4-3 悪意爆弾爆発寸前
福海大学は、巨大大学だ。
いくら11人もの大所帯とはいえ、手に負える広さじゃない。
ササハラの提案で、特に怪しい場所を中心に、渦巻きのように捜索範囲を広げていく手法を取った。なんでもFBIの捜査手法らしい。
コイツが来てくれて本当に助かったぜ……。俺たちだけだと、間違いなく当てずっぽうに探しまわっていたところだ……。
渦巻きの中心は、当然、爆弾魔と遭遇した講義棟。
そこから、俺たちは捜索を開始した。
シンジローたち第二チームが大学南東部。『外国語学棟』を中心とした一帯で、渦巻きの中心からは一番遠いエリアだ。
コミネたち第三チームは大学北西部。『文系講義棟』がある。文系学部のコミネには馴染みだけに、捜索もやりやすいはず。
そして、俺、ナミ、ヤノ、ササハラは、渦巻きの中心、一番可能性が高い『理工学部』エリアを捜索する。
工学部『第11号棟』をくまなく探し、次に理学部『第9号棟』へ。
早々にボスを倒して油断していたが、時折、悪意の福大生に襲われ、戦闘になった。
第一チームは、戦闘要員が俺とヤノしか居ない。属性は氷だけだ。
それで意外に苦戦し、手間取った。
だが、爆弾らしいものは見つからない……。
祈るような気持ちで、シンジローに電話をかけた。
「……シンジロー。そっちはどうだ?」
『ダメだ兄貴。それっぽいのはないよ』
ハヤト「『第一食堂』のほうも回ってみてくれ」
シンジロ『わかった。兄貴も気を付けて!』
コミネにもかける。
「……コミネか? そっちはどうだ?」
『ハヤトか。それらしいものはない』
ハヤト「『文系センター』を頼む。『天に轟く怒号』って文章がヒントだとしたら、文系センターが大学で一番天に近いからな」
コミネ『心得た』
そこへ、卓球ユニフォーム姿のカスガが通りがかった。
試合前でナーバスになり、散歩でもしているのだろう。
「あー。ハヤトー」
ハヤト「……よう。カスガ」
カスガ「なにやってんだー。さっきから妙にウロウロしてー」
ハヤト「……まあ、ちょっと、探しもんだ」
カスガ「相変わらず落ち着きないなー」
ハヤト「お前こそ、試合はどうした? あっさり負けちまったか?」
カスガ「いやー。なんとか勝ち進んでるよー。調子は悪くない。去年負けたワンくんにもなんとか勝てたー」
ハヤト「中国人選手に勝ったのか? やるじゃねえか。しかも去年負けた相手に勝てたのはデカいな」
カスガ「おー。なんとかこのまま勝ち進むから、決勝くらいはおまえも応援にきてよー」
ハヤト「……まあ、気が向いて、死ぬほど暇だったらな」
カスガは手を上げて、夏の木漏れ日の中に消えていった。
「ハヤト……いいの? このままじゃ……」
「……………………」
さらに捜索の範囲を広げた。
しかし、一向にそれらしいものは見つからない。
今にもどこかで爆発が起こるんじゃないかと、気が気じゃなくなってきた。他のチームから連絡がないのが、余計に焦りを生む。
そこで、ササハラが方針を変えようと言い出した。
「制限時間が迫っている以上、情報を分析・推理し、ピンポイントで捜索をするしかない。さっきから、ただひとつの手がかり『天に轟く怒号』について、ずっと考えていた」
「何か閃いたか?」
ササハラ「いくつか頭に浮かんだ仮説はある。しかしそれすら先入観かもしれない。だからお前の耳には入れたくない。その上で、ハヤトも考えてみてくれ」
ハヤト「頭使うのは、おまえのほうが得意だろ?」
ササハラ「確かに、記憶力や演算能力は私の方が多少はいい。だが、ハヤト。おまえには発想力や知的瞬発力がある。だからこそ、余計なことを聞かせず、思いつきを聞きたい」
「……………………」
「……最初はな、『花火』かと思った。けど、革命だの思い知らせるだの叫んでいた悪意が、夜まで悠長に待つとも思えねーし、今日は花火が上がるようなイベントもねえ。そうすると、他に『天に轟く怒号』といえば、校内放送や非常ベルくらいしか……」
イベント……? 校内放送?
「なにか思いついたのか?」
ハヤト「インカレだ……。今日の日程は、テニス、水泳、卓球、柔道……スケジュールの一番最後にくるのが『卓球の決勝』! 今日最後の試合だけに、会場の記念講堂には、他の種目の参加者や関係者、応援なんかが集まる! 相当やかましい声援になるぜ……!」
ササハラ「ふむ。レトロな手だが、音量センサーかもしれんな」
ハヤト「自己顕示欲の強そうな男だっただけに、大勢集まるタイミングを狙ってもおかしくはねえな」
「は、ハヤト。卓球って言ったら……」
「ああ。こんなカタチで、アイツが関わってきやがった……!」
カスガは順当に勝ち進み、決勝までコマを進めている。間に合うか……。
俺たちは卓球の決勝が行われる『第一記念講堂』へと急いだ。
◆
第一記念講堂に着いたとき、俺は、自分の判断が大間違いだったことに気付いた……。
人、人、人……。
周辺は人間であふれかえっている。
こんな中、爆弾なんて探せるのか……!? いや、それ以上に、こんな大勢の中で爆発したら、とんでもない被害になる。
そもそも、今さら避難なんて、とてもさせられねえ……! パニックになっちまう!
「ハヤトー。なんだかんだで、やっぱり来てくれたのかー」
「カスガ……」
カスガ「顔が暗いぞー。なんか、今から試合があるおれより緊張してないー?」
カスガ! ここはもうすぐぶっ飛ぶ! 危ねえから早く逃げろ!
……そのセリフを、この期に及んでも、俺は出すことができない。
ハヤト「……………………」
カスガ「んー。どうしたんだー。コワイ顔してー?」
ハヤト「……カスガ……おれは……」
カスガ「さー。もうすぐ試合開始の号砲が鳴るし、そろそろアップもしとかないとー」
ハヤト「!? カスガ!」
カスガ「な、なんだー?」
ハヤト「いまなんて言った!?」
「え。だから、試合開始の号砲。日程の最終プログラム開始の合図だよー。記念講堂の隣の広場で花火を打ち上げ……」
「……くそッ! 読み違えてた!!」
昼に上がる花火があった! 音花火だっ!
「広場に行くぞ! 『天に轟く怒号』はそこだ!」
ナミ、ササハラ、ヤノの反応もろくに見ないまま、俺は記念講堂から走り出た。全速力で広場へと向かう!
どこだ……? どこにある……!?
広場にはテントが多数建てられ、出店もあって、学園祭みたいな雰囲気だ。
考えろ。こんな中、どうやって爆弾なんて仕掛ける?
しかもあんな目立つ法衣姿だった。ひと目があるうちは仕掛けていない。
つまり、テントが設営される前。最初からここにあったもの。
……閃きがあった。広場中央にそそり立つ時計台!
ちょうどそのとき、ナミたちが到着した。
「は、ハヤト! 爆弾は……!」
「ナミっ。たぶんあそこだ。時計台!」
「ハヤトよお! 時計台の上のほうに、それっぽいのが設置してあるぞお!」
ハヤト「当たりか! ……ヤノ! あそこまで俺を飛ばせ!」
ヤノ「わ、わかったぞお……」
ヤノは俺の身体を持ち上げる!
「フンガアアアアアッッッッ!!」
人間ロケットのようにヤノにぶん投げられる俺!
高さ十メートルほどの時計台の上にしがみつき、なんとか着地!
あった! スピーカーみたいなセンサーの付いた、いかにもな爆弾。これに違いねえ!
俺とヤノの人間離れしたパフォーマンスに広場が騒然となる。だが、今はそんなこと気にしている余裕はない!
俺は時計台の上から爆弾を持ってヒラリと飛び降りた。
「あったぞ!」
「ハヤト。もう花火が上がるぞ」
「時間がねえ! ヤノっ、なんとかお前の氷のアリバで……」
「……ああ……! そ、そんなことって……」
ナミが絶望的な声を出した。
「どうした!?」
ナミ「この爆弾はただの爆弾じゃない! 悪意のエネルギーが込められている! しかも、属性は……『風』!!」
ハヤト「風だと! てことは……」
ナミ「氷じゃ防げない! 炎系かせめて風系じゃないと!」
全身の血が冷たくなったようだった。今、ここには氷のヤノしか居ない。炎も風も、みんな別のチームだ……。
「は、花火が……上がる……」
もう、こうなれば、残る手段はひとつしかねえ!
俺は、爆弾を自分の腹に抱え込んだ。
ハヤト「ナミ! ササハラ! ヤノ! できるだけ離れろ!」
「なにするつもり、ハヤト!?」
「俺は無属性だ! 俺のアリバでなんとか爆弾を抑え込む!」
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