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オリジナル小説 ふたりぼっち#2

1:引っ越してきたばかりの二人。

 初夏の訪れとともに、二人の恋人たちはやってきました。灰村は黒い日傘を、伊織は白い日傘をそれぞれさしていました。生気のない青白い肌をした二人には、晴天というものは実に似つかわしくないのでした。
スーツケースを転がし、新居へと向かいます。

 こぢんまりとしたちいさな部屋でした。アイボリーホワイトを基調としたやさしい色をした部屋でしたが、こともあろうに二人はペンキを買ってきて、アイボリーホワイトの部分をすべて仄暗い色にしてしまったのです。
 引っ越し業者の手によって、灰色の家具が運び込まれました。数世紀前の病院に置いてあるような、味気ないガラスケースの家具もありました。
こうして、二人の手によって、アイボリーホワイトのやさしい色をした部屋は、廃墟と化したちいさな病院のように、とてつもなく味気ない部屋になりました。「これで、安心できるね」
 二人は顔を見合わせて、静かに笑いました。


 二人のあたらしい生活が始まりました。

以前住んでいたところでは自分の居場所を確保できなかった二人でしたので、このあたらしい土地でも他人を警戒していたのは想像に難くありません。

二人は、自分たち以外の誰にも心を開きませんでした。もちろん、いまこうして、おはなししている私にも。
二人は、人目を避けた暮らしをしていました。お昼過ぎに起きて、明け方に眠るという生活です。
時に、灰村も伊織も、日雇いなどで働くときもありました。ご覧のとおり、二人は痩身でしたから、重労働や肉体労働は決してしませんでした。

灰村も伊織も、自分たち以外の人間には触れようとしませんでした。肩を軽く叩いたり、挨拶としての握手も嫌がりました。
灰村は、自分の痩せすぎている肉体が嫌でした。それでも伊織はやさしく触れてくれるので、その時は安らぎで満たされました。

二人は、それぞれの家族や一族からつまはじきにされた人間でした。互いに家族の話はしませんでしたが、口にしなくても分かりきったことでした。二人は真の意味での家族を持たないことを。

伊織は短時間のバイトを始めました。簡単な事務作業の仕事です。あまり需要のある仕事ではなく、雑用しかしない日もありましたが、伊織はこの単調な仕事が好きでした。

この仕事を続けるために、伊織は夜型から朝型の生活に切り替えました。灰村も伊織に合わせて朝型に切り替えようとしましたがうまくいかず、朝に伊織を玄関まで見送ったのち、昼過ぎまで眠る生活を続けていました。

ここまで読んでくださって、ありがとうございます! より良い記事を書いていきたいです。