(想定外の事態に弱いなど)をOODAループで補うというように、組み合わせて活用するのが良いと思われます。

小さく・素早く・たくさん繰り返す

いずれにしても大切なのは、これらのサイクルやループを「小さく・素早く・たくさん繰り返す」ことです。
繰り返した経験値が多いほど、図の□の部分(答えが分からない部分)をより正確に、より早く導き出すことができるようになるはずです。

例えば、「2+3=?」のように毎日、毎週、毎月行うようなルーティンワークは非常に適しているので、効率化や業務改善が早く進みます。

一方で、役所には年1回しか行わない仕事や隔年で行うもの、あるいは計画策定などの場合は数年に一度しか行わないものも多く存在します。
その場合は、回数が少ない分、新しい視点で見直せることもあるだろうし、あるいは既に時代や環境の変化が起きているかもしれないので、普段から仕事に関係のあるニュースや他自治体の情報などにアンテナを張っておくことが「観察(考察)」や「仮説・状況判断」の力を養うことに繋がります。

繰り返しになりますが、「小さく・素早く・たくさん繰り返す」ことで精度が増していきますので、仕事だけに限らず日常生活でも取り入れるとより鍛えられます。
日常生活は、大半がルーティンワークや繰り返しの連続なのでOODAループを取り入れる機会が多く存在します。
子育てはまさに観察と仮説の連続です。繰り返すうちに、少しづつ子どもが何を考えているのか分かってきます。かと思えば、今まではうまくいっていた方法では泣き止まなくなったり。
他にも、どうやったら効率よく家事を終わらせられるかとか、自分の思い描く理想的な部屋にするには家具の配置をどうすればいいのかとか、今度の休みは何をしようかとか、ループの連続です。

仕事にいきなり取り入れるのが難しくても、日常生活なら例え失敗しても他人に迷惑をかける心配はありません(家族には迷惑をかけてしまうかもしれませんが・・・)。またすぐに次のチャンスが来るので、訓練するには絶好の場だと思っています。

そして最後に、自分に対しても戒めとして、「公務員にもマーケティングは必要ですか?(12) ~まとめ~」でも述べたこの言葉で締めくくりたいと思います。

「実践なき理論は空虚であり、理論なき実践は無謀である」

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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