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10-5 逆転


 ―― サユリの挑戦状【QUEEN OF FIGHTER 9X】――

 激闘の末、残る味方は電波のヨシオただひとり……

 だが、敵は、まだ四人も残っている!

 これはもう、ダメかもしれん……。

 弱気にササハラをうかがうと、口元に不敵な笑みを浮かべていた。



キャラ (16)

「ササハラ、おまえまだあきらめてないのかよお……?」


キャラ (11)

「諦める? まさか。ようやく盛り上がってきたところだろう」


 ……まったく。コイツといい、ハヤトといい、こういう局面で絶対に勝負をあきらめない連中のメンタルは、どうなってるんだ……。


ササー

「……懐かしいな、ヤノ」


pヤノ

「ああん?」


「ハヤトとお前と私、よくこうやって、格闘ゲームで対戦したものだ」

「そうだったなあ。最近はあまりしてないけど」

「思えば……お前やハヤトと夜通しゲームをして遊んでいるときだけが、私にとって、本気で楽しいと思える時間だった」

 こんなときだというのに、ササハラはやけに感傷的になっている。

 格ゲーか……。

 どんなときでも機械のように冷静で、正確無比に操作するササハラは、格闘ゲームの腕も仲間内でズバ抜けていた。

 そして、そんなササハラと唯一タメを張れたのが……ハヤトだった。


キャラ (4)

「お前とハヤトはいい勝負だったもんなあ」


キャラ (11)

「アイツとの勝負は本当に楽しかった。……私がハヤトの戦い方に劣等感をもっていたことは話したか?」


「なんだよそれ。初耳だぞお」

「自分の有利など一切頭になく、ただまっすぐ、気持ちよく挑んでくる。それでいて、強い。アイツと戦っていると、姑息な自分がたまらなく嫌になったものだ」

「たしかになあ」

 アイツの戦い方は独特で、誰もマネできなかった。まさに、ハヤト流って感じだったっけ……。


ササー

「炎のように攻めまくってくるかと思えば、氷のように冷静に反撃してくる。その動きは、風のようにとりとめがない。……はは。思えば不思議なやつだ。どうして、あいつが無属性なのだろうな


pヤノ

「それは俺も思ったぞお。どうして、ハヤトにだけ属性がないんだろうって。でも、ハヤトって男は、炎のように熱くもあるし、氷のようにドライでもある。そして、風のように天然なところもある……」


「どれでもあるし、どれでもない」

「そうだなあ。属性は性格で決まるらしいけど、ハヤトの属性って、イマイチよくわからないぞお」


キャラ (11)

「……そのあたりに、すべての答えがあるのかもしれん」


キャラ (4)

「?」


「いや。こっちの話だ。さあ、ヤノ。正念場だ。ハヤトではないが、集中していこう」

「お、おう!」


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レベル1【火炎電波】 ↓→ パンチ

レベル1【突風電波】 ↓→ キック

レベル1【氷雪電波】 ↓← パンチ

レベル2【耐衝撃電波】 ←↓→ パンチ全押し


 ヨシオのコマンドは格ゲー伝統のものばかり。これなら使いこなせるぞお!


e_47_boss_サユリ

「出たね、電波使い!」


 サユリが口の端をニヤリと持ち上げる。

「大将にそれを出すのは読めてた! 三属性を使いこなすって話だけど、しょせんは器用貧乏! へんな顔してるし、この差をひっくり返せるとは思えないけど!」


キャラ (10)

『だまれビッチ』


キャラ (10)

『おまえのチョコザイ悪意ファイターなんて、おれひとりで充分なんだよ。ビッチ』


 び、ビッチ……? お、おまえええ、かりにも俺のカノジョだった女だぞおおおお!!


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「……ふうん。顔のわりに、なかなか骨がありそうじゃん、坊や」


 サユリは凄まじい顔でヨシオをにらんだ。大学のアーチェリー部で、敵対する連中相手に、一歩も引かなかったときと同じ顔……!


chara6 (2) - コピー

「ワタシをビッチ呼ばわりしたこと、死ぬほど後悔せてやる……!」


キャラ (10)

『カモン、ビッチ』


pヤノ

「ヨシオ。ビッチはやめろ……」


 サユリが出してきたのは、風属性の悪意。見た感じ、特別な感じもないし、自爆もしそうにない……。


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 ……さすがに、ネタ切れしてきたのか? いや、サユリのことだ。最後まで油断はできない……。

 それはササハラも同感だったらしく、小声でささやいてきた。


ササー

「……気を抜くな。三属性のヨシオ相手には、後出しジャイケンの有利さはない。ヨシオの戦力をはかるため、当て馬を出してきたとみるべきだろう」


 ヨシオの戦力……そんなの、プレイヤーである俺もイマイチ把握してないぞお……。

 そうこうしているうちに、ROUNDが開始された。

 もう一戦も落とせない……まさに、背水の陣……!


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 とりあえず、風属性の相手ということで、効果の高い火炎電波を使ってみる。

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 ガボオオオオオオオ!!!

 コマンドを入力した途端、敵の立っているあたりに、すごい火炎の爆発が起きた!

「……くううっ……なにっ? なにこれ!?」サユリの戸惑う声。

 あまりにいきなり過ぎて、反応のいいサユリも、まともに食らっている!

 相手の体力ゲージが、ゴッソリ減った!


ササー

「畳み込め、ヤノ!」


 珍しくササハラが叫ぶ。とっさに俺は、「↓→パンチ」という火炎電波のコマンドを連続入力した!

 ガボオオオオオオオ!!!

 ガボオオオオオオオ!!!

 赤熱の爆発が続けざまに生じた。

 コマンド入力しただけで、敵目がけて火炎の嵐が途切れなく発生する!

 サユリは必死でガードしたり避けようとしていたが、次から次に襲いかかる火炎の塊に、まったく対処できないようだった。


e_47_boss_サユリ

「な、なにその反則技! チート!!」


 サユリが叫ぶのも納得だった。まるでファンタジーRPGの高レベル火炎魔法……。ひとりだけゲームが違うぞお……。

YOSHIO3 Win !

キャラ (10)

『ありゃ、まるで歯ごたえありませんな? ビッチさん』


キャラ (11)


「…………とんだバランスブレイカーだな……」


キャラ (16)

「さいしょから、ヨシオひとりでよかったんじゃないかよお……?」


 おそろしいくらい必殺技が使えるうえ、三属性すべてに隙がないわけだろお? これなら、相手にあと何人残っていようが勝てる……!

 ふと見ると、サユリは般若のような顔でヨシオをにらんでいた……!


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「つぎ、ビッチって言ったら、オマエの耳の穴にアイスピックぶっ刺して、電波をチューニングしてやる……」


 そんな怒り心頭のサユリが出してきたのは、マッチョな炎系のライフセーバー。肉体的には頑強そうだが、有名人でもなければ、危険な印象もない。


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キャラ (11)

「先手必勝、一気に畳み込もう」


キャラ (4)

「けど、あの悪意、打撃が強力そうだぞお。ここは、慎重に行くべきじゃないかあ?」


ササー

「サユリのことだ。何か企んでいるはず。それを出させる機会を与えないほうがいい」


 作戦がまとまらないまま、ROUNDが開始された。

 炎属性の相手だから、迷わず氷雪電波をぶちかますべきだった。

 ……だが、俺の弱気の虫が、まずは防御を固めようと、レベル2耐衝撃電波を選ばせた。


pヨシユキ

『そうら、耐衝撃電波ですな! これでキサマの物理攻撃はかなりの部分をシャット・ナウト……』


 ヨシオが言い終わらないうちに、それは起こった。

 次の瞬間起きたこと……それはまさに悪夢だった。

 サユリが操作する悪意のライフセーバーが、鋭くジャンプして、フライングチョップを繰り出す。

 とっさにガード。

 ライフセーバーは、着地と同時にヨシオを地面に引き倒し、投げ技を仕掛けてきた!

 こっちは、チョップをガードした直後で、身体が硬直して動けず、その投げ技を回避することができないっ!

 ダメージを食らったヨシオが立ち上がる。そこへまたもフライングチョップ!

 ガードするしかないが、その硬直を狙われ、またも投げ技をかけられた!


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ササー (2)

「…………やってくれる」


 こ、こ、こ、これは……投げハメ!!

 ゲームのシステム的な不備を利用し、相手が絶対に回避不能の技を仕掛け、身動きできないようにして、一方的に倒す【ハメ技】……

 中でも投げハメは、かんたんなわりに効果的で、やられたほうは身動きすらとれず一方的に倒されるという、格ゲー界最悪の禁じ手……。

 思わず筐体をドカッと蹴りながら、俺は叫んだ!


キャラ (16)

「さ、サユリぃぃぃ、そ、そこまで堕ちたのかよおおおお!!」


 サユリもまた、台をバンッと叩きながら言い返してくる。


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「なにか問題でも? ワタシはアスリート! アスリートは、負けたらオワリ! だから勝つためなら、なんでもする! その必死の執念も覚悟もなかった、ハンパな競技者のヤノくんには、この気持ち、わからない!」


pヤノ

「……くううううう」


 サユリはその後も投げハメをやめようとはしなかった……。

 ヨシオは、電波を出すこともできず、一方的に倒された……。


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 俺たち福岡ファイター最後の砦が……。


YOSHIO3 Lose!

キャラ (10)

『ちくしょうテメエ、ハメてんじゃねえぞコラ』


キャラ (4)

「…………こんな……こんな卑怯な手で勝って……おまえは、こんなゲームがしたくて、わざわざこんなこと仕組んだのかよおおおお」


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「ふんっ! いいこと教えてあげよっか? ズルい卑怯は敗者のタワゴトってね! とにかくこれでワタシの勝ち!」


キャラ (3)

「待って! ハヤトの解毒剤は!? ハヤトはどうなるの!」


e_47_boss_サユリ

「さあ? もうそろそろ死ぬんじゃない?」


 サユリは冷酷につぶやく。

 このまま……終わるのかよお……こんな幕切れなのかよお……

 …………ハヤト…………すまん…………


キャラ (11)

「まだだ」


 ササハラがクールに言い放った。


chara6 (2) - コピー

「は?」


「勝手にゲームを終わらせるな。……ここからだろう、面白いのは

「はあ……? だって、アナタたち福岡ファイターは全滅……」

「……していない。まだ最後のひとりが残っている」

 ササハラはそう言うや、白衣をマントのようにバサリと脱ぎ捨てた!



e_誉知院 - コピー

「プレイヤーチェンジだ! 操作は私。最後のプレイヤーキャラは……コイツだ!」


YANO

キャラ (9)

『ど、どういうことだよお。聞いてないぞお……』



残メンバー

pヤノ



敵残存数…… 炎2! 氷1! 合計3!

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