【詩】入り江にて

南国、小さな入り江の浜で
穏やかに寄せる、波の音を眺めている
空は、青々と開けわたり
水面は、キラキラと陽に光る
絶え間なく注ぎ込む潮の流れは
風に運ばれているのだろうか
飽くことなく、繰り返す波頭が
過ぎていく、時を刻んでいる

秩序なく描いた雲間から
光の風が吹き抜ける
空と海を隔てる防波堤が
濃いシルエットで浮かんでいる

赤い船底の大きな汽船が
からだを休めて波止場にすわる
連なる山なみの懐で
夢にまどろんでいるのだろうか
明日の朝、港を旅立てば
大海の波に翻弄される
果てない孤独に耐えながら
潮に、道をひらいていくのだろう

打ち寄せる風、空わたる雲
入り江は、浜辺が横たわる吃水線に
静かな呼吸をたたえている

わたしは、砂浜に腰かけて
空の眩しさを浴びながら
明日への勇気をさがしている　
抱え込む空間に立ち止まり
雲の入り江に瞳を投げる
防波堤の向こうにあるはずの
水平線をみつめようと
岸壁の出口を手さぐりしている

©2023  Hiroshi Kasumi