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【詩】上昇

深い森につつまれた
聳り立つ山にかかる雲
うっすらと、たなびいて
空を見上げて、およいでいる
天に吹きぬける、風の波
陽をよぎる、夏雲が
空のすき間を、手まねきする

谷から山へ、山から空へ
ひろく限りない、虚空をめざし
森のしぶきが、浮いていく
樹のこずえから、葉の茂みから
解き放たれた、いのちの汗が
切り立つ谷間を、のぼっていく

枝をわたる、鳥の叫びも
幹にすがる、蝉の声も
棚田を飛び交う、蜻蛉の羽音も
ほとばしる、流れの音色も
ひろがる空に、吸い込まれて

深い呼吸を、繰り返す
森にふる、樹々のにおいも
田畑にかよう、稲穂の息吹きも
蒼天の、高みをめざし
上昇気流に、はこばれて

空の底の、地べたに生まれ
人は、ひなたに憧れる
はるかに高い、まぶしさに
神の契りを、祈り願う

天地を、揺るがす雷鳴が
麓の眺めを、突き破る
通り雨に、洗われた
天にそびえ立つ、空洞を
風が、もろともに吹き抜けてゆく
沸き立ちのぼる、入道雲が
霞んだ、峰の連なりに
澄んだ虹を、かかげている

©2023  Hiroshi Kasumi

お読みいただき有難うございます。 よい詩が書けるよう、日々精進してまいります。