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ジェフリー・アーチャー『ロフノフスキ家の娘』感想

 ジェフリー・アーチャーはイギリスの作家で、80年代頃には世界的なベストセラー作家でした。イギリスやアメリカの政治やビジネスの世界を、スケール大きく、適度な現実味を持たせて書き、一流のエンターテインメントに仕上げていました。

 考えさせる要素もあるけれど、楽しんで読める。そんな小説でしたね。

 そんな英国作家ジェフリー・アーチャーの『ロフノフスキ家の娘』の感想をお送りします。もう読んだのが三十五年前くらいになりますが、記憶に頼って書いてゆきたいと思います。間違っている部分もあるかと思いますので、何とぞご容赦を。

 この物語は本が書かれた時代と同じく、80年代のアメリカを舞台にした、政治がメインテーマの物語です。アメリカ初の女性大統領となった架空の女性の半生記として書かれています。

 一番今でも印象に残るのは、民主党の(実在の党名そのままです。政策の方向性も現実にかなり忠実に書かれています)国会議員になった主人公と、共和党にいるライバル議員とのやり取りです。

 主人公は若き新進のリベラルな女性議員、対するは、老年期に入った大ベテランの保守的な男性議員です。

 アメリカは二大政党制といって、共和党と民主党という二大政党が対立し合う事により、国全体のバランスを保って運営されています。他の政党を創る自由はありますし、実際創られましたが、どうしても既存の二大政党には勝てない現状です。

 なので、現実的なやり方としては、二大政党のどちらかに所属して、何とか自分や支持者の考えを通すようにするしかないのです。それは小説の中も、アメリカの現実と同じです。

 主人公と共和党ライバル議員とは、お互いに心からの敬意を持ちつつ、いざ議場に立てば容赦なくやり合う間柄です。

 今となってはなんてことはないかも知れませんが、当時の私には実に新鮮な関係性でした。

 現実のアメリカの政治家がここまで理想的な関係でいられるのかは分かりませんが、ディベート教育などの成果で、意見への否定は言った当人への否定ではない、のは割と刷り込まれている人が多いようです。おそらくはイギリスでも同じだと思います。

 少なくとも、国会議員になれるほど教育を受けた層なら、それが常識のはずです。

 とはいえ現実の人間は、感情的になることも、自分の正しさや立場に執着することも当然あるのでしょう。

 小説に話を戻すと、特に今でも思い出すのは人工中絶に関する議論のシーンです。

 賛成派の主人公は「妊娠・中絶のリスクを負うのは女性なのだから、男性は口出しするべきではない」と言います。

 ライバル共和党議員は「そんなことを言ったら、宇宙開発などの国家的事業でも、当事者以外は口出し出来なくなってしまうな!」と返します。

 当時は主人公に共感していましたが、今は年をとったせいか、ライバル議員の考えも分かるようになりましたね。

 いろいろあって主人公はアメリカ初の女性大統領に就任します。ライバル議員からも祝福を受け、主人公の新たな挑戦が始めるところで話は終わります。

 十代の頃の思い出の小説です。しかし今となっては、この小説の女性主人公のような立場に憧れを抱く女性は実は少数派なのではないかと思うようになりました。

 ジェフリーアーチャーは男性作家です。おそらくは女性心理としてはリアリティがないと言われてしまうのでしょう。

 でも、私にとっては素晴らしい思い出の小説です。今は日本語訳は絶版になりましたが、今でも心に残る長編小説なのです。

 それではここで終わりにします。読んでくださってありがとうございました。

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