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【詩】冬木

冬の陽は、一日中傾いている
地を這う光は、力なく沈黙している
池の薄氷を、静かに舐めている
太い枝も細い枝も、素通しに透いて
裸の腕を、広々とさらけ出している
すき間の中を、通り抜けてゆく
音もなく駆ける、見えない風だ
風にのって、突きぬけてゆく
気配だけ、すべて空に包まれる
みな、口を閉じて立ちすくむのか
いや違う、無言の声を放っているのだ
空のひろがりに、吸い込まれてゆく
目の前で、何もかも吸い込まれてゆく

枯れた褐色の木々も
流れよどむ空気も
鈍く揺れる光も
長々とのびる影も
芽吹き始めた枝も
声を涸らすカラスも
行き場をさがす足音も

高い空に、のみ込まれてゆく
視線のむこうに、のみ込まれてゆく

冬の空は、押し黙っている
枝のふところで、落ちそびれた
枯れ葉が、所在なく揺れている
哀しさに、うち震えているのか
いや違う、今をみつめているのだ
空のひろがりを、受けとめている
じっと固まっていた樹々が
ゆっくりと、背伸びをはじめた
無数にのびる、たよりない指先に
いくつもの瞳で、空を見上げている
伸ばした腕は、自由をうたっている


©2022 Hiroshi Kasumi

お読みいただき有難うございます。 よい詩が書けるよう、日々精進してまいります。