![森家ファイト__ver1](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/13190513/rectangle_large_type_2_16211eb6673800fd686ee628e3f048f9.jpeg?width=1200)
1-8 野間アピロスの邂逅
『野間ダイエー』……通称アピロスは、福岡市南区の小高い丘の上にある。
すぐ隣に、大池公園という感じのいい公園があることをのぞけば、ごく普通のショッピングセンターだ。
とうの昔に買収されて名前は変わっているが、みんないまだにアピロスという旧名称で呼んでいる。
公園と隣接しているせいか、のんびりした、味のあるスーパーだ。
正面入口から入ってすぐは、昭和のデパートの雰囲気を色濃く残したホールになっている。
![キャラ (1)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/34924633/picture_pc_2c8108ffa7bfe31491042fd4d7c4b47d.png)
「ここがアピロスだ。このへんの住人は、買物っていったらここが定番だな。デイリークィーンってレアなハンバーガー屋もあるから、あとで名物のソフトクリームでも……」
![メインキャラ (12)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/34924643/picture_pc_058a2e4661086cf1bf0024bde1681c62.jpg)
「……ハヤト。たぶんここ。感じるんだ」
「感じるって何をだ?」
そこへ、とうのマユ本人がひょっこり現れた。
![キャラ (10)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/34924630/picture_pc_a126470cd6a78c9b44b8abd9e8aa71f9.png)
「おにーちゃん」
「お。マユ! ちょうどよかった。探してたとこなんだ」
「あそぼうよ」
「え? ええとな、遊ぶのはいいんだが、その前に……」
ふと、マユの様子が少し変なことに気づいた。
なんというか……ちゃんと目が俺を見ていない。そして、俺の声が耳に入っていない……そんな違和感。
![](https://assets.st-note.com/img/1664549255475-ECn1avvSmd.jpg)
「マユね、ひとりぼっちなんだ」
![](https://assets.st-note.com/img/1664549265138-B6Ah3sqGe2.jpg)
「……え?」
「さびしいよ」
「…………」
![画像1](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/13190538/picture_pc_e647914d7887b1cc7865e4bd3f81a315.jpg?width=1200)
やっぱりおかしい。こんなにはっきり寂しがるマユは初めて見る。
確かにマユは、孤独の影がつきまとっているような、寂しげな子ではあった。
でもそれを、快活な性格で覆い隠し、見せないようにしている……
少なくとも俺には、そんな、大人びた子に見えていた。
このマユは、何かがおかしい。
……幼すぎる。
![e_23_boss_23_リン](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/41038811/picture_pc_d44e80b90d16a902321e730c42a94f03.jpg)
「かくれんぼしよっ」
マユはくるっと背を向けると、あっという間に、アピロス一階の通路に消えた。
![pハヤト](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/41038836/picture_pc_52e03a39028b3d4b777b4686bb53b19e.jpg)
「マユ! ……なにがどうなってんだ……」
![pナミ](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/41038839/picture_pc_73dad010bf21941ec3f8c7da89379032.jpg)
「……ハヤト……間に合わなかった」
「間に合わなかったって……何が?」
よく見ると、ナミは小刻みに震えている。
![](https://assets.st-note.com/img/1664549345746-GfEwaKVFbW.jpg)
「マユは悪意だ」
![](https://assets.st-note.com/img/1664549353390-2rd7WDoGm1.jpg)
「悪意って、鴻巣山でナミが言ってたやつか……?」
でも、今見たマユは、あのときのオッサンとは違っていた。
もっと、落ち着いているというか……
変な表現だけど、ザコっぽくない。
![e_23_boss_23_リン (2)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/41038866/picture_pc_2d33f4443802b4ff533841901b1d12f4.jpg)
(さぁ、マユはかくれたよ。さがしてね……)
![pハヤト (2)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/41038871/picture_pc_012a385811970b4ae097b7a3b24f2d2c.jpg)
「!? なんだ!? マユの声が、頭に直接入ってきたぞ……!?」
![pナミ (2)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/41038877/picture_pc_284800337328a9a09518a4baf3ae390b.jpg)
「ダメだ……ハヤト……逃げよう」
「なんだって?」
「あんなに強力な悪意だったなんて……。あのマユと渡りあえるだけの『アリバの戦士』もまだ見つかっていない。……ボク自身も、アリバが使えない。こんなのじゃ戦いようがないよ」
ナミがそう言った瞬間、ガラガラと音を立て、アピロスの出入口にシャッターが下りた!
「!? 出口、ふさがりやがったぞ!」
![e_23_boss_23_リン (2)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/41038906/picture_pc_f827615bf49b2f027228c94913898dc8.jpg)
(マユをみつけるまで、にげちゃダメだよ。ちゃーんと、みつけてね)
音声コードを脳に繋げられたみたいに、頭の中で声が響く。
マユの言葉から察するに、シャッターを閉じてアピロスから出られなくしたのは、マユ自身の仕業かっ!?
![](https://assets.st-note.com/img/1664549396722-k6f42nDQGg.jpg)
「悪意ってのがどうしてマユに!? それに、この妙な現象はなんだよっ。悪意って、超能力みたいなマネもできんのか!?」
![](https://assets.st-note.com/img/1664549412556-v4HcQfStsx.jpg)
「……………………」
ナミ自身にも、目の前の事象が完全には測りかねているような顔だ。
「くそ! ……てことは、鴻巣山のオッサンみたいにマユも凶暴化すんのか!?」
「……あの子はそれだけじゃ済まない。あの子は……悪意に選ばれた子なんだ」
「選ばれた?」
![](https://assets.st-note.com/img/1664549447969-blFGZSVBFA.jpg)
「悪意は誰でも覚醒する可能性がある。老若男女も関係ない。でもごくまれに、悪意が選ぶ『特別な人間』が居るんだ」
![](https://assets.st-note.com/img/1664549456809-NdAPrbtKQb.jpg)
「まさか……それがマユなのか……?」
「……そんな人間は、ただ取り憑かれた人間よりもずっと強い、恐ろしいほどの力を手に入れる。そして、自分の心の闇に取り込まれてしまう」
人の心に……棲まう闇。
「……追いかけろって言ったり、逃げろって言ったり。どっちだよ」
俺はため息をついて苦笑した。
震えるナミを勇気づけようと、わざと能天気な声を出す。
本当は、俺自身のほうがビビってるのに。
アピロスの中がにわかにざわつき始めた。
店員に詰め寄る客。
ケータイをかけようと試みる客。
シャッターを持ち上げようとする客。
非常口を探す客。
今、俺の目の前で、事件が起き始めようとしている。
それも、引き起こしたのは、俺のよく知る少女だ。
![画像2](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/13190558/picture_pc_8ebd7e5c3ad1d504b3a54d6edb910762.jpg?width=1200)
![キャラ (1)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/41038924/picture_pc_84d9b0bf15531b0ac66943cc47c85697.png)
「探そうぜ。マユを」
俺は笑顔で言った。
![](https://assets.st-note.com/img/1664549571222-h4LcpAmIz6.jpg)
「………………」
ナミは虚ろな顔で俺を見る。
「向こうも探してくれって言ってるしな」
「アリバを持たないハヤトにできることなんてない」
「さっきは追いかけろって言ってたじゃねえか」
「マユが悪意として覚醒する前なら、仲のいいハヤトがうまく話すことで、覚醒を止められるかもしれないと思ったんだ……マユは……」
ナミはそこで言葉を切り、じっと俺の瞳を見つめた。
![](https://assets.st-note.com/img/1664549514795-EHP1yxA3Ca.jpg)
「……ハヤトのことを……慕っているようだったから」
![](https://assets.st-note.com/img/1664549521552-8LqMnaJYh1.jpg)
「だったら、なおさらマユに会わないとな」
俺は自分の中の勇気を奮い起こす。
「まだ手遅れじゃないかもしれないぜ? それにマユは俺と会いたがってる」
![](https://assets.st-note.com/img/1664549530857-6qzY1lbWV2.jpg)
「殺されるかもしれないよ?」
ナミが無表情に言ったその言葉は、現実味なんてどこにもなかった。
「……行こうぜ。とりあえず、あちこちまわってマユを探そう」
![画像3](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/13162006/picture_pc_c36c5fba7e3a3df93008cb6126fe79ea.jpg?width=1200)
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