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幕間9 その名は【福岡ファイト!】


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キャラ (8)


 ホクトが去り、静けさを取り戻した夜の展望台で、おれは兄貴を抱き起こした。

キャラ (1)

「…………ん……くっ……」


キャラ (13)

「あ、アニチッ! 目が覚めたっ?」


「俺は…………?」

 兄貴はコンクリの床に尻を着いたまま頭を振る。

「…………俺は…………ホクトの野郎に……やられたのか……?」

「お、おぼえてないのっ?」

「………………………………」

「………………………………」

「…………また負けちまったのか……俺は……」

 露骨に悔しさのにじんだ顔。アニチのそんな顔、初めて見る……。


pハヤト

「くそっ! ……最近、負けてばっかじゃねえか、俺……こんなんじゃ……」


pシンジロー

「アニチは負けてないよっ」


 おれの口が勝手に開いていた。

「覚えてないかもだけど、ギリギリのところで、アニチの必殺のカウンターが鋭くヒットして、ホクトはもうフラフラだったんだっ。そこをおれが、ボガリと後ろから殴ってねっ! 致命的なダメージ食らって、スゴスゴ逃げてったよ!」

「シンジロー……お前」

「アニチは強い。ホクトよりもぜったいに強いっ。おれはそう思うっ」

 しばらくの無言。

 やがて、兄貴は苦笑して、肩をすくめた。


キャラ (1)

「…………そうか」


キャラ (3)

「…………そうだよ」


「……で」

「え?」

「……福岡ファイター脱退、って話だよ」

「……あ」

「お前な、『脱退』くらい漢字で書けよな。恥ずかしい」

「…………アニチ。すまねえーーーー。おれ、ちょっと、焦って、悔しくて、いろいろと悩んでて……それで」


pハヤト

「ばーか。お前だけじゃねえよ。みんなだってそうさ。……だから、俺たちには強くなるための時間が必要なんだ。そのために、毎日悪意と戦ってんだろうが。なのに、ひとりだけへんに焦りやがって」


pシンジロー

「ご、ごめん……」


「で、どうすんだ? 辞めるなら止めねーぜ?」

「あ、いや! おれ、やめたくないっ! みんなと一緒に……アニチと一緒に戦いたいよ! 福岡ファイターに戻りたいっ!」

「だったら、『必殺パンチ一発の刑』で勘弁してやろう」

「げえええええええ!! マジかっ。……でもいいよっ。それで許してもらえるなら!」

 さすがは兄貴っ! ようしゃがないぜえええっ!


pハヤト

「オラっ! 歯ぁ食いしばれッ!」


 ドガッ。


pシンジロー

「ぎゃっっ」


……アニチの必殺パンチがおれの顔面を撃ち抜いたとき、おれにもようやく実感できた。

 ……アニチにはアリバがない。これは、ナミさんから借りた、カリソメのチカラにすぎないんだと……。

 おれは「ぎゃひー」とワザとぶっ飛びながら、それでも満足だった。

 アニチにアリバがなくたって、アニチの強さと頼もしさには、なんのかげりもない! 福岡ファイターのリーダーは、兄貴以外にありえない!

「おい、お前、なに殴られてニヤニヤしてんだ……?」


キャラ (13)

「エヘヘヘ。やっぱりアニチの必殺パンチは気持ちいいなあ」


キャラ (1)

「うげっ。前々から思っていたが、やっぱりお前、バカだろ?」


「そうだよ! おれはバカだよ! だからこれからも、アニチのデキの悪い弟として、バカみたいについていくよっ。

 福岡ファイターで一番のお荷物かもしれないけど、それでもみんなの足を引っ張らないように、せいいっぱい頑張るからさっ」

「チッ……勝手にしろ」

 おれたちはふたりで展望台の階段を下りた。

 下りながら、前を歩くアニチの背中を眺めた。


pヤノ

「……おぉぉーいぃぃ……」


pクリハラ

「……シンジローぉぉ……」


pシモカワ

「……シンジロー……!」


pヨシユキ

「……ここに居るんですなー?……」


 夜の鴻ノ巣山の森の中。遠くから、おれを探す仲間たちの声が聞こえてくる。


キャラ (1)

「……みんな心配して、さんざん探し回ったんだぜ。あのカムラとカワハラですらな。……お前、こんなにみんなから愛されてんだ。……『自分は必要ない』なんて、二度と思うんじゃねえ。いいな?」


キャラ (3)

「オウヨッ!」


 もうおれは自分が福岡ファイターに必要ないなんて思わないっ。

 アリバのないアニチのぶんまで、必死に戦う! できることで役に立つ!

 今回のことで、おれはますますアニチが好きになった! 福岡ファイターが好きになったっ!

 けど、こうも考えた……。

 兄貴に『こころのチカラ』がないなんて、やっぱり信じられない。

 ひょっとしたら……

 ひょっとしたら、兄貴の中には、もっとスケールのデカい、アリバとか悪意とかの枠組みすら超えた、おそろしいほどの何かが眠っているんじゃないか……?

 おれが自分のアリバを抑えていたように、兄貴もまた、そのチカラを抑えつけ、出さないようにしているんじゃないか……?

 ホクトの言ってた『狂気』……

 誰かが仕組んだ『ゲーム』……

……『教団

……『神気取りの男・アシラギ

 ……気になることはたくさんある。

 だけど、おれはアニチのそばで、それを見定める。

 逃げずに、最後まで戦い抜いて、おれのこの目で、すべてを見届けるっ。

 そして……


キャラ (3)

「ねえアニチ」


キャラ (1)

「んー」


「おれ、このアリバの戦いが終わったら、ゲームを作ろうと思う。コーヅマハギタっていういい仲間もできそうなんだ」

「ほー。ゲームねえ。そーいや、昔からお前の夢ったっけな。ゲーム作り

「うんっ。おれたち福岡ファイターの戦いを題材にした、古きよきアドベンチャーゲーム。……タイトルだけはもう決めてあるんだ」

「なんていうんだ?」


pシンジロー

「『カタギリファイト!』」


pハヤト

「……おいおいっ。俺たちの実名かよ? せめて、少しボカせっ。そうだな……【福岡ファイト!】とかよ……」


「いいね! 【福岡ファイト!】 ……おれ、頑張って作るよ。おれたちの過ごした、この夏休みを、みんなで過ごしたこの日々を……

 ……いつかオトナになって、オッサンになって、懐かしく振り返れるような……そんなゲームを……」


 何年かかっても、何十年かかっても、どんなカタチであっても。

 かならず完成させてみせる。

 おれたちの福岡市を舞台にした、おれたちの夏休みの冒険……

 その名は【福岡ファイト!】

 ……その主人公はもちろん……


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第9話 【アリバが消える日】 おわり


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