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8-4 持たざる者の剣


砂浜



キャラ22


 ……おれたちは、夏の海辺で、色々なおしゃべりをした。

 イオリさんは風理座高校 (ふうりざこうこう)。

 年上の幼馴染であるササオミは風理座大学 (ふうりざだいがく)に、それぞれ通っている。

 イオリさんのお兄さんというのは、酷夏流格闘術の師範をしていて、ササオミはその門下生なのだと。

 当のイオリさんは、身体が小さく、徒手格闘は向いていなかったため、剣の道を選んだらしい。


キャラ22

「あの…………夜羽の剣というのは……?」


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「あ。あはは……あれ、私が考えた必殺剣なんだ。恥ずかしいけど……」


「最高でした。美しく、可憐で、惚れ惚れするような……まさに芸術的剣技」

「そんなおおげさだよう。でも、カタチから入るのって、大事かなって」


 毎年夏になると、イオリさん、ササオミ、お兄さんの三人は、夏季合宿として、志賀島の国民宿舎に滞在する。

 しかし、今回は島の様子がおかしい。なんか「おかしくなったひとたち」が、暴れまわっている。

 そこで、海水浴客の安全と志賀島の平和を守るため、日々戦っているらしいのだ。

 自主的に! アリバも持たないのに! なんと気高くお優しい……!


キャラ (15)

「そいつらは悪意って言うんです」


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「あくい?」


「おれも、その悪意と戦っているんです」

 イオリさんとのおしゃべりが嬉しくて、おれはベラベラ喋った。

 気がついたら、ハヤトさんやナミさん、仲間たち、そしてアリバのこともぜんぶ話していた。

 おれが、みんなの足手まといであることも……

 せっかくのアリバをまったく活かしきれていないことも……

 戦いに自信がもてず、もうメンバーから抜けたいと思っていることも……。

 砂浜に座り、パラソルの下で話を聞いてくれていたイオリさんは、しばらく難しい顔で黙り込んでいたが、とつぜんすくっと立ち上がった。


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「…………場所を移そう。ついてきて」


 真剣な顔でそう言って、さっさと砂浜から出てしまう。

 あわててその後姿を追った。なんなの?

 海水浴場を出たおれたちは、少し北にある『志賀海神社』の階段を登った。


風景 (1)


 じ、神社……? こ、こんなひと気のないところに来て……イオリさんどういうつもりなんじゃろ?

 ふたりきりでこんな静かな場所に来たことに、トキメキを隠せないおれ。

 でも、なんで、イオリさん、竹刀持ってんの?


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「……………………………………」


 木漏れ日の境内で、くるりと振り返ったイオリさんの顔は、最初に悪意と戦っていたときのように、凛々しい気迫に満ちていた。

 神々しくすらあるお姿。

 だけど、なんでコワイ顔しているんだろう?

 おれはわけがわからない。

 ……と思ったら、ポケットから白いハチマキを取り出し……

 ……ギュッとしめて……


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「ヤギハラくん」


キャラ22

「ひゃ、ひゃい?」


「風理座高校剣道部夜羽イオリ。あなたに試合を申し込みます!」



pヤギハラ

「えひょっ!?」


「さあ。構えて! 本気で行きます!」

「に、にぎゃっ! ちょっと待ってー! なんで!?」

「あなたも帯刀する剣士ならば、常在戦場。いつでも覚悟はできているはず。……いざ、尋常に勝負ッ……!」

 にぎゃーーーーーどういうことなんじゃーーーーーーーーーー!!!


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「来ないなら、こちらから参りますッ……夜羽の剣【壱の太刀】水澄し!


 フッと軽やかな踏み込みでイオリさんが突っ込んでくる。

 こ、コワイッ! けど、凛々しく清らかな顔がおれ目がけて近づいてくるのは嬉しいっ。

 バッ! バッ! バッ!


pヤギハラ

「にぎゃああああいいい」


 連続で繰り出される竹刀をなんとかかわす。

「…………………………」

 イオリさんの戸惑った顔。

「……ならば、夜羽の剣【弐の太刀】……鬼ヤンマ!

 身軽にジャンプすると、まるで空中を蹴ったかのような鋭角な角度で急降下して、鋭い突きを放ってくる。


pヤギハラ

「ひ、ひいいいいいいいい」

 なんとかギリギリで当たらなかった……。


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「…………これもかわしたっ!? …………ならばッ」


 厳しい顔のイオリさんが、ぐんっと身を沈める。
 あ、あれは確か……イオリさんの必殺剣!


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黒アゲ刃ぁッ……!!」


 気合とともに、まるで蝶が羽ばたくような華麗さで、両腕を振り回したイオリさんが、縦横無尽の回転斬りを放ってくる。


pヤギハラ

「おたすけーーーーーーー!!」


 大きく動いてそれをやり過ごした。

 あ、あんなの食らったら、おれなんかイチコロじゃよ……。なんでか知らないけど、イオリさんから攻撃されて、意味不明だし……。


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「……………あ、アッサリ…………かわした!?」


 イオリさんが呆然としている。

 ふと、その顔がますます厳しくなった。

「さすがです。ヤギハラくん。ならば、私の持てるすべての力を出します! あなたのようなひとにはわからないでしょうね。才能のない私みたいな人間が、血のにじむような努力で身につけた、ささやかな強さと自信のことなんて


キャラ22

「へ?」


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「剣の神に愛され、あふれる才能を持っていながら、簡単にダメだとか、あきらめたとか口にする……私は、何よりそれが許せない……!」


「いや、神とか才能とかちっとも意味がわかりませんけど……」

「…………参りますッ」

 イオリさんが叫んだ瞬間、フッとその姿がかき消えた。


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「夜羽の剣【奥義】……ス爪バチ!!」


 一閃のきらめきと共に、イオリさんは、まさしく蜂のような勢いで、凄まじい片手突きを放ってくる!

 にぎゃーーーーー! こんなのよけられるわけない!!

 かといって、おれの唯一の技である小手打ちを、イオリさんの可憐な御手々に放つわけにはいかないっ。


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 しかたなく、おそろしい速さで突っ込んでくるイオリさんの、手に持った竹刀目がけて、小手打ちを放った。

 ここなら、イオリさんに怪我は……。

 パンッ!

「!!!??」

 うまくいって、イオリさんの持つ竹刀だけを跳ね飛ばすことができた。

 ホッ……。

「…………そ、そんな…………」

 イオリさんは呆然とした声を出す。


キャラ22

「あ、あああ、あの……イオリさん……? おれ、なにか、イオリさんを怒らせるようなこと……しましたか……?」


 しどろもどろにたずねる。

 おれ、またなんか、やってしまったのだろうか……。


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「……………………………………」


 イオリさんは、竹刀を失った自分の手を放心状態で見つめている。

 そして! 

 そして……

 信じられないことに……

 イオリさんの美しい顔に……

 ひと筋の涙が伝った…………。


pヤギハラ


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