幕間3 スエのきもち
「……てな感じで、東和高校に到着してみたら上へ下への大騒ぎ。まるで戦争さ。まさか高校まるごと悪意に染まるとは思わなかったぜ」
「ほえー。すごいねー。まさに『東和高校夏の陣』なの!」
東和高校の騒ぎがあった翌日、俺はセーブカンパニーでセーブ手続きをしながら、スエ相手にいつもの冒険の話をした。
「まあ、こっちも新しい仲間がドカッと増えて、なんとかなったんだけどな」
「うんうん。ついにハヤトの弟シンジローくんも目覚めたの! ここ、見せ場なの! 熱い兄弟愛!」
「いやいや。そんな上等なモンじゃねーよ」
「それから、東和高校の生徒さんたちが次々に仲間になったの」
「ああ。まずはヨシオだな」
「『電波の怪人』ヨシオ!(敬称略)」
「……それ、スエがつけたニックネームか? うまいこと言うな」
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【ヨシオ】 レベル5 EXP182 電波系 身長155センチ 体重40キロ
HP 45 (D)
攻撃力 19 (E)
防御力 10 (E)
特殊攻撃 100 (S)
特殊防御 70 (A)
素早さ 34 (C)
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【東和高校二年生。ふわふわユラユラ、独自の世界で生きる電波系の不思議ちゃん。シンジローとウマがあう。コロッケと犬とマンガが大好き。前日に名作マンガを一気読みし、心打たれた結果、独力でアリバに目覚めた。世界に三人しか居ない電波使いのひとりで、疑似的な三属性を使いこなす。口ぐせは「ですな」と「福岡はおれのもの」。
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【レベル1 火電波 15/15 威力80 命中率85% 追加効果・混乱】
《「ホホホホホ。火炎の嵐で消し炭になるですな?」と言って火炎の嵐を巻き起こす電波系特殊技。追加で混乱までさせる》
【レベル1 風電波 15/15 威力80 命中率90% 追加効果・麻痺】
《「ホホホホホ。風の刃で細切れになるですな?」と言って風の刃で切り刻む電波系特殊技。追加で麻痺までさせる》
【レベル1 氷電波 15/15 威力80 命中率80% 追加効果・睡眠】
《「ホホホホホ。冷たい吹雪で氷漬けになるですな?」と言って冷たい吹雪を浴びせかける電波系特殊技。追加で睡眠までさせる》
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「すっごいレアなアリバを使う電波使いなんだよね?」
「ああ。何千人にひとりって才能らしい。なにしろ、弱点と言えば打たれ弱さくらいで、どんな相手とも対等以上にやりあえるんだから、なんか主人公みたいだぜ」
「ううん。主人公はハヤトなの」
スエは首をちょっと曲げてニッコリ笑った。
スエは本当にいい子だ。なんでも楽しそうに一生けんめい聞いてくれるし、俺のこと全肯定だし、いつも笑顔だし。
肝心のパートナーのナミが、戦いのとき以外は、不愛想で可愛げないからな……。つい、明るくて性格もいいスエと比べちまうぜ。
「それから『炎の暴発』シンジロー!」
「俺の愚弟か……」
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【シンジロー】 レベル5 EXP182 属性 炎 身長172センチ 体重64キロ
HP 78 (B)
攻撃力 51 (C)
防御力 35 (B)
特殊攻撃 60 (B)
特殊防御 22 (C)
素早さ 36 (C)
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【東和高校二年生。気合が原動力の熱血少年。極度のブラコン。兄ハヤトに対する強い憧れと劣等感が、強みでもあり弱みでもある。基本的に小心者だが、一度火がつくと調子に乗ってどこまでも突っ走る。強大なアリバを内に秘めるも、不安定で今だコントロール不能。ドライなハヤトと違い、友情を大切にするため友達が多い。趣味はパソコンとイラスト。
シモカワとのタイマンモードのさなか、無意識にレベル3必殺技『バーニングシンジロー』を発動。現時点で、覚醒直後にレベル3を発動できたのは、最強の悪意の幼生体であるマユだけである。それが意味するところは……?】
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【レベル1 熱血パンチ 20/20 威力10~70 命中率80% 火属性・通常】
《ハヤトの必殺パンチを真似た技。火をまとった荒々しい右ストレートを放つ。本家同様、出が早く使い勝手は悪くないが、威力は不安定で、強弱の落差が著しい》
【レベル2 熱血 5/5 攻撃力アップ 防御力ダウン 三回まで重ねがけ可】
《ハヤトの集中の真似。情熱をたぎらせ攻撃力を上げるが、スキが出来て防御は下がる。三回まで重ねがけ可能だが、なんとかモードとかは特にない》
【レベル3 バーニングシンジロー 13/13 威力70~120 命中率93% 火属性・通常 追加で混乱】
《一瞬だけ覚醒したシンジローのレベル3。戦闘終了後はまた使用不可になった。アリバが極限まで高まった『バーニング』状態に意識的に自分を持ち上げ、炎の体当たりをぶちかます》
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「まさに暴発だな。ナミに言わせれば、強力なのに全然安定しない、不思議なアリバなんだと。ツボにはまれば、トップクラスの爆発力なんだけど、逆にドツボにはまると、使い物にならないらしい」
「お兄ちゃんとしては、心配だねえ?」
スエはイタズラっぽく上目遣い。
「……まあな。いつまで経っても自立しやしねえ。けど、気になることがひとつある。あとからナミに聞いたんだが、シモカワとのタイマンモードのとき、一瞬だけ、信じられないくらいアリバが燃え上がったらしい。『バーニング』とかいう特別な状態らしいんだけど……」
「ふうん。バーニング! 気になるの。……で、そのシモカワくんとのタイマンモード。これは熱いよ! アタシ、こーいうの大好物!」
「こ、好物って……」
「アリバの戦士の美形枠。『情熱の火唱(かしょう)』シモカワ! 確かに可愛い顔なの!」
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【シモカワ】 レベル5 EXP182 属性 炎 身長163センチ 体重50キロ
HP 68 (C)
攻撃力 46 (C)
防御力 13 (D)
特殊攻撃 65 (A)
特殊防御 40 (B)
素早さ 125 (S)
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【東和高校二年生。信念と情熱で突き進む炎の生徒会長。シンジローの親友。女の子と見まがう美少年だが、中身は頑固で一本筋の通った男。普段は紳士的で大人しいが、『情熱スイッチ』がオンになると、博多弁になり熱い本性が出る。ギターと歌が得意。女子人気が非常に高く、アリバのメンバーで一番の(というか唯一の)モテキャラ。
そのアリバは『声』に特化しており、悪意に取りつかれた際は、演説と校内放送だけで大勢を悪意に染め上げた。
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【レベル1 フレイムピック 30/30 威力40 命中率90% 炎属性・通常】
《「燃えろっ!」のかけ声と共に炎をまとったピックで敵を切り裂く。出が非常に早く、斬撃属性もあるが、シモカワは物理攻撃力が弱いので、序盤は決定力に不安がある》
【レベル2 雨のち晴れ 5/5 防御力アップ 二回まで重ねがけ可能】
《未来を信じて明るく軽やかに歌うメロディーが、シモカワを包む防御幕となる。防御力アップ。ほんの少し氷属性にも耐性がつく》
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「アイツの女子人気はすげえからな。けど、あんな女の子みたいな顔して、中身はけっこう負けん気の強い、筋の通ったヤツなんだ」
「シンジローくんの炎の一撃でアリバに目覚めたの! そして炸裂する、東和革命! クライマックスなの!」
「あの放送な。まったく恥ずかしいやつらだよ。けど、あの放送で、東和の戦いの潮目が変わったからな。まさに革命だ」
「……それから……」
「あとの仲間といや、クリハラだな」
「『疾風努闘のクリハラ』! ハヤトの同門なの!」
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【クリハラ】 レベル5 EXP182 属性 炎 身長176センチ 体重68キロ
HP 108 (A)
攻撃力 75 (B)
防御力 41 (A)
特殊攻撃 20 (C)
特殊防御 15 (D)
素早さ 50 (C)
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【東和高校二年生。厳冬流格闘術茶帯。自称天才の努力家で、非常にプライドが高く、負けず嫌い。「ムホホ」と特徴的な笑いかたをする。シンジローとは色々なことで張り合うライバル。カムラとは幼馴染。東和軍団で唯一特進クラスに通っている。実は、ひとには言えないゲームが大好き。
ハヤトとは同門で弟弟子にあたる。体力的には恵まれており、さらに努力も欠かさないため、基本性能は高いのだが、不器用さとメンタルの未熟さゆえ、充分に力を出し切れず、今一歩ハヤトに及ばない】
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【レベル1 ジャブ 30/30 威力10 命中率98% 風属性・通常】
《厳冬流基本の型に、ボクシングの要素を取り入れたけん制技。命中精度は高いが、威力は低い。必殺技の中では珍しく成長していく。→『ストレート』→『ワンツー』》
【レベル2 クリクリンチ 5/5 体力回復 たまに追加で麻痺】
《相手に密着して生暖かい息を吹きかけながら休憩。微量ながら体力を回復する。敵が女だと回復量アップ。自力で回復できる珍しい技》
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「ああ。厳冬流格闘術での弟弟子だ。もっとも俺は白帯、あいつは茶帯なんだけど」
「白帯って、初心者がつける……? なんで? ハヤト、充分強いのに」
「まあ、昇段審査っての受ければいいだけなんだけど、そこはあえてな。白帯が実は強くて黒帯に勝つのって、なんかロマンあるだろ?」
ナミにもそれ話したんだけど、冷たく言われたぜ……。
『……え? バカ?』
でもスエは、握り拳をプルプル握りしめ震わせながら、
「……っかあっっっっっっっこいいいいいいい!!」
……な、なんていい子なんだっ。こういう子がカノジョだったら、毎日楽しいだろうな。
「え、と。あとは……」
「カムラ、カワハラ、ヤギハラの三馬鹿トリオ。コイツらはいいや。割愛」
「たはは……そして最後は、体育の妻元先生との放課後青春対決なの」
「さすが東和の鬼教官。三人がかりじゃなかったら、とても勝てなかったと思うぜ?」
「その先生を目覚めさせたら、東和高校も鎮まったの?」
「ああ。妻元先生と、ちょーっと最後に色々あったけど、まあ無事に目覚めさせて、大元の悪意が消えたら、東和全体の悪意も沈静化した。
もっとも、シモカワとシンジローの東和革命で、ほとんどの生徒が正気に戻っていたんだけどさ。あれだけの騒ぎで、怪我人らしい怪我人もほとんど居なかったんだと」
「ハヤトたちって本当に正義のヒーローなの! 福岡市はハヤトたちの活躍で守られているの!」
「まあ、俺だけの活躍じゃねーさ」
でも、そう言ってもらえると嬉しいよな。誰にもわかってもらえない秘密のヒーロー活動だけに。
「ううん。やっぱりリーダーのハヤトあっての仲間たちだと思うの」
スエはまた柔らかな表情で微笑んだ。こんな風に俺をホメてくれるときのスエは、ちょっと表情が大人びる。
それまでご機嫌に話していたスエの顔が少し曇った。
「……………………」
「どうした? スエ?」
「うん……アタシにもアリバがあれば、ハヤトと一緒に戦えるのになあ」
「スエ……」
「まあ、アタシにはアリバなんてきっとないけどね」
「そんなことはねーだろ? ナミによると、あともうひとり火属性が仲間になるんじゃないかって」
「火属性?」
「今は、氷属性のヤノ、カムラ、カワハラ。風属性にコミネ、クリハラ、ヤギハラと三人ずつ。けど火属性はシンジローとシモカワのふたりだけなんだ。ナミが言うには、もっとも強固な図形は三角形……【デルタ】なんだと。だから、火属性があとひとり入らないと、バランスが悪いって」
「あとひとりの火属性……」
「それ、案外、スエかもしれないぜ。スエは明るいし、優しいし、なんか太陽みたいだからな。属性は火なんじゃないかって、俺は勝手に思ってる」
「ハヤト……」
スエは目を細めた。そして、ちょっと寂しそうに笑った。
「ううん。アタシは『火』なんかじゃないの。アタシって、本当はすごくネクラなのっ。自信もないし、ひとと接するのニガテだし、引っ込み思案だし……。だから、ずっと本ばかり読んで、インナースペースにこもって生きてきたの。このバイトだって、そんな自分を変えたくて応募したの……」
「え? ぜんぜんそんな風には見えないけどな……」
「これ、ハヤトと話してるからなの! なんか不思議なの! ハヤトと話してると、違う自分になれる気がするの! なりたかった自分になれる気が」
「そっか……」
こういうとき、スエみたいな子には、なんて言えばいいんだろう……?
そのとき、セーブカンパニーの例のグラマラス美女スタッフから、声がかかった。
「広井さーん。五番対応お願いしまーす」
「あ。いけない。おしゃべりに夢中になっちゃったの……!」
「だな」と俺もGショックを見た。こりゃまたナミがご立腹だ。
「あ。ハヤト。……ごめんね。とつぜんへんなこと言っちゃって……迷惑だったよね……?」
「いいや。スエの個人的な話が聞けて、嬉しかったよ。なにしろ、俺の話ばかりしてるからな。……またスエ自身の話、聞かせてくれたら俺も嬉しい」
「……………………」
「じゃあな。これからもセーブ頼むぜ」
「あ、は、はい! またのご来店、心よりお待ちしておりまーす!」
第3話 【東和高校夏の陣】 終わり
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第4話 【爆弾狂騒曲】 に続く
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