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10-1 策略


キャラ (16)


「今はとにかく戦うしかねえ」とハヤトは言った。

「『教団』とは、いつか決戦のときが来る。戦えるだけの強さを手に入れたら、すべてを話すから」とナミは言った。

 俺はそんなふたりに流されるまま、悪意との戦いを続けている。

 握力計を指だけでつまんだ。

 200キロまで計測できる握力計は、かんたんにヒシャげた。

 俺は、強くなっている。

 もともと腕力には自信があったが、アリバというチカラに目覚め、悪意たちと戦って経験を積み、我ながら人間離れした強さを身に着けた。

 腕力だけなら、福岡ファイターでもトップだろう。

 だけど……俺は……自分がほんとうの意味で強くなっているとは、思えなかった……。

 たとえば、ハヤト。

 アイツより俺のほうが体格はいいし力も強い。だが、福岡ファイターの誰もが、俺よりハヤトのほうが強いと思っているだろう。

 俺だって、その通りだと思う………。

 わからない。強いって、なんなんだ……。

 福岡市じゅうを駆け巡り、

 悪意たちとの戦いに明け暮れ、

 夏が過ぎていく……。
 
 俺の迷いとは裏腹に、時は経っていく……。

 モトカノのサユリからとつぜんの連絡があったのは、そんな、残暑の厳しい、ある夏の朝だった。


風景 (1)


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「……ヤノくん? ……ひさしぶり。げんき?」


キャラ (16)

「さ、サユリ……」


「いきなりだけど、今日の昼過ぎ会おう。ハピネスで待ってる」

 一方的に告げられ、電話は切られた。

 別れを告げられたときと同じく、一方的に……。


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風景 (21)


キャラ (1)

「ハッキリ言うが、俺は反対だぜ。会うんじゃねえ」


 ……その日、いつものようにカタギリ家に集まった俺は、こっそりハヤトにサユリからの電話のことを打ち明けた。


キャラ (4)

「け、けどよお……あの様子、なにかワケアリと思うんだよお」


「だろうな」

「だったら、何かして、支えてやりたいんだよお」


pハヤト

「アホかお前は」


 ハヤトならハッキリした意見をくれる……と踏んだのだが、ハッキリ言い過ぎるのが、コイツの悪いところだ……。

「支えきれなかったから、こじれて、別れたんたろうが。吹っ切れたって、動物園で言ってたのは嘘か?」


pヤノ

「そ、そうだけどよお……」


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キャラ (1)

「……ったく。お前もお前だが、あの女もあの女だ。勝手にもほどがあるだろ」


キャラ (4)

「…………うう…………サユリを悪く言わないでくれよお」


「ふだんならまだしも、俺たちゃ悪意と戦って福岡市を護ってんだぜ? ただでさえ問題山積みだってのに、切り込み隊長のお前がそんなんじゃ、高校生どもに示しがつかねーだろ」

 ……こころをえぐる言葉をズバズバ言ってくるハヤトだが、正論かつ説得力があるから、タチが悪い……。

「とにかく会うな。いいな? それがお前のためでもある」

 ……釘を差されてしまった。

 そして俺は、ハヤトにサユリと会う場所と時間を聞き出された。



キャラ (1)

 ……ったく。こっちは、アリバのこととか、ホクトのこととかで、頭痛いってのに……。


 ため息をつきながら、俺はサユリに会うため、ハピネスに向かった。

 あのメンヘラ女と、気弱なヤノとの相性は、サイアクだ。

 ああいう女は、好き勝手させてペースを握らせたら、どこまでも悪いほうに引きずられちまう。

 なのに、ヤノみたいなヤツは、それをガツンと止めることもできねえ。

 ま、だからこそ、ああいう女は、俺みたいなタイプを毛嫌いして、優柔不断なヤノみたいなタイプに近づくんだろうけどな。


ハピネス駐車


風景 (12)


 クーラーの効いたハピネス店内に入った。

 マユは居ない時間帯だから、安心して店内をズカズカ歩く。


キャラ (1)

「よう」


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「……ハヤト……さん?」


「ここ、失礼するぜ」

 俺はそう言って強引にサユリの前に座った。

 ジッとやぶにらみされるのを無視して、ウェイトレスにアイスコーヒーを頼む。


キャラ (1)

「……言っておくが、ここに来たのは俺の意思だ。アイツに頼まれたわけじゃねえ」


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「……どうしてハヤトさんが来るの?」


「お前にアイツと関わって欲しくねーからだよ。お前ら、もう別れたんだろ? しかも、お前からの一方的な宣告で」

「…………関係ないでしょ?」

「大アリなんだよ。俺たちは今、重要な案件に関わってる。アイツもそのメインメンバーなんだ。今、アイツを振り回してもらっちゃ迷惑なんだよ。だいたい、別れた理由ってのも、完全に逆恨みじゃねえかっ」


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e_47_boss_サユリ

「けど! ヤノくんがもっと真剣にワタシを見てくれていたらっ!」


pハヤト

「これ以上ないほど、真剣に見てただろ。アイツなりにな。それ以上を求めるのは、酷ってもんだぜ? その不器用さも含めて、アイツだろうが……ん。ちょっと待て。電話だ」


 ケータイが鳴った。ナミからだ。なにも言わずに出てきたからな……。オカンムリらしい。

 俺は、「悪い。ちょっと」と言って席を立ち、ムワッと暑い外に出た。

 ナミに事情をはぐらかすのに少し手間取った。ことがヤノのプライベートだけに、ペラペラしゃべるわけにはいかねえ。

 電話を終えて席に戻ると、さっきまで剣呑な顔だったサユリは、妙にスッキリした物わかりのいい顔になっていた。


キャラ (1)

「?」


 熱い屋外ですっかり喉が乾いた俺は、残っていたアイスコーヒーを一気に飲み干した。

 サユリは、どこか熱っぽい顔で、そんな俺の喉元を見ていた。


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「……わかった。ヤノくんとは会わない」


 サユリが唐突に言った。

「……お、おう。そうか。いきなり納得してくれたな。まあ、それなら話が早え」

 俺は千円札をテーブルに置いて立ち上がった。


pハヤト

「……じゃあ、俺はこれでな」


e_47_boss_サユリ

「サヨナラ」


 こっちを見もせずに、サユリは言った。その口調はどこか満足げで、含み笑いしていたようにも見えた。なんなんだ……?


キャラ (1)

「約束したぜ? ヤノとはもう会うなよ?」


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「……そのつもりだけど、そういう風にはいかないかもね」


 去り際、サユリが小声で何か言ってたが、俺は構わずハピネスを出た。

 異変は、店を出てすぐに現れた。

「グウウウッッ……!」

 とつぜん目眩がして、目の奥が熱くなった。全身から力が抜け、冷や汗が吹き出す!



 な、な、なんだ……コレ…………。

「……ふうん。もう効いたのか。さすが教団特製の毒」

 嫌な気配を感じ、汗のしみる目で見やると、酷薄な笑みを浮かべたサユリが立っていた。

 おもむろにサユリが黒のカラコンを取る。

 真っ赤な瞳が現れた。


キャラ (1)

「…………て、て……てめえ……悪…意……」


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「こんなに計画通りスムーズに行くなんてね! アンタが現れたとき、笑いそうになっちゃった。ヤノくん使っておびき出す手間、省けた! しかも、みみっちく、毒入りアイスコーヒーごくごく飲み干してくれて! 吹き出しそうになるの、けんめいにこらえたよ!」


 ど、毒だと……? しかも……教団……?


pハヤト

「…………な、なんの……つもり……ぐっ…はぐっ


 心臓が痛え……。意識が……遠くなる……。


e_47_boss_サユリ

「アンタ、ワタシ嫌いだったでしょ? わかる! けど、ワタシもアンタ嫌いだったよ! 男は誰でも自分に一目置く。女はみんな自分に好意的。……そう思ってそうなとこ、ほんっとムカついてた! いい勉強になったでしょ。アンタを嫌いな人間も居るって!」


 ほくそ笑むサユリの声が遠く…。

 なにが……どうなってやがるんだ……。

 俺の意識は、そこで途切れた……。


メインキャラ (71)


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