【詩】人のいない景色
昨日まで、人が忙しく通った道を
風の音だけが、吹きぬけていく
通り過ぎていった、お喋りと笑い声
熅れの名残を、拭い去ろうとするように
まだ、人がいなかった頃
道すじは、ケモノが踏んだ足跡だった
夥しい茂みが、秩序なくざわめいた
四角く区切られた、平らな虚空
乾いた、草も生えない空洞を
沈黙だけ、泳いでいく
後片付けをすることもなく
人は、忽然と立ち去った
脱け殻は、埋もれていくだろう
疚しい記憶を、隠すように
途方もない、手の届かない時間をかけて
それでも、傷跡は残るだろう
色褪せた未練を、引き摺りながら
©2023 Hiroshi Kasumi
お読みいただき有難うございます。 よい詩が書けるよう、日々精進してまいります。