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8-1 惑いの剣士ヤギハラ

風景 (1)


 今日も今日とて、悪意退治。

 にぎゃーーーーい。ちっとも楽しくにゃーーーーい。


キャラ22


 だいたい、おれはいったいなにをしているのだろう?

 ハヤトさんに命じられるまま、悪意とかって、ワケのわからない連中と戦うハメになった。

 その理由も、悪意がなんなのかも、聞かされていない。

 どうしておれなんかが? と思うけど、ハヤトさんとそのパートナーである謎の美女ナミさんは、


キャラ (1)

「おまえにはアリバがあるからな」


メインキャラ (12)

「そそそ。あるからね」


……と、ぜーんぜん説明になってないことを口走る。

 そして、おそろしいことに、この戦いに巻き込まれたハヤトさんの友人たちも、おれたち東和校生も、その明確な理由を知らないのだ。

 知らないまま、日々、暴行傷害・器物破損・不法侵入を繰り返しているのだ……。


pシンジロー

「ヤギハラ! そっち行ったぞー!」


 シンジローの声で我に返った。




bk_3_1_高宮駅


 夏の昼間の高宮駅。

 いつもだったら、100円ラーメン『勝龍軒』にでも立ち寄る、平和な場所なのに……。

 目の前には、真っ赤な目をしたチンピラが……。タトゥーにピアスという、半径5メートル以内にも近づきたくない相手……。


pヤギハラ

「ひ、ひいいいいいい!!」


 思わずブンブン振り回した竹刀が、敵の腕にピチッと当たった。

 怖い目でギロリとにらまれる……!

 い、いやじゃーーーーーーー。もう帰りたーーーーーーい。


pシモカワ

「…………燃えろおおおおッッッ!!!」


 ズバアアアッッッ!!

 オレンジ色の熱風が目の前を通り過ぎた。


キャラ (8)

「燃えろッ! 燃えろッ! 燃えろおおおおッッッ!!」


 シモカワが悪意をズバズバ斬りまくっている。

 その鬼神のような動きに、おれはオシッコちびりそうになった。

シモカワ「……ヤギちゃん。大丈夫?」

 別人のような爽やかな微笑みが、おれに向けられる。

 何があったか知らないけれど、後輩の女の子と逃げ出した夜以来、シモカワは変わった……。

 ……いや、みんな少しずつ何かが変わってきている。

 おれだけが…………なにも変わらない。

 相変わらず、みんなの足を引っ張るザコのまま……。


pヤギハラ



 結局その日も、おれはみんなの足手まといだった。

 そしてその夜。

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「……こ、こってえーーーー」

 ぴしりっ。

 解散したあとおれは、カタギリ家近くの公園『多賀緑地』に来ていた。

「……こってえーーーーーー」

 ぴしりっ。

 コソ練すれば、この弱腰が治るかな、と考えて。


キャラ22

「……………………………………」


 反撃してこない木にすら腰が引ける、この情けなさよ……。

 ほんとうは頭の中に、正しい身体の動かし方、剣撃のハッキリした筋が、見えている。

 なのに、ビビッて踏み込みが足りず、その動きができない。

 ……理由はわかっていた。


 目の前の木々が、モワモワと人間の姿へ置き換わる。

 おれをイジメた、あの三人に……。

 中学時代、おれはイジメられっ子だった。

 おれに目をつけたのは、ゴツい運動部の三人組。

 おれはそいつらに、パシリ、代返、当番の押し付け、日々のストレス解消と、ひと通りのイジメを受けたのだ。

 そして、あの事件が起きた……。


pヤギハラ


 そうじ時間。無理やりホウキを持たされたおれは、三人にチャンバラを強制された。

 三人はゲラゲラ笑いながら、おれをホウキで叩きまくった。

 そのとき、突然おれの身体が無意識に動き、そのうちひとりを、上段斬りにぶっ叩いていた。

 相手はそのままコントウしてしまった。

 残った二人は激怒し、おれはボコボコにされた……。

 そして、その日からさらにイジメは激化したのだった……。

 おれが東和を受験したのも、同じ中学の出身者がほとんど居なかったから。

 ここで、シンジローと出会い、ヨシオさんや、クリハラ、カムラやシモカワと仲良くなって、ようやくおれの暗黒時代は終わった。

 そう思っていたのに……。


キャラ22

 ……おれの弱さが、おれの情けなさが、またおれを苦しめる……。


 たぶん、おれがイメージ通りの太刀筋を出せないのは、相手からの反撃が怖いからだ。

 本気で攻撃したら、相手を怒らせる。そして、またあのときみたいに、痛い目にあわされる……。だから、消極的な小手しか狙えない。


pヤギハラ

「こんなおれに、戦いは無理じゃよ…………」


 決めた。

 明日こそ、ハヤトさんに直談判して、

 アリバのメンバーから脱退させてもらおう…………。



そして次の日。




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pヤノ

「ハヤトよう。どうする? このままじゃアミカスの客たちが逃げ遅れるぞお……!」


キャラ (1)

「………………………………」


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pシンジロー

「あ、兄貴ぃぃぃ! やばいよっ! 西鉄名店街で悪意が暴れてるっ。もうだめだーーーーー」


キャラ (1)

「………………………………」


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pナミ

「ハヤト! まずいっ。あの悪意は、今までのとはちょっとワケが違う……!」


キャラ (1)

「………………………………」


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pシモカワ

「ハヤトさん! ガンガンいきましょう! 今はとにかく動いていたいんです!」


キャラ (1)

「………………………………」


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pカスガ

「ハヤトー。カムラとカワハラがまた逃げたー。あと、ヤギハラが敵に囲まれてピンチだよー。どうするー?」


キャラ (1)

「………………………………」


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pクリハラ

「ムホホ! ハヤトさん! 女子大生グループが襲われています! たまには、助ける見返りを要求してもいいんじゃないですかねえムホホ」


キャラ (1)

「………………………………」


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pカムラ

「ヌヘヘ。もうやってらんねーつーのっ。敵に寝返っちゃおっと……」


キャラ (1)

「………………………………」


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pカワハラ

「ハヤトさーーーん。ちょっとおれ、ビデオの予約忘れとりました。いったん抜けてよかですか?」


キャラ (1)

「………………………………」


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pコミネ

「ハヤトよ! このコミネ、昨夜は徹夜して、我々のテーマソングを考案してきたぞ……!」


キャラ (1)

「………………………………」


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pヨシユキ

「ハヤトさん! おそそもん!」


キャラ (1)

「………………………………」


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pヤギハラ

「は、はは、ハヤトさあーーん。じつは、折り入ってお話が……」


キャラ (1)

「…………っっ!!!!」


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pハヤト

「…………いいかげんにしろおおおおおおおお!!!!」


「「「「 !!? 」」」」


キャラ (1)

「てめえら、なにかと言えばハヤトハヤトって、ホイミスライムのホイミみたいに連呼しやがって! なんでもかんでも、俺に頼ってんじゃねええええええ!!」


キャラ (3)

「あ、兄貴……?」


ハヤト「もうお盆だってのに、連日、悪意悪意だっ! 夏なのに、なにもできやしねえ!」


メインキャラ (12)

「は、ハヤト……いきなりどうしたの……?」


ハヤト「シンデレラパークだってそうだ! 俺だって、本当はいろいろ乗りたかったんだよおおおお!!」


キャラ (4)

「……やっぱりそうだったんだなあ……そうじゃないかと思ったぞお」


pハヤト

「このままじゃ、夏が終わっちまう……! 決めたぞ! 今日は遊ぶ! 悪意なんかもう知らねー! お前らで勝手にやってろ! 悪意ボイコットだ!」


みんな「「「「「え、えええええええええええ!!!」」」」」


 にぎゃーーーーい。このひと、いきなり、なに言ってんの?


メインキャラ (12)

「は、ハヤト……ちょっとまって! そんなこと……」


キャラ (1)

「ナミ!!」


ナミ「は、はいっ?」

ハヤト「海に行くぞ!」

ナミ「え?」

ハヤト「俺のバイクに乗って、ふたりで海に行こうぜって言ってんだよ!」

ナミ「え、そ、そんな……でも」


pハヤト

「すぐ行くぞ! 来いッ」ぐっ。


pナミ

「あっ……そんな……強引に……!」


 いきなりキレたかと思えば、わけのわからないことを我々に言い残し、青いバイクに向かって、ズンズン歩いていくハヤトさん。


バイク


 あっけにとられるおれたちの視線なんてどこ吹く風。さっそうとバイクにまたがると、ヘルメットをかぶり、サングラスをかけ、叫んだ!


キャラ (1)

「俺たちは志賀島でサマーバケーションだ! あばよ! おまえらは好きなだけ悪意と遊んでろ!」


キャラ (21)

「…………だ、だめっ。だめだよナミっ。こんなことしてるときじゃ……でもっ。夏の日差しがっ。夏の海の誘惑がっ。ボクを……ボクをダメにする……!」


 口元をニヤけさせたナミさんを後ろに乗せ……

 ハヤトさんのバイクは、風のように去っていった……。

 おれたちを無理やり巻き込んでおきながら、勝手にキレて、勝手に放り出し、勝手に女の子と海に行ってしまわれた……。

 くうううう。あんなふうに生きてみたいっ……!


キャラ (8)

「……あーあ。行っちゃった。……でも、たしかにハヤトさんはリーダーとして、ずっと頑張ってたもんな……」


キャラ (6)

「そうだねー。いちばん最初にナミと出会ったハヤトは、オレらの中でもいちばん長く戦ってきたしねー」


キャラ (3)

「おれの知ってる兄貴なら、もっと早くにキレてもおかしくなかったよ」


キャラ (11)

「ならば、こういうのはどうだ?」


 ササハラさんが言った。このひとはふだん影が薄いけど、一度口を開くと妙な存在感というか、影響力を発揮する。


ササー

「我々も志賀島に同行するんだ。ハヤトとナミに悟られぬよう、少し離れて。そして、ひそかに周囲で悪意を討伐し、ハヤトたちがゆっくり海水浴を楽しめるようにする……もちろん、海パンとサンオイル持参でな


pシンジロー

「ヒャッホーーーイ! おれは超・賛・成! それなら兄貴に休みをあげられるし、おれたちも海で遊べる! さすがササハラくん、一石二鳥だよ!」


pヤノ

「ったく……しかたないな。俺はどっちでもいいぞお」


pクリハラ

「ムホホ! いいですねえ。実にいいですねえ。たまにはエロゲギャルじゃなく、リアル女子たちも視姦したいってものですよ」


pヨシユキ

「福岡市はおれの街。志賀島はおれの海ですな」


pコミネ

「ヌウウウッッッ。ナミの水着……? ナミの水着をこのコミネも拝めるというのか……! あとで妙な課金とかないだろうなっ!?」


 ……そしてコレ。

 好き勝手しても、周囲がそれを許し、気まで使ってくれて、けっきょく自分のペースで話が進む……。

 ハヤトさんのこういうところ、おれとはぜんぜん違う。

 持って生まれたもの、と言えばそれまでだけど、あまりの不公平さに、神を呪いたくなる。

 なんだか、また勝手に話が進み、みんなで志賀島に行く流れになりそうだし……。ハア。面倒くさい……。


キャラ22

「あのー。おれは個人的には反対というか、そもそも海とか興味ないし、水に浸かるのは、風呂だけでいいというか……」


 もちろんだれも聞いていない。

 唯一、ハヤトさんに逆らうカムラはどうかと、期待してチラッと見た。


キャラ (192)

「……ヌヘヘヘ。夏の志賀島。女子高生も、女子大生も、おミズも人妻も、水着でビーチにうようよ。そりゃ反対する理由はないっつーの……!」


キャラ (18)

「カムラが賛成ならおれもー」


 ダメだ……。なにが水着だ。そんなものどうでもいい。クーラーの効いた部屋で、ゲームでもしてるほうがずっと楽しい。

 おれの存在意義って……

 おれの戦う理由って、いったいなんじゃろ……


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