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【かすみを食べて生きる 17 一般病棟⑬ 】ワレンベルグ症候群による嚥下障害のリハビリなどの記録

脳梗塞 発症15日目:一般病棟13日目
・食事:飲み込みができないため絶飲食。鼻からの経管栄養と点滴での水分栄養を併用。
・状態:歩行練習中。日中、車いす自立。夜間、看護師付き添いでトイレ可。嚥下訓練は首を左に向ければ水分が少量飲み込めることがある。

リハビリ生活の余暇を考える私のもとに、ある人がやってきた。
この人との出会いは、その後の私のリハビリ生活に大きな影響を与えることになる。

<発症14日目:一般病棟⑫   
発症16日目:一般病棟⑭>


音楽療法士さん

「こんにちは~」
明るい声の女性が私のベッドに来た。
カーテンの中がふわっと明るくなったような気がした。
その方は音楽療法士の森崎さん(仮)だった。
持ってきたタブレットで患者さんの好きな曲を聞きながら、お話をしたりするという。
「好きな歌はありますか?」
急に言われても意外と思いつかない。
昨日見たドラマの主題歌が印象に残っていたのでかけてもらう。
曲を聞きながらいろいろなお話をする。
森崎さん(仮)は私と年が近いように見えた。
40代の私が入院中、同世代と会える機会は極端に少ない。
森崎さん(仮)と話をして、私はおしゃべりに飢えていたことに気づいた。
子どものことや音楽療法士のこと、音楽を聴きながら短い時間でいろいろな話をした。
病院の1階にリハビリ室があって、新型コロナの感染拡大がなかった時期は、入院患者もリハビリ室に行ってリハビリを受けていたことも聞いた。
「リハビリ室には楽器もあるんですよ。ウクレレとかもあります」
…ウクレレ!!
忘れていた。発症前私は、新型コロナの外出規制で家の中での趣味として独学でウクレレを始めていた。
このしびれる右手と失調のある左手で、また弾けるだろうか。
弾いてみたいな。
森崎さん(仮)はリハビリ室にあるウクレレを病棟に持ってこれるか確認を取ってみると言ってくれた。
自分の楽器を持ってきてもらえたら、森崎さん(仮)の来ている時間は音を出してもいいですよ、とも言ってくれた。
早速夫に「ウクレレ弾きたい!」とメッセージをした。

いちごれん乳プリン

「お誕生日おめでとうございます。今日はこれを味わってみましょう」
言語聴覚士の谷元さん(仮)がリハビリの際、イチゴれん乳味のプリンを持ってきてくれた。
この日、私は誕生日だった。

いちごれん乳プリン

「フルーツがたっぷりのったケーキというわけにはいきませんが、今日はこれで我慢してください」
今日私は誕生日。数日前谷元さん(仮)に、子どもが私の誕生日にフルーツがたっぷりのったケーキを一緒に食べたいと言っていると話したことを、覚えていてくれたのだ。
谷元さん(仮)ほんとにすごいな。
患者が雑談で言ったことを覚えていて、それをリハビリに取り入れた形でフォローする。尊敬しかない。
パッケージのいちごが輝いて見える。すごくうれしい。ありがたい。
これも基本は口に入れて噛んで出すのだったが、首を左に向けて飲めそうなら少し試してみてもいいですよと言われた。
試すとわずかだがのどを通った感覚があったが、すぐにむせてしまった。
でものどに固形物が通る感覚はうれしかった。
ありがとう谷元さん(仮)。
人がいい仕事をしているのを見ると、私も仕事をしたくなる。

転院日が決まった

調整を入れてもらっていたリハビリ病院の受け入れが可能になったらしい。
転院は一週間後。
決まると心持ちが変わった。
以前リハビリ病院に入院していた知り合いから、一日に何度もリハビリ時間があって忙しいと聞いていた。
私の勝手なイメージではリハビリ合宿。
同じリハビリの目的を持つ者たちが集い生活する場所。
あと一週間で、そこに行けるように準備をしなくては。


ーー振り返って

急性期の病院にいる間、私は同室の患者さんとはあいさつ程度で、できるだけ関わらないようにしていました。
同室に飲食をできない人がいることがわかったら、食事の時に気を遣わせてしまうのではないかと思ったからです。
それもあって会話に飢えていた私に、明るく元気な森崎さん(仮)とのおしゃべりは、なくしていたものの一つでした。

そして一つ年をとりました。
誕生日を喜ぶ年でもないのですが、すでに人生アディッショナルタイムなのかもしれないと思うと、生き延びれてよかったなとも思います。
子どもが成人するまでは、元気に動ける状態でありたいものです。


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