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【詩】渇き

田んぼは 口を開けて
喉を干している
光のしぶきに
乾いた地肌をさらして
冷めた目を さぐっている
浮かんだ影のすき間を
雲の吐息が 舐めていく
目覚めを急いだ無数の命が
せわしなく啄ばまれ
競うように 失くしていく

涸れた土手で
緑と黄いろのとりどりが
背伸びをはじめている
ひたすら
風のゆくえを
見守り続けた 茅の穂が
疲れて ひれ伏する
茂みの裏で
抑えきれない
右往左往がうごめいている

山の眺めも 森の姿も
風のにおいも 空の高さも
凍えきった呪縛を解いて
回帰を急ぐ 陽の駆け足に
ゆっくり 鎧を開け放つ

追う風にあらがい
追われる風をやり過ごす
枯れた斜面の瀬戸際で
藪に吊られた赤いカラスウリが
雲の背中を見送っている

貫きとおす 陽のひかり
瞳の底は無防備だ
企みは すべなく挫かれて
いちめん 涙で満たすだろう
涸れた喉に身もだえして
届かない手を さぐるだろう

©2024  Hiroshi Kasumi

お読みいただき有難うございます。 よい詩が書けるよう、日々精進してまいります。